山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
E Ink電子ペーパー搭載のAndroidタブレット「BOOX」はどれを買えばいい?
画面サイズごとの特徴を比較してみた
2022年3月15日 06:55
E Ink電子ペーパーは、液晶と違ってバックライトを用いないことから目に優しく、また低消費電力ゆえデバイスのバッテリーを長持ちさせるなどのメリットがある。その一方で、動画など頻繁に書き換えを行うコンテンツの表示には向かず、また現時点ではモノクロの製品がほとんどということで、主に電子書籍ユースで用いられることが多い。
代表的な端末と言えばAmazonの電子書籍端末「Kindle」シリーズで、初代から数えておよそ15年ほどの歴史があり、価格もこなれていることから人気が高いが、いかんせん利用できる電子書籍ストアは「Kindle」だけだ。自社で販売している端末である以上、これはやむを得ない。楽天Koboが販売している「Kobo」シリーズも同様だ。
そうした意味で近年、注目が集まっているのが、E Inkを採用したAndroidタブレットだ。なかでもOnyxの「BOOX」シリーズは、Androidベースということで、「Google Playストア」で配信されている電子書籍アプリをダウンロードして利用できる。複数の電子書籍ストアで本を購入した結果、ライブラリがあちこちに散逸してしまっている人にもぴったりだ。
今回はこのBOOXシリーズについて、画面サイズが異なる4つの製品を比較しつつ、そのメリットとデメリットについて紹介しよう。なお表示サンプルには、「Kindle Unlimited」で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第10巻』を、許諾を得て使用している。
「BOOX」はなぜ支持される?
「Google Playストア」が利用できるE Inkデバイスは海外を見渡せば他にもあるが、「BOOX」が日本国内で支持を集める理由はいくつかある。
ひとつは日本国内での利用を前提に、技適などの各種法令に適合し、かつメニューの日本語化もひととおり行われていることだ。海外製の端末はまず技適の有無の段階で引っ掛かることが大半なので、この点がしっかり押さえられているのは大きい。
またメニュー類も、マニュアルまで全てが翻訳されているわけではないものの、基本操作の部分では支障ない範囲で日本語化されているので、安心して使える。
さらにAndroidのバージョンが比較的新しいのも利点だ。同種の端末の中には、いまだにAndroid 8.1がベースの製品も存在するが、「BOOX」はAndroid 10や11がベースで、一般的なAndroidタブレットと比べても遜色ない。
さらに最近リリースされたモデルでは、発売から3年間のアップデートが保証されるようになったのも利点だ。
また電子書籍以外に、スタイラスを使って手書きのノートとして使えることが挙げられる。他社の電子書籍専用端末にはあまりない機能で、会議や授業など、ノートを取らなくてはいけない場合に重宝する。全製品が対応しているわけではないが、購入にあたっての大きな動機のひとつとなるだろう。
「BOOX」にはどんな製品がある?
「BOOX」シリーズは、画面サイズごとにラインナップに分かれ、それぞれ「Max」「Note」などのペットネームが付けられている。またその中で、ボディの素材やデザイン、さらには物理ボタンの有無などによって、複数の系統に分かれている場合もある。順番にチェックしていこう。
もっとも画面が大きいのが、13.3型の「BOOX Max」だ。ほぼA4サイズということで、技術書などの表示に適している。また画面の大きさを活かし、本体を横向きにして左半分にPDFを表示し、右半分にノートを表示してメモを書くといったこともできる。
タブレットとしては一般的な10.3型クラスが「BOOX Note」だ。コミックの見開き表示をはじめ、オールマイティに利用できる。樹脂ボディの「BOOX Note」と金属筐体を採用した薄型の「BOOX Note Air」の2系統のラインナップがあり、モデルチェンジの頻度も高い。
片手で使えるコンパクトなサイズが、7.8型の「BOOX Nova」だ。単行本やコミックで単ページで表示することを前提としたサイズで、手書きのノートとしても使い勝手に優れる。こちらも金属筐体の「BOOX Nova Air」と2系統での展開となる。またカラーE Inkを採用したモデルをラインナップするのは現時点でこのサイズのみ。
これら3タイプに加え、最近新たに登場したのが、よりコンパクトな7型の「BOOX Leaf」だ。現状までまだ1モデルしか登場していないが、薄さと軽さに注力し、さらに外付けのカバーを用いることでページめくりボタンも利用できる。
これら各モデルの選び方のコツは大きく分けて2つある。ひとつはなるべく新しいモデルを選ぶことだ。
同社製品には3年間のアップデート保証が付属するが、これは「購入日から」ではなく「発売から」なので、発売から時間が経っていると、期間がそれだけ短くなる。よほど欲しいモデルがあれば別だが、二者択一で迷うことがあれば、発売時期がより新しいモデルを選ぶべきだろう。
もうひとつは、画面サイズが同じ別系統のモデルをチェックすることだ。例えば10.3型であれば、本稿執筆時点では「BOOX Note Air2」以外に「BOOX Note5」というモデルがあるなど、同じ画面サイズで別系統のモデルが存在することがある。機能差はもちろん価格差もあるので、機種選定にあたってはこれらの比較は欠かせない。
知っておくべき「BOOX」のデメリットとは?
ここまでメリットを中心に見てきたが、もちろんデメリットもある。安い買い物ではないだけに、購入にあたってはそれらはきちんと把握しておきたいところ。以下、順に見ていこう。
ひとつは、市販のAndroidタブレットと異なり、「Google Playストア」を利用できるようになるまでに、かなりの手間がかかることだ。具体的には、GSF IDと呼ばれるGoogleの認証を取得する作業が必要で、これらが完了したのち「Google Playストア」にログインできるようになるまで、短くて十数分、場合によっては一晩待たなくてはいけないこともある。
これらは端末上から行えるので、何らかのWebもしくはオフラインで申し込むといった作業が必要になるわけではないが、セットアップを済ませた時点ですでに「Google Playストア」が使える状態になっている一般的なAndroidスマホやタブレットに比べると手間がかかるため、これらの製品に慣れている人が初めて使うと驚くことになる。
また、本製品はカラー表示を前提に設計された汎用のAndroidアプリをモノクロ表示で利用することもあり、表示のチューニングが欠かせない。モノクロ表示にあらかじめ最適化されたKindleとの大きな違いで、またきちんとチューニングできても、動作速度の面でも不利だ。Kindleだけ使いたいのならば、「BOOX」ではなく、専用のKindle端末を購入したほうが快適だろう。
さらに価格は、「Kindle」や「Kobo」などの専用端末に比べるとやや割高だ。さまざまなストアで使えるという最大の違いがあるため一概に比較はできないが、特に「Kindle」はセールなどで値引きされる機会も多いことから、見た目の価格差はどうしても目立つ。
もっともこのことは逆に、E Inkの利点をきちんと把握せずに価格だけで判断するユーザーを排除し、ターゲットユーザーにきちんと届く効果をもたらしている可能性があるので、そう悪いことではない。本製品の価格に尻込みしてしまうようならば、おそらく買ったところで活用しきれず終わってしまうだろうからだ。
以上のように、「Kindle」など専用端末の利用経験が一切なく「E Inkとはこういうもの」という特性すら把握していないユーザーがいきなり手を出すのはおすすめしないが、それらのプロセスをひととおり経てE Inkの独特の挙動を理解した上で、マルチストア対応など独自の機能に魅力を感じるのであれば、一度はチェックしてみてほしい製品だ。