山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
10~11型の範囲に3種類もある「iPad」は電子書籍を読むならどれを買えばいいのか?
3製品の使いやすさの違いを徹底比較
2022年5月26日 06:55
いま電子書籍を閲覧することを主な目的にタブレットを買うのであれば、筆頭に挙げられるのはやはりAppleの「iPad」シリーズだろう。最近はAndroidタブレットの選択肢が減っていることもあり、「iPad」の安定感と完成度の高さ、そしてラインナップの充実ぶりは、タブレットの中でも突出しているというのが現状だ。
そんなiPadのメインストリームとなるのは10~11型のモデルだが、iPadはこのゾーンに「iPad」・「iPad Air」・「iPad Pro」という3つの製品が存在している。実売価格も大きく異なっており、どれを選べばよいか迷いがちだ。
今回は、この3製品について、電子書籍を読むための端末としてはどれが適しているか、さまざまな観点からチェックしていこう。なおコミックの表示サンプルには、「Kindle Unlimited」で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第6巻』を、また雑誌の表示サンプルには、『DOS/V POWER REPORT』の最新号を使用している。
意外とある画面サイズの差
まず大前提として、電子書籍の閲覧用途であれば、現行の3製品のどれを選んでも失敗はない。もちろん性能差は存在するが、そもそも電子書籍自体、それほど高い性能が要求されるわけではないため、ゲームをする場合などと違って、どれを選んでも電子書籍アプリの動作が遅くて困るといった問題は考えにくい。
そうした中で、まずチェックすべきなのは画面サイズの違いだろう。画面サイズは10~11型という狭い範囲で分布しており、大きな差はない……と言いたいところなのだが、3製品を実際に並べてみると、エントリーモデルである10.2型の「iPad」は、明らかにひとまわり天地が短いことが分かる。
もっともこれは実機を並べて初めてわかることで、単体で見た場合はそこまで気にならない。気になる場合があるとすれば、上位2モデルを過去に使った経験があり、新たに10.2型の「iPad」を入手した場合くらいだろう。初期の「iPad Pro」や「iPad Air」は9.7型だったので、そちらからの移行であれば、むしろ大きく感じるかもしれない。
また「iPad Pro」や「iPad Air」は、「iPad」に比べると画面が若干細長いので、雑誌を表示すると、横幅が圧迫され、結果的に「iPad」と表示サイズが変わらないという現象が起きがちだ。こうなってくると、前述の画面サイズの差は意味を持たなくなる。むしろ天地の余白がないぶん、「iPad」のほうが見た目フィットしているように感じられるほどだ。
電子書籍を表示するにあたって大きなポイントとなる画面解像度については、現行モデルはいずれも264ppiと完全に横一線で、どれを選んでも差はない。Retinaディスプレイを搭載していない初期の低解像度の「iPad」と違い、現行の3モデルは、雑誌コンテンツを表示した場合も、無理に拡大しなくとも、通常サイズの文字ならば十分に読み取れる。
ただし「iPad Air」および「iPad Pro」は反射防止コーティングが施されているため、蛍光灯などの外光の反射が少なく見やすいという優位性がある。反射防止フィルムを貼らなくとも画面のギラつきを抑えられるのは、優位なポイントの一つと言っていいだろう。
持ちやすさでは「iPad」がむしろ有利?
