山口真弘のおすすめ読書タブレット比較

自炊データを表示するならどっち? 注目のカラー電子ペーパー端末で比較

「QUADERNO A5 (Gen. 3C)」vs「BOOX Note Air4 C」

自炊データの閲覧に適したカラー電子ペーパーデバイス2製品を比較する。左が「QUADERNO A5 (Gen. 3C)」、右が「BOOX Note Air4 C」

 電子書籍はストアから購入できるもの以外に、PDF形式で配布されているコンテンツも多く存在する。また紙の本を裁断してスキャナでデジタル化する、いわゆる「自炊」によって生成されたPDFデータを多数所有している人もいるはずだ。

 これらデータを閲覧するためのデバイスとして魅力的なのが、昨今、搭載製品が増えつつあるカラー電子ペーパーデバイスだ。今回は代表的な2つの製品について、自炊データを中心としたPDFデータを閲覧するのに、どのような向き不向きがあるかを見ていこう。

10.3型のカラー電子ペーパーを搭載した2製品を比較

 今回紹介するカラー電子ペーパー対応デバイス、ひとつは富士通のクアデルノこと「QUADERNO A5 (Gen. 3C)」だ。本来は手書きでメモを取るための電子ノートデバイスだが、PDFの表示に対応していることから、自炊データをはじめとしたPDFの閲覧にも活用できる。

縦向きを想定したデザイン。画面サイズは10.3型、解像度は1,872×1,404ドット
上部中央にホームボタンがある。スマホのホームボタンとは厳密には役割が異なるが、使い方は同じ
底面にUSB Type-Cポート、電源ボタン、リセットホールを配置。ほかの面にボタン類はない
重量は実測258g。10型クラスの液晶タブレットの半分ほどしかない

 もうひとつは「BOOX Note Air4 C」だ。こちらは画面にカラー電子ペーパーを採用するものの、中身はAndroidタブレットそのものであり、Google Playストアから任意のアプリをインストールできることから、自分の好みのアプリを使ってPDF書籍を閲覧できる。

長辺の片側のみベゼルに厚みのあるデザイン。画面サイズは10.3型、解像度は2,480×1,860ドット
電源ボタンは指紋認証センサーと一体化している
側面にUSB Type-Cポート、カードスロット、スピーカーを搭載。音量ボタンはない
重量は実測437g。10型クラスのタブレットとしては標準的

 ともにカラー電子ペーパーを採用したこの両製品、まずはざっと仕様面を比較してみよう。画面サイズはどちらも10.3型で横並びだが、ボディはベゼルが狭いぶんQUADERNOのほうがコンパクト。厚みはQUADERNOが5.9mm、BOOXは5.8mmとほぼ同等だが、端に行くほど薄くなるデザインを採用しているせいか、QUADERNOのほうが薄く感じる。

 重量はQUADERNOが約261gと、300gの大台を割っているのに対し、BOOXは公称420gと一般的な10型クラスのタブレットと同等で、かなりズシリと来る。長時間手に持って読書する場合、QUADERNOのほうが圧倒的に有利だ。

 カラー電子ペーパーは、QUADERNOは「フレキシブル電子ペーパー」、BOOXはE Inkの「Kaleido 3」を採用している。解像度はこうしたカラー電子ペーパーではおなじみ、グレーとカラーで解像度が異なる仕組みで、QUADERNOがグレー227dpi/カラー113dpi、BOOXはグレー300ppi/カラー150ppiということで、BOOXのほうが上だ。

左がQUADERNO、右がBOOX(以下同じ)。同じ10.3型だがベゼル幅が異なるためボディサイズはかなり異なる
厚みの比較。スペック上は同等だが端に行くほど薄くなるデザインのせいかQUADERNO(左)がスリムに見える

 ストレージの容量は、QUADERNOは32GBと控えめで、メモリカードなどによる容量の追加にも対応しない。一方のBOOXは容量は64GBで、最大2TBまでのメモリカードを追加できることから、容量面での心配はほぼ皆無。自炊データに換算してどの程度のファイル数を保存できるかについては後述する。

