柳谷智宣の「実は色々できるPDFの活用法」

【PDF化の応用・実践テクニック!】プレスリリースをPDF化するときに注意しておきたいポイント

巨大なファイルは大迷惑! アクセシビリティにも配慮したPDFを作成してみよう

 本連載「柳谷智宣の『実は色々できるPDFの活用法』」では、無料・有料のPDFツールを活用し、ビジネスシーンで活躍しそうなPDFのテクニックを解説していく。今までは、もらったPDFを閲覧することしかしたことがない、という人にぜひ読んでいただきたい。
今回はプレスリリースをPDF化するときに注意しておきたいポイントをご紹介する

 外部に公開するPDFは読む側が不便なく閲覧・利用できるようにしておかなければならない。

 WordやPowerPoint、PDF編集ソフトなどでPDFを作成する際、標準的な設定を利用していれば、ほとんど問題ないことが多い。しかし、企業がプレスリリースとして出すようなPDFファイルの場合、なんとなく大丈夫だろう、ではリスキーだ。きちんとポイントを押さえて最適な設定にしておこう。

 今回は、プレスリリースをPDF化するときに注意しておきたいポイントをまとめて紹介する。なお、紹介する手順は「Acrobat Pro」を利用している。

文書のプロパティでメタデータをチェック

 PDFファイルには文書の中身には表示されない情報が記録されている。例えば、PDFの[文書のプロパティ]を開いてみよう。タイトルや作成者、サブタイトル、キーワードなどにメタデータが記録されていることがわかる。

 テンプレから起こしたものだったり、ハンドルネームのような作成者名が入っていたら、目も当てられない。きちんと入力するというよりは、メタデータは削除した状態にしておいた方がよい。個別に手動で削除する手もあるが、見落としが発生しかねない。

文書のプロパティに変な情報が入っていたら恥ずかしいので削除しておくこと

 「Acrobat Pro」なら[PDFを墨消し]-[非表示情報をすべて削除]を選択し、[すべてを削除]をクリックすればメタデータを削除できる。

[PDFを墨消し]-[非表示情報をすべて削除]をクリックする
[すべてを削除]をクリック
メタデータがすべて削除された

巨大なファイルは大迷惑! ファイルサイズを圧縮

 PDFのファイルサイズもチェックしよう。高性能なPCやスマホであれば、数十MBのPDFでも楽々表示できるが、読者がみな余裕のある環境で閲覧しているとは限らない。公開時には、ファイルサイズを圧縮しておくことをお勧めする。

 方法は[PDFを圧縮]メニューから[単一ファイル]をクリックし、ファイルの保存先を選択すればよい。試しに、大きな画像を使った28.1MBのファイルを圧縮したところ、425KBになった。何の設定もせず、さくっと60分の1に圧縮できたのは便利だ。

[PDFを圧縮]メニューから[単一ファイル]をクリックし、保存先を選択する
左が元の状態、右が圧縮した状態のプロパティとなる。60分の1以下に圧縮できた

 さらに[PDFの最適化]を開くと、フォントやユーザーデータなど、さまざまなデータの圧縮設定を行えるが、効果が大きいのは画像データとなる。あまり設定をいじくりまわしても、ファイルサイズは変わらないので、標準設定で圧縮すればよいだろう。

 なお、標準状態で圧縮すると「Web表示用に最適化」も有効になる。ブラウザーでWebサーバーからPDFを表示する際、PDF全体ではなく要求したページのみを表示することができるので、快適に閲覧できる。Webで閲覧されることが想定されているなら、当然有効にしておこう。

文字化けしないようにフォントを埋め込んでおく

 プレスリリースは報道関係者が閲覧し、場合によっては記事執筆の参考にする。そのため、正確に表示され、テキストをコピーできる状態にしておかなければならない。

 重要なのが、表示するフォントを埋め込んでおくこと。通常、PDFファイルを生成する際は利用しているフォントが埋め込まれているはず。しかし、ファイルサイズをコンパクトにしようとフォントを外す設定にしていたりすると、トラブルが発生しかねないので、念のために確認しておこう。

 WordからPDF化するなら、[Acrobat]タブの[環境設定]から[設定]タブ-[詳細設定]を開き、「フォント」設定の「すべてのフォントを埋め込む」にチェックが入っていることを確認しよう。もちろん「標準」設定であれば、チェックが入っているはずだ。

「フォント」設定の「すべてのフォントを埋め込む」にチェックが入っていることを確認

 PDFファイルは文書の編集や印刷、コピーなどの操作を制限することができる。コンテンツの漏えいなどを防ぐために便利な機能ではあるが、プレスリリースとして公開するのであれば、外しておくこと。プレスが記事を書く際、固有名詞や数字など、ミスを防ぐためにコピー&ペーストするためだ。

テキストのコピーを禁止してはいけない

ページ数が多い場合はしおりをつける

 レポート資料など、ページ数が多い場合はしおりをつけておくと、閲覧する際に便利。目次のようにコンテンツを把握できる上、クリックすれば該当ページにジャンプできるようになる。

 しおりは「Acrobat Pro」などのPDF編集ソフトでつけられるが、WordなどからPDF作成時に自動でつけることもできる。例えば、Wordなら印刷時に[オプション]から「しおりを作成」-「Wordの見出しをしおりに変換」にチェックすればよい。

WordからPDFを生成する際に「Wordの見出しをしおりに変換」を有効にしておく
PDFにしおりが設定された
しおりの項目をクリックすると該当ページにジャンプする

 Wordで文書を作成する際、見出しには「見出し1」や「見出し2」といったスタイルを適用しておく必要がある。文字サイズを大きくしたり、ボールドにしたりするだけでは見出しとして認識されないので注意すること。

アクセシビリティに配慮したPDFを作成する

 企業が公開するPDFなら、視覚障がいや運動障がいのあるユーザーがPDFを閲覧する際のアクセシビリティを向上させる機能を有効にしておきたい。

 アドビが2023年12月に実施した「PDFファイルのアクセシビリティに関する調査」によると、Webサイト運営者の約6割(59.7%)がアクセシビリティ機能を利用しているという。

 まずは、作成したPDFのアクセシビリティ対応をチェックしてみよう。ツールから[アクセシビリティを設定]を開き、[アクセシビリティをチェック]をクリック。チェック項目が開くので、とりあえずはそのまま[チェック開始]をクリックしよう。

[アクセシビリティを設定]を開き、[アクセシビリティをチェック]をクリックする
オプションが表示されるので[チェック開始]をクリック

 チェック結果が表示され、「×」項目があるなら、[…]メニューから[修正]をクリック。画像の代替テキストなどを入力して、不合格項目を処理していこう。とはいえ、使っている色の問題など、修正機能で対応できず、人の手による対応が必要な項目もあるので見逃さないようにしよう。

チェック結果が表示されたら[修正]をクリックする
代替テキストなどを入力する

 以上が、プレスリリースをPDF化するときに注意しておきたいポイントとなる。普通のPDFファイルであれば問題ないのだが、その普通をきちんと確認した上で公開するようにしよう。

著者プロフィール:柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは25年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛けている。日々、大量の原稿を執筆しており、PDFファイルも日常的に利用している。メインのPDFツールは「Acrobat Pro」を活用。

・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/

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