表示まわり以外のポイントをチェックしていこう。
ひとつは持ちやすさだ。エントリーモデルの「iPad」はホームボタンを搭載しており、誰でもわかりやすい操作性が特徴だ。またホームボタンを搭載するため、画面を横向きにした時の左右のベゼル幅が太く、手で持ちやすいことも大きな特徴だ。
ミドルクラスの「iPad Air」、およびハイエンドの「iPad Pro」は、上下左右のベゼル幅が均等なので見た目がスタイリッシュで、かつボディがコンパクトという特徴もあるのだが、持ち方によっては指先がタッチスクリーンに触れ、意図せずページがめくられてしまうことがある。電子書籍ユースに限っては、エントリーモデルの「iPad」のほうが使い勝手はよい。
生体認証は、「iPad」がホームボタンと一体化したTouch ID(指紋認証)、「iPad Air」は電源ボタンと一体化したTouch ID(指紋認証)、「iPad Pro」はFace ID(顔認証)という違いがある。どれも一長一短で、これらのみで優劣をつけるのは難しい。
ただし、「iPad Pro」のFace IDは、うっかりセンサー部を指で覆っていてエラーが出ることがしばしばだ。というのも電子書籍ユースでは、本体を手で持った状態でこれら生体認証を用いてロック解除をすることが多いので、どうしてもその状態になりやすいのだ。生体認証の使いやすさでどれを選ぶかが決まるわけではないが、「iPad Pro」はこうした理由もあって、他の2製品よりも若干マイナスというのが筆者の印象だ。
体感的には重量差はほとんどなし
本体サイズおよび重量はどうだろうか。ボディサイズは、比較写真でも分かるように、画面サイズが大きい「iPad Pro」と「iPad Air」のほが、「iPad」よりもコンパクトという逆転現象が起きている。これは言うまでもなくベゼルがスリムなためだ。「iPad」は画面下にホームボタンがあるぶん、どうしてもボディサイズは大きくなってしまう。
また厚みについても、「iPad Pro」が5.9mm、「iPad Air」が6.1mmとほぼ誤差レベルなのに対して、「iPad」は7.5mmとほかよりも1mm以上厚く、ややずんぐりとしている。ただ重量で比較すると、「iPad Pro」が466g、「iPad Air」が461gなのに対して、「iPad」は487gと、ボディがひとまわり大きい割には20gちょっとの差しかない。
実際に手に持っても、「iPad Pro」と「iPad Air」は明らかに密度が高いぶん体感的に重く感じるのに対し、「iPad」はボディ内の空洞の部分が外からも判別でき、実重量よりも軽く感じる。おそらくブラインドテストをすれば、「iPad」がもっとも軽いと答える人もいるはずで、あまり決め手にならない印象だ。
このほかハードウェアとして比較するならば、カメラの違いや接続ポートの違い、さらに5Gへの対応の有無(「iPad」のみ5G非対応)といった差もあるが、これらは電子書籍ユースではほぼ問題にならないだろう。言うまでもないが、どの製品もiPadOSで動作するので、ソフトウェアおよびアプリの差はない。
敢えて「iPad Pro」が選ばれるケースとは?
価格については、3製品で唯一容量が共通する256GBのWi-Fiモデルで比較すると、「iPad」が57,800円、「iPad Air」が92,800円、「iPad Pro」が106,800円と、かなりの差がある。中間の価格帯だった「iPad Air」は今年3月のモデルチェンジで価格が改定され、かなり「iPad Pro」に近い価格になったため、そのぶん「iPad」の安さが際立つ状況になっている。
とはいえ「iPad」は、ホームボタンにLightningコネクタという、旧来のフォームファクタをそのまま採用したモデルであり、将来性も鑑みて候補からは外したいという人もいるだろう。となると残る2製品のどちらかを選ぶことになるのだが、こうした中で電子書籍ユースにおいて、最上位に当たる「iPad Pro」を敢えて選ぶケースはあるだろうか。
もしあるとすれば、それは容量を重視する場合だろう。というのも「iPad」と「iPad Air」は、ともに容量が64GBと256GBの2択しかなく、さらに上の容量が用意されているのは「iPad Pro」だけだからだ(最大2TB)。
もちろん電子書籍のためだけに使うのであれば、256GBあれば十分だ。お気に入りのコミックを百冊単位でローカルに保存するのも余裕だし、こまめに入れ替えながら読むのであれば64GBでも問題なく対応できるだろう。
しかし電子書籍以外のコンテンツ、例えば写真や動画を大量に保存するとなると、256GBでは心もとないケースも出てくる。そもそも「iPad」に限らず、タブレットの容量は、システムが占めるスペースが一定の割合を占めており、全容量をフリーで使えるわけではない。通常時は問題なくとも、iPadOSのアップデートに支障をきたす可能性もある。
こうしたことから、容量を重視するのであれば、「iPad Pro」が候補となることは十分にありうる。もちろん予算に折り合いが付けばという条件付きだが、電子書籍ユースとしてはややオーバースペックな「iPad Pro」を敢えてチョイスする理由があるとすれば、おそらくこの容量面ということになるはずだ。