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生成AIと著作権を5分で学ぶ。~学習データが“安全”な生成AIは、なぜ「安全」に商用利用できるの?

商用利用における安全性を念頭に設計された「Firefly」へのアドビの取り組み

 本コーナーでは、アドビ製品に関するナレッジや活用法について、公式ブログ「Adobe Blog」の掲載内容をもとに、アドビの各スペシャリストより直伝していただきます。気になるトピックスはブログ本編もぜひチェックしてみてください。
商用利用における安全性を念頭に設計された「Adobe Firefly」について、新しい著作権リスクを踏まえつつ紹介します

 他者の著作物を無断で意図的に真似して作成したテキスト、画像、映像等を公開するのは、著作権侵害を疑われて然るべき行為です。すべて人手で作成するなら、これは基本的にモラルの問題です。

 しかし、生成AIは、学習データに類似した出力を生成します。もしも、生成物が既存の著作物に類似していることに気づかないまま利用した場合、知らぬ間に他者の著作権を侵害する可能性が発生します。これは、生成AIの登場によって生まれた、著作権に関わる新しいリスクです。

生成物が類似していても著作権侵害にならない条件

 実際には、既存の著作物に類似しているAI生成物を利用しても、著作権侵害にはならない条件がいくつかあります。

 一つは、著作者からAIの学習に利用する許可を得ていることです。事前に適切な許可を得てからAIが学習した作品については、その作品に類似する生成物を公開しても著作権侵害を問われる心配はありません。言い換えると、著作権侵害を気にかける必要があるのは「 無断で他者の著作物を学習した生成AI 」を利用する場合です。

 もう一つの条件は、生成物が既存の著作物に類似していたとして、当該の著作物をAIが学習していないことです。著作権侵害の成立には、類似性に加えて依拠性(ある事物を基盤とすること)が求められます。生成AIは、学習していない作品に基づいて生成することはできません。ですから、万が一、学習していない作品に生成物が類似していたとしても、そこに依拠は成立しません。ひいては、著作権侵害も成立しません。

Adobe Fireflyの学習データはなぜ安全?

 上の2つの条件から明らかなのは、生成物を利用する際の著作権侵害に関するリスク評価において、AIが学習したデータの透明性が、本質的に重要であることです。アドビは「Firefly」の学習に使用したデータを公開しています。

 Fireflyの学習データは、大きく二つに分けられます。一つは、著作権が切れた作品や著作権フリーの作品など、パブリックドメインに属するものです。もう一つは、Adobe Stock コントリビューターからライセンスされたAdobe Stock アセットです。

 前者は著作権が無いため、生成物が類似していても問題ありません。後者は著作物ですが、事前に許諾を得ているため、生成物が類似していても問題ありません。それ以外の著作物は学習していないため、生成物が類似していても問題ありません。これが基本的な「Firefly」の安全性に対するアプローチです。

Adobe Stock アセットの管理体制をより厳密に

 このアドビのアプローチは、Adobe Stockの管理体制に依存します。例えば、間違えて他人の作品がアップロードされてしまった場合や、AIが生成した画像なのに人が制作した画像として登録されてしまった場合に、それらのアセットが学習データに紛れ込む可能性があるからです。

 こうしたケースに対応するため、アドビはFireflyの公開以来、Adobe Stockのアセットレビューチームの専門家を3倍に増やし、生成AIを前提にアセット監視システムを強化するなど、Adobe Stockの管理体制をより厳密にしてきました。そして、Adobe Stockから問題のあるアセットを削除しては、定期的にFireflyを更新しています。アドビはこうした努力を継続することで、Fireflyをよりクリーンで安全性の高いAIへと近づけています。

利用者の意図を反映する手段としてのFirefly

 Fireflyは、 クリエイターの道具 となるべく開発されていることも、著作権侵害について考える上で忘れてはならない重要な点です。

 Fireflyには、プロンプトだけではなく、参照画像を使って構図やスタイルを指定する機能など、生成結果をイメージ通りにコントロールするためのさまざまな手段が提供されています。またFireflyは、Photoshopをはじめとするアドビのデザインツールの機能に直接統合されています。すなわち、制作物の加工や修正を行う手段の一つとして、生成AI機能を使えるわけです。

 Fireflyの利用者が、主体的にFireflyを制作の道具として扱えば、出来上がった作品は利用者の意図を忠実に反映したものか、少なくともそれに近いものになるはずです。制作した人の意図が反映されていればいるほど、「生成AIが勝手に著作権を侵害した」という状況は起きにくくなります。人間は、自ら考えたビジョンを形にすることができる存在です。そのための手段としてAIを駆使する人にとって、Fireflyは信頼できる便利な道具の一つになるでしょう。

 なお、生成AIと著作権については、アニメーションでわかりやすく解説した動画がYouTubeに公開されています。このトピックが気になる方は、是非一度ご覧ください。

【Adobe Firelfy】生成 AI と著作権?5分で分かるAdobe Fireflyの安全な商用利用のための設計 | アドビ公式

Adobe Blog「Fireflyと著作権」シリーズはこちらから

著者プロフィール:akihiro kamijo

アドビのコンサルティングチームでリードアーキテクトとして主にUIデザインプロジェクトに関わる。現在は独立してデザイン/開発に関連のマーケティング企画や情報発信、プロジェクト支援を行っている。

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