山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
自炊データを表示するならどっち? 注目のカラー電子ペーパー端末で比較
「QUADERNO A5 (Gen. 3C)」vs「BOOX Note Air4 C」
2025年6月23日 12:04
電子書籍はストアから購入できるもの以外に、PDF形式で配布されているコンテンツも多く存在する。また紙の本を裁断してスキャナでデジタル化する、いわゆる「自炊」によって生成されたPDFデータを多数所有している人もいるはずだ。
これらデータを閲覧するためのデバイスとして魅力的なのが、昨今、搭載製品が増えつつあるカラー電子ペーパーデバイスだ。今回は代表的な2つの製品について、自炊データを中心としたPDFデータを閲覧するのに、どのような向き不向きがあるかを見ていこう。
- 🔗富士通 WEB MART | QUADERNO A5 (Gen. 3C) FMVDP53CA5
- https://www.fmv.com/store/pid/FMVDP53CA5.html
- 🔗BOOX NoteAir4c – SKT株式会社
- https://sktgroup.co.jp/boox-noteair4c/
10.3型のカラー電子ペーパーを搭載した2製品を比較
今回紹介するカラー電子ペーパー対応デバイス、ひとつは富士通のクアデルノこと「QUADERNO A5 (Gen. 3C)」だ。本来は手書きでメモを取るための電子ノートデバイスだが、PDFの表示に対応していることから、自炊データをはじめとしたPDFの閲覧にも活用できる。
もうひとつは「BOOX Note Air4 C」だ。こちらは画面にカラー電子ペーパーを採用するものの、中身はAndroidタブレットそのものであり、Google Playストアから任意のアプリをインストールできることから、自分の好みのアプリを使ってPDF書籍を閲覧できる。
ともにカラー電子ペーパーを採用したこの両製品、まずはざっと仕様面を比較してみよう。画面サイズはどちらも10.3型で横並びだが、ボディはベゼルが狭いぶんQUADERNOのほうがコンパクト。厚みはQUADERNOが5.9mm、BOOXは5.8mmとほぼ同等だが、端に行くほど薄くなるデザインを採用しているせいか、QUADERNOのほうが薄く感じる。
重量はQUADERNOが約261gと、300gの大台を割っているのに対し、BOOXは公称420gと一般的な10型クラスのタブレットと同等で、かなりズシリと来る。長時間手に持って読書する場合、QUADERNOのほうが圧倒的に有利だ。
カラー電子ペーパーは、QUADERNOは「フレキシブル電子ペーパー」、BOOXはE Inkの「Kaleido 3」を採用している。解像度はこうしたカラー電子ペーパーではおなじみ、グレーとカラーで解像度が異なる仕組みで、QUADERNOがグレー227dpi/カラー113dpi、BOOXはグレー300ppi/カラー150ppiということで、BOOXのほうが上だ。
ストレージの容量は、QUADERNOは32GBと控えめで、メモリカードなどによる容量の追加にも対応しない。一方のBOOXは容量は64GBで、最大2TBまでのメモリカードを追加できることから、容量面での心配はほぼ皆無。自炊データに換算してどの程度のファイル数を保存できるかについては後述する。
設定不要で使えるがカスタマイズも実質非対応のQUADERNO
さて、自炊データ閲覧にあたってのビューワーとしての使い勝手、および画質について見ていこう。
まずQUADERNOは、内蔵のPDFビューワーを用いて閲覧することになる。UIはやや独特だが、左右の綴じ方向の変更や、単ページと見開きの切り替え、さらに見開きが1ページずれた時の修正など、一通りの機能は揃っている。ちなみにページめくりはタップには非対応でスワイプで行う。
一方で、明るさやコントラストなど画質まわりの調整機能はないため、自炊データに多くみられる、スキャン時のコンディションがあまりよくないPDFは、閲覧がつらく感じることもしばしば。特にモノクロページをカラーモードでスキャンしたPDFは、グレーモードでスキャンしたPDFに比べて、かなりぼけて見えるので要注意だ。
さらに、フロントライトを搭載しておらず、もともと灰色味が強いE Inkの地色そのままで使うことになるため、全体としてかなり暗い印象を受ける。明るい部屋での利用こそ問題ないが、ベッドサイドに寝転がって枕元の小さなライトだけで読書するといった、暗い場所での閲覧はまず期待できない。
