山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
13.3型E Inkデバイス vs 12.9インチiPad Pro、技術書を読むのに便利な端末はどっち?
2021年8月19日 06:55
ふだん本は電子ではなく紙をメインに購入している人でも、技術書だけは電子で揃えているという人は多い。分厚い書籍であっても手軽に持ち歩けるほか、しおりをつけたり、単語で検索して目的の箇所を探すという、電子書籍ならではの強みは、技術書ならばより活きてくるからだ。
今回は、そんな技術書の表示に適したデバイスについて考察してみよう。なお技術書の表示サンプルには、あーちゃん/できるシリーズ編集部著「できるPower Automate Desktop」を使用している。
技術書を読むのに適したデバイスとは?
一般的に技術書というジャンルは、電子書籍の中でも、他とはやや違う特性がいくつかある。
まず1つは、ページを先頭から最後に向かって読んでいくのではなく、目的の章だけ目を通したり、同じ箇所を繰り返し表示するといった読み方が多いことだ。それゆえページを飛ばして移動しやすいインターフェイス、タグやしおり、キーワード検索を使って目的のページを呼び出せる機能は欠かせない。
さらにスタイラスペンを使ってメモを書き込んだり、必要な箇所を囲ったりする機能もあると便利だ。一般的な電子書籍も、任意の文字列にマーカーを引く機能があるが、さらにメモを書き込むことができれば、その技術書は自分にとってもより貴重なものへと進化していく。
もっとも技術書というジャンル自体、本の作りは千差万別で、読む側が求めるものも十人十色なので、表示さえできれば余計な機能は不要という人もいるだろうし、さらにタブレットではなくPCで表示したいというニーズもあるはずだ。デバイスを選ぶに当たっては、こうした読み方を、あらかじめ想定しておくことが望ましい。
ところで技術書はその他のジャンルと異なり、出版社がPDFで電子版を用意しているケースが多いのも特徴だ。DRMフリーだったり、メールアドレスを埋め込んだソーシャルDRMだったりと仕様はさまざまだが、電子書籍ストアとはひもづかず、単体で手元に置いておけるため、デバイスの制約は一般的に少ない。
ただしいずれの場合も、固定レイアウトのコンテンツが多くを占めるため、画面が小さすぎるのはNGだ。一定の画面サイズがあれば見開き表示にも対応するほか、左右で別々の書籍を表示するなどの芸当も可能になる。なにより、手で押さえていなくても本が閉じないのは紙の本にはない利点で、作業しながら参照することの多い技術書では重宝する。
タブレットならやはり筆頭は「12.9インチiPad Pro」
以上の条件から、候補となるデバイスは何があるだろうか。
筆頭に挙げられるのは12.9インチiPad Proだろう。12.9型という画面サイズであれば、多くの技術書で、原寸大での見開き表示が行える。重量は682gと、同等サイズのタブレットの中では比較的軽いため、手に持っての運用も(長時間でなければ)支障はない。
アプリを自由にインストールできるので、好きな電子書籍ストアが利用できるほか、PDFビューアアプリも豊富なので、出版社系のPDF書籍にも対応できる。Dropboxなどのクラウドにそれらを保存しておき、必要な時にダウンロードして参照し、いらなくなったら消すという使い方も可能だ。CPUやメモリの性能も高いので、低スペックのタブレットと異なり、操作一つをとっても待たされることがない。
ただしそのハイスペックさゆえ、価格は129,800円(128GB)からと、お財布にはやさしくない。ストレージ容量に余裕をもたせつつ、デスク上に立てられるスタンドや、書き込みを行うためのスタイラス(Apple Pencil)まで揃えると、20万円超えも十分にありうる。汎用性はお墨付きだが、コストの面ではある程度の覚悟が必要な製品なのは間違いない。
PDF利用に特化するなら「QUADERNO A4」
もうひとつ、PDF表示だけに割り切るならば、富士通クライアントコンピューティングの「QUADERNO(クアデルノ)」のA4サイズも面白い選択肢だ。カテゴリ的には電子ノートにあたる製品だが、PDFの表示に対応しており、見開きの表示はもちろん、左右綴じの切り替えも可能だ。これならば技術書に多い左綴じだけでなく、縦書き(右綴じ)の表示も問題なく行える。
付属のスタイラスを使って書き込みも自在に行えるほか、検索機能もキーワード検索に加え、スタイラスで目印を付けておいたページを呼び出す機能も備える。目的のページを繰り返し読むことが多い技術書向けの機能が目白押しだ。一般に「自炊」と呼ばれる、紙の本をスキャンして取り込んだPDFファイルを表示するのにも適している。
また最大の利点は軽さで、13.3型という画面サイズながら公称368gと、前述の12.9インチiPad Proのおよそ半分ほどしかない。製品の特性はまったく異なるとはいえ、実売価格も69,800円と、12.9インチiPad Proよりもはるかに安価だ。もともと電子ノートということで、スタイラスペンが標準添付なのもよい。
ただしE Inkデバイスゆえ画面表示はモノクロなので、カラーをふんだんに使って解説している技術書だと、わかりやすさはどうしても低下する。グレースケール自体はなめらかで見やすいのだが、こればかりはどうしようもない。またフロントライトを搭載しておらず、暗所での利用には適していない。
さらにPDFビューアは標準搭載しているものの、iPadのように任意の電子書籍アプリやビューアをインストールして使えるわけではないので、電子書籍ストア経由で購入した技術書は表示できないほか、他端末との既読位置やメモの同期はできない。またPDF以外のフォーマット、具体的にはEPUBの表示にも対応しない。
といった具合に、汎用的なタブレットに比べるとできることは限られるが、画面サイズと軽さ、さらに価格などメリットは多く、PDF利用がメインという場合は、メインの電子ノート機能と合わせて、注目に値する製品だ。
サイズ違いのほか、PCのディスプレイで読む選択肢も
以上がおすすめの2製品となるが、これ以外の選択肢を見ていこう。
まずは、画面サイズにそれほどこだわりがなく、ハンドリングをより重視したい場合は、前述の2製品の小型版が候補となる。12.9インチiPad Proについては11インチiPad ProかiPad Air、QUADERNOについてはA5モデルがそれに該当する。
いずれも画面サイズが10型クラスというだけで、ここまで紹介した機能はほぼそのまま利用できる。ただし見開き表示については、解像度は問題ないものの、注釈などの文字は小さすぎて読みづらい。逆に言うと、見開きが不要で単ページ表示で十分という人は、最初からこちらをメインに考えてもよいかもしれない。もちろんコスト的にも有利だ。
一方で、画面を見ながらプログラミングなどの作業を行う場合、タブレットにこだわらず、PCのディスプレイに表示する手もあるだろう。例えば今回試用しているサンプル書籍は紙版が182×232mm、見開きだと364×232mmなので、PC用のワイド比率のディスプレイで言えば19型(420×240mm)以上なら、原寸サイズでの表示が可能だ。
ただしPCのディスプレイに表示する場合、タブレットで読むのと比べ、画面と目との距離がより離れているのが一般的なので、実際には24~32型程度のサイズがないと、毎回画面に目を近づけて読まざるを得なくなる。電子書籍を表示する用途でディスプレイを調達するならば、多少オーバーであっても、なるべく大きい画面の品を選ぶことをおすすめする。