設定不要で使えるがカスタマイズも実質非対応のQUADERNO

 さて、自炊データ閲覧にあたってのビューワーとしての使い勝手、および画質について見ていこう。

 まずQUADERNOは、内蔵のPDFビューワーを用いて閲覧することになる。UIはやや独特だが、左右の綴じ方向の変更や、単ページと見開きの切り替え、さらに見開きが1ページずれた時の修正など、一通りの機能は揃っている。ちなみにページめくりはタップには非対応でスワイプで行う。

一覧画面ではサムネイルを横3列で表示できる。カラーゆえ表現力も高いが、次ページへの移動に横スワイプが使えず下段ボタンのタップに限られるのはマイナス
単ページで表示したところ。フロントライトは非搭載なので地の色はこれ以上明るくできない。なお上下にドラッグすると画面のリフレッシュが行える
見開き表示にも対応するが、カラーは解像度が低いため、モノクロページのみにとどめておいたほうがよいだろう
画面右上にあるメニューから単ページと見開きの切り替えなどが行える
綴じ方向の切り替えも簡単だ。なおページめくりはタップには非対応でスワイプのみとなる
見開き表示で1ページずれた場合は、表紙設定機能を使うことで左右の並びを直すことができる

 一方で、明るさやコントラストなど画質まわりの調整機能はないため、自炊データに多くみられる、スキャン時のコンディションがあまりよくないPDFは、閲覧がつらく感じることもしばしば。特にモノクロページをカラーモードでスキャンしたPDFは、グレーモードでスキャンしたPDFに比べて、かなりぼけて見えるので要注意だ。

 さらに、フロントライトを搭載しておらず、もともと灰色味が強いE Inkの地色そのままで使うことになるため、全体としてかなり暗い印象を受ける。明るい部屋での利用こそ問題ないが、ベッドサイドに寝転がって枕元の小さなライトだけで読書するといった、暗い場所での閲覧はまず期待できない。

 こうした点からして、100点満点でスコアを付けるならば70点という評価になるだろう。ただし後述するBOOXのようなカスタマイズは不要で、手持ちのPDFを放り込むだけで済むことから、面倒さを嫌う人には最適だ。一方で解像度の低さがネックになるケースが少なくないことは、考慮しておく必要はあるだろう。

BOOX(右)との比較。フロントライト非搭載のため地色が暗く見えるのは大きなマイナス
一方でカラー写真ではBOOX(下)で頻発するグラデーション部の荒れも見られず、平均的に美しく見られる
フロントライトを搭載したBOOX(下)と比べると彩度が低く、せっかくのカラーが活かせないケースもしばしば。解像度も特にカラーではざらつきが目立つ

カユいところに手は届くが快適な利用には一手間かかるBOOX

 続いてBOOXについて見ていこう。今回は内蔵のPDFビューワー「Neo Reader」ではなく、Google Playストアからインストールした自炊ビューワーの定番「Perfect Viewer」を利用している。

 BOOXはそもそも画面がカラーE Inkというだけで、使い勝手は一般的なAndroidタブレットと同じであるため、今回の「Perfect Viewer」のような自炊データの閲覧に特化したアプリを使えば、機能面で不自由を感じることはまずない。単ページ表示と見開き表示の切り替えはもちろん、綴じ方向の設定、見開きが1ページずれた場合の調整など、ひととおりの機能は網羅している。

Google Playストアから自由にアプリをインストールできるのが前述のQUADERNOと比べた場合の最大の強み。今回は自炊ビューワーの定番「Perfect Viewer」を利用している
任意のフォルダを本棚として設定できる。サムネイルのサイズやリスト表示などは自由に切り替えられる
単ページでの表示。フロントライト搭載で明るさは容易に調整できる
もちろん見開き表示にも対応。1ページずれた場合の修正にも対応している

 補正機能は、E Ink側とアプリ側、それぞれで行うことになる。E Ink側では、ページめくり時に動きのスムーズさを優先するか、もしくは画質を優先するかといったリフレッシュモードの設定のほか、アプリごとの最適化機能など、E Inkならではの設定項目が用意されている。