こうした点からして、100点満点でスコアを付けるならば70点という評価になるだろう。ただし後述するBOOXのようなカスタマイズは不要で、手持ちのPDFを放り込むだけで済むことから、面倒さを嫌う人には最適だ。一方で解像度の低さがネックになるケースが少なくないことは、考慮しておく必要はあるだろう。
カユいところに手は届くが快適な利用には一手間かかるBOOX
続いてBOOXについて見ていこう。今回は内蔵のPDFビューワー「Neo Reader」ではなく、Google Playストアからインストールした自炊ビューワーの定番「Perfect Viewer」を利用している。
BOOXはそもそも画面がカラーE Inkというだけで、使い勝手は一般的なAndroidタブレットと同じであるため、今回の「Perfect Viewer」のような自炊データの閲覧に特化したアプリを使えば、機能面で不自由を感じることはまずない。単ページ表示と見開き表示の切り替えはもちろん、綴じ方向の設定、見開きが1ページずれた場合の調整など、ひととおりの機能は網羅している。
補正機能は、E Ink側とアプリ側、それぞれで行うことになる。E Ink側では、ページめくり時に動きのスムーズさを優先するか、もしくは画質を優先するかといったリフレッシュモードの設定のほか、アプリごとの最適化機能など、E Inkならではの設定項目が用意されている。
アプリ側では、カラーモードでスキャンしたために色が薄くなったテキストに補正をかけて読みやすくしたり、上下左右の余白を切り詰めたりと、スキャンデータ側の不備をカバーする機能も備えるほか、電子ペーパーを前提とした表示モードも用意されている。もちろんこれらが気に入らなければ、他のアプリへの乗り換えも容易だ。
以上のように、生成時のコンディションが不揃いの自炊データを読みやすくする機能は豊富なのだが、利用にあたってE Inkまわりの最適化設定は必須で、少なからず手間がかかる。また、BOOX本体にもアプリにも言えるが、設定項目が多彩すぎるせいで、ひととおりの設定を終えたあとも『今よりも適した設定があるのではないか』と疑いつつ読書する羽目にならざるを得ない。良くも悪くも設定に終わりがないのが特徴だ。
こうしたことから、100点満点でスコアを付けるならば、設定次第で90点近く取れる場合もあれば、50点程度にとどまる場合もあったりと、手間ひとつで点数は大きく変動する。何もしなくともコンスタントに70点は取れるが不満があっても調節は一切できないQUADERNOとはある意味で対照的だ。
また、ハードウェア側の特徴として、音量ボタンを搭載しないため、Androidデバイスではお馴染みの、音量ボタンを使ったページめくりに対応しないのは、これら機能を多用するユーザーにとってはマイナス。一方でフロントライトを搭載していることから、暗い場所での閲覧も容易なのは、特にQUADERNOとの比較においては有利なポイントだ。
使い方によっても評価は変わる。価格も要チェック
以上のように、機能だけ見るとBOOXのほうが豊富かつ融通が効くが、利用にあたってアプリのインストールに始まり、最低限の設定は必要なことから、手軽さについてはQUADERNOに分がある。そのQUADERNOは、フロントライトがないという大きなハンデはあるものの、片手で長時間掲げても苦にならない200g台の軽さは、BOOXにはない武器だ。
一方で、両製品の評価は、使い方にも大きく左右される。今回自炊データ100冊を両製品にコピーしてみたが、1ファイル毎の容量は50~250MBで、総容量は約15GB。ユーザー使用可能領域約22GB(表示上は約25GB)のQUADERNOであれば、保存できるのは150冊程度にすぎない。一方でBOOXは64GBのストレージに加えて最大2TBのメモリカードを追加できるので、単純計算で数千冊は対応できる。
また、QUADERNOはデータの入れ替えが事実上専用ユーティリティ経由となるためやや面倒で、ストレージの容量自体も控えめなので、自炊データの入れ替えがあまり発生しない使い方のほうが向く。一方のBOOXはメモリカードを用いて大量の自炊データを取り替えて使うのも容易なほか、クラウドストレージ経由で1冊だけ取り込むこともできるなど、自由度は高い。
最後に実売価格だが、QUADERNOの59,800円に対してBOOXは87,800円と高価で、こちらはQUADERNOに分がある。どちらの製品にも言えることだが、電子ノート機能など、自炊ビューワー以外の用途でどのくらい活用できるかにもよっても、満足度は変わってくるはずだ。