山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
「iPad」の第10世代 vs 第9世代 ~電子書籍用途なら旧式もまだ戦える!?
コストや将来性、さらに使い勝手で意外な違いも
2023年4月25日 11:45
2022年にフルモデルチェンジした第10世代の「iPad」は、それまでのホームボタンを備えたデザインから、「iPad Air」や「iPad Pro」と同様にホームボタンを省いた、上下左右のベゼルの幅が均等なデザインへとリニューアルされた。ポートもUSB Type-Cへと変更になり、これで「iPad」の全モデルがUSB Type-Cで統一されたことになる。
もっとも旧モデルにあたる第9世代モデルは、第10世代の登場に伴って終息したわけではなく、モデルチェンジから約半年が経った現在も併売されている。第10世代「iPad」と比べて価格が安いことから、現在「iPad」を購入するとなると、どちらを買ってよいか迷うこともしばしばだ。
今回はこの両製品について、電子書籍ユースを中心として、購入にあたって知っておきたい両製品の違いを紹介していく。
なお画質比較のサンプルには、『Kindle Unlimited』で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』を、許諾を得て使用している。またテキストは夏目漱石著『坊っちゃん』を、雑誌は『DOS/V POWER REPORT』の最新号を、それぞれサンプルとして使用している。
画面サイズの違いは影響のない場合もある
まずは基本的な画面周りの仕様をチェックしよう。画面サイズは、第9世代は10.2型、第10世代は10.9型ということで、新モデルである第10世代が一回り大きい。したがって、少しでもコンテンツを大きく表示したい場合には、第10世代のほうが有利ということになる。
もっとも、第9世代はアスペクト比が4:3なのに対して、第10世代は若干それよりも細長いことから、雑誌のように判型がより正方形に近いコンテンツは横幅に合わせてページが縮小されてしまい、最終的な表示サイズは第9世代とそれほど変わらなくなってしまう。大雑把に言うと、コミックでは第10世代が有利だが、雑誌はそう違いはないと考えておくとよいだろう。
一方で、テキストのように画面サイズに応じてレイアウトが変わるコンテンツは、画面サイズが大きいほうが文字サイズや余白、行間などを調整する自由度が高くなるが、それもせいぜい紙の単行本と同程度のサイズまでの話だ。あまり大画面すぎるのも考えもので、第10世代が有利かというと決してそんなことはない。老眼などの理由で、文字サイズを極端に大きくしている人ならば、かろうじて恩恵を被るかもしれない。
一方で、第10世代はホームボタンが廃止されていることから、そのぶんベゼルの幅が狭く、またボディもコンパクトになっている。少しでも体積が小さいほうがよいのならば第10世代のほうが有利……ではあるのだが、劇的に違うというわけではないので、選ぶにあたって決め手になるほどではないというのが筆者の見方だ。
なにより電子書籍ユースにおいては、ベゼルの幅は狭ければ狭いほどよいわけではない。第9世代は画面を横向きにした時に左右のベゼル幅に厚みがあることから、親指をかけて持つ時も、うっかりページをめくってしまうことがまずない。
一方の第10世代は、こうした場合も、画面にわずかに指がかかってしまう。実際にページが不意にめくられることはそうそうないとはいえ、扱うにあたって何かと気を使うのは事実だ。この点においては、見た目こそやや野暮ったいものの、第9世代のほうが使い勝手は上だと言える。
ホームボタンの有無で影響を受けるのはどんな人?