 アプリ側では、カラーモードでスキャンしたために色が薄くなったテキストに補正をかけて読みやすくしたり、上下左右の余白を切り詰めたりと、スキャンデータ側の不備をカバーする機能も備えるほか、電子ペーパーを前提とした表示モードも用意されている。もちろんこれらが気に入らなければ、他のアプリへの乗り換えも容易だ。

E Ink側ではカラーモードやリフレッシュモードの設定は必須。そのためQUADERNOと違って使い始めに当たって少々手間はかかる
「Perfect Viewer」のような自炊ビューワーを使えば左右綴じの切り替えなど設定も容易。電子ペーパー表示を前提としたモードもある
色にまつわる詳細な設定が行えるのも強み。もっともカスタマイズ可能な項目が多すぎて、どの画面に項目があるのかわかりづらいのはネックだ

 以上のように、生成時のコンディションが不揃いの自炊データを読みやすくする機能は豊富なのだが、利用にあたってE Inkまわりの最適化設定は必須で、少なからず手間がかかる。また、BOOX本体にもアプリにも言えるが、設定項目が多彩すぎるせいで、ひととおりの設定を終えたあとも『今よりも適した設定があるのではないか』と疑いつつ読書する羽目にならざるを得ない。良くも悪くも設定に終わりがないのが特徴だ。

 こうしたことから、100点満点でスコアを付けるならば、設定次第で90点近く取れる場合もあれば、50点程度にとどまる場合もあったりと、手間ひとつで点数は大きく変動する。何もしなくともコンスタントに70点は取れるが不満があっても調節は一切できないQUADERNOとはある意味で対照的だ。

 また、ハードウェア側の特徴として、音量ボタンを搭載しないため、Androidデバイスではお馴染みの、音量ボタンを使ったページめくりに対応しないのは、これら機能を多用するユーザーにとってはマイナス。一方でフロントライトを搭載していることから、暗い場所での閲覧も容易なのは、特にQUADERNOとの比較においては有利なポイントだ。

使い方によっても評価は変わる。価格も要チェック

 以上のように、機能だけ見るとBOOXのほうが豊富かつ融通が効くが、利用にあたってアプリのインストールに始まり、最低限の設定は必要なことから、手軽さについてはQUADERNOに分がある。そのQUADERNOは、フロントライトがないという大きなハンデはあるものの、片手で長時間掲げても苦にならない200g台の軽さは、BOOXにはない武器だ。

BOOXは画面が電子ペーパーというだけで中身はAndroidタブレットそのものなので汎用性は高い
QUADERNOは軽量なことからこのように片手で掲げての読書も可能

 一方で、両製品の評価は、使い方にも大きく左右される。今回自炊データ100冊を両製品にコピーしてみたが、1ファイル毎の容量は50~250MBで、総容量は約15GB。ユーザー使用可能領域約22GB(表示上は約25GB)のQUADERNOであれば、保存できるのは150冊程度にすぎない。一方でBOOXは64GBのストレージに加えて最大2TBのメモリカードを追加できるので、単純計算で数千冊は対応できる。

 また、QUADERNOはデータの入れ替えが事実上専用ユーティリティ経由となるためやや面倒で、ストレージの容量自体も控えめなので、自炊データの入れ替えがあまり発生しない使い方のほうが向く。一方のBOOXはメモリカードを用いて大量の自炊データを取り替えて使うのも容易なほか、クラウドストレージ経由で1冊だけ取り込むこともできるなど、自由度は高い。

 最後に実売価格だが、QUADERNOの59,800円に対してBOOXは87,800円と高価で、こちらはQUADERNOに分がある。どちらの製品にも言えることだが、電子ノート機能など、自炊ビューワー以外の用途でどのくらい活用できるかにもよっても、満足度は変わってくるはずだ。

QUADERNOの専用ユーティリティ。ストレージの残容量はこの画面の左上で確認できる
本稿では取り上げていないが、両製品ともにスタイラスが付属しており電子ノートをはじめとした手書き入力に対応する。上がQUADERNO用、下がBOOX用