本製品は、画面まわり以外に、使い勝手に大きな影響を及ぼす違いが2つある。
ひとつはホーム画面への戻り方だ。第9世代は画面下にホームボタンが搭載され、それを押すだけでホーム画面に戻れたのに対し、第10世代ではホームボタンは廃止されて指紋認証が電源ボタンへと統合され、ホームに戻る場合は画面下部の中央を下から上にスワイプする仕組みへと改められている。
この操作方法は「iPad Air」や「iPad Pro」、さらには多くの「iPhone」やAndroidデバイスと同様で、慣れてしまえば問題はないのだが、ITのリテラシーが高くなく、毎回誰かに操作を教えてもらっている人にとっては、ボタンのある第9世代のほうが直感的にわかりやすい。また、教える方にとっても説明しやすいだろう。こうした点は意外と無視できないものがある。
もうひとつ、デバイスとしての使い勝手に大きな影響を及ぼしているのが、充電ポートの仕様だ。第9世代がiPhoneと同じLightningを採用しているのに対して、第10世代は「iPad Air」や「iPad Pro」と同じ、汎用のUSB Type-Cを採用している。
Lightningは、EUがUSB Type-Cポートの搭載を義務付ける法案を推進している関係で、2024年末までには新発売の製品から姿を消すことが事実上確定している。それゆえ将来性はUSB Type-Cのほうが圧倒的に上だ。その一方で、Lightningを搭載する現行のiPhoneと充電ケーブルを共用するならば、Lightningを搭載した第9世代のほうが使い勝手はよいのもまた事実だ。
こうした状況下で、現行のiPhoneとケーブルなどを共有できる利便性を取るか、将来性を取るかは実に難しい。今はまだ「どっちでもよいのでは」という風潮が強いが、今後USB Type-Cポートを搭載したiPhoneが出てくれば、既存のLightning自体が使えなくなるわけではなくとも、風向きはガラリと変わる可能性がある。過渡期ならではの、判断の難しさがあるのは事実だ。
その他細かいポイントをチェック
ここまで見てきた以外のポイントでは、両者ともにそれほど大きな差はないというのが実情だ。電子書籍ユースに限らず、細かいポイントについて見ていこう。
ボディの厚みは、第10世代が7mm、第9世代が7.5mmと、やや薄くなったとはいえおおむね同等。また重量(実測)も、第10世代が478g、第9世代が484gと、製品選びにおいて決め手になるほどの差はない。
画面解像度はいずれも264ppiで、表現力に違いはない。雑誌の細かい注釈を表示した時にどちらか一方が明らかに見やすいといったことはないので、それらによって選ぶ製品を変えなくてはいけないといったことはない。
「iPad Air」や「iPad Pro」といった「iPad」の上位モデルは、リフレッシュレートの高いProMotionテクノロジーや、フルラミネーションディスプレイ、画面への反射防止コーティングが施されているが、「iPad」は第9世代、第10世代ともにこれらには非対応。またカメラも、画素数こそ違うもののシングルレンズであり、超広角カメラは非搭載だ。駆動時間についても差はない。
一方でスピーカーは、第10世代は画面左右に配置されているのに対し、第9世代は底面の左右に並んでいるという違いがあり、動画再生時などは第10世代が有利。さらにWi-Fi+Cellularモデルについては第9世代が5G非対応で4Gのみという違いもある。
またパフォーマンスについては、A14 Bionicチップを採用した第10世代モデルが、第9世代のおおむね2割増といったところ。電子書籍ユースではまったく気にならないが、パワーを必要とする用途でも使用するのであれば、第10世代モデルのほうがよいだろう。
最適解は予算と将来性の考え方次第?
以上がこの両製品の違いなのだが、それでいて、実売価格はかなりの差がある。64GBモデルで比較すると、第10世代が68,800円なのに対して、第9世代は49,800円と、2万円弱もの差があり、上位の256GBモデルはさらに価格差が広がる。値段だけで見ると、どうしても第9世代のほうが有利だ。
もっとも、ホームボタンを採用したモデルは、今やこの第9世代「iPad」以外では「iPhone SE」しかなく、フォームファクターの古さは否めない。前述のように、今後「iPhone」がLightningコネクタを廃止し、USB Type-Cに全面的に刷新されれば、そうした印象はさらに強まるはずだ。
多少の古さには目をつむり、価格的にもお買い得な第9世代モデルを在庫のある今のうちに押さえておくか、あるいは長く使うことを考慮して全面的にブラッシュアップされた第10世代のモデルを選ぶか、予算および考え方一つで最適解は変わってくると言えそうだ。