山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
「iPad」vs「iPad mini」 ~価格はほぼ横並び、電子書籍を読むならどっちが快適?
2022年12月21日 12:48
2022年10月にモデルチェンジした新「iPad」(第10世代)は、初代から搭載されていた伝統的なホームボタンがなくなり、「iPad Air」や「iPad Pro」と同じ、薄型ベゼルを搭載した全画面デザインへとリニューアルされた。2021年9月に一足早くリニューアルを終えていた「iPad mini」と、デザインが共通化されたことになる。
いま「iPad」のいずれかのモデルの購入を考える場合、選択肢がこの「iPad」、および「iPad mini」の2択となるケースは多いと考えられる。特に電子書籍ユースでは、クリエイティブ用途やゲーム用途のような最上級のスペックは求められないことから、iPadファミリーの中ではエントリークラスの位置づけにあり、価格も手に届きやすいこの両製品は、真っ先に候補になるはずだ。
果たしてこの「iPad」と「iPad mini」、画面サイズが違うだけのモデルとみなしてよいのか、それとも他に把握しておくべき相違点は存在しているのだろうか。今回は電子書籍ユースを中心に、「iPad」と「iPad mini」を比較するにあたって知っておきたいポイントをチェックする。
なお画質比較のサンプルには、「Kindle Unlimited」で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第2巻』を、許諾を得て使用している。またテキストは夏目漱石著『坊っちゃん』を、雑誌は『DOS/V POWER REPORT』の最新号を、それぞれサンプルとして使用している。
外観はそっくり。スペックは「iPad mini」が上
まずざっと外観やスペックをチェックしておこう。両製品とも、上下左右の幅が均等な薄型ベゼルを採用しており、指紋認証センサーを備えた電源ボタン(トップボタン)を搭載する。音量ボタンの位置など細かい違いはあるものの、サイズの相違を除けば、デザイン自体はそっくりだ。ちなみにストレージは両者ともに64GBと256GBの2ラインナップ構成だ。
CPUの性能は、「iPad mini」がA15チップ、「iPad」がA14チップということで、発売時期が早い「iPad mini」のほうが高性能。メモリは同じ4GBということもあり、各種ベンチマークテストでは「iPad mini」のほうが高いスコアが出る。
ディスプレイは、「iPad mini」はフルラミネーションディスプレイや反射防止コーティングなど、上位モデルと同じ加工が施されているのに対して、「iPad」ではこれらは非対応。また色域は、「iPad」はsRGB止まりなのに対して、「iPad mini」はそれより35%広いP3に対応。さらに解像度は、「iPad」が264ppiなのに対して、「iPad mini」は326ppiと、より高精細だ。
このように、スペック的には「iPad mini」のほうが高い部分が多い。このほか電子書籍ユースには直接関係しないが、オプションの「Apple Pencil」についても、「iPad」が第1世代しか対応しないのに対して、「iPad mini」は第2世代に対応するという違いもある。
一方で、「iPad」にしか搭載されない機能もないわけではない。ひとつはSmart Connectorで、専用の外付けキーボード「Magic Keyboard Folio」が利用できる。またインカメラが短辺側ではなく、長辺側に搭載されているのは、画面を横向きにして使う場合には便利だ。被写体を画面の中央に捉えてくれるセンターフレーム機能を使えば補正は可能とは言え、カメラ自体が中央寄りにあるのに越したことはないからだ。
雑誌、コミック、テキスト、読みやすいのはどちら?
では本題、電子書籍ユースについて見ていこう。前述のように、ディスプレイ周りの性能は、「iPad mini」のほうがスペック的には上になるわけだが、やはりポイントとなるのは、画面サイズの違いにまつわる部分だろう。
画面サイズは、「iPad mini」が8.3型、「iPad」が10.9型。「iPad mini」での1ページの表示サイズは、「iPad」で見開き表示をした場合のページサイズとほぼ等しくなる。ざっくり『「iPad mini」の2画面分が「iPad」の1画面分』と考えて差し支えないだろう。
コミックを読む時にひとつのポイントになる見開き表示は、「iPad」は問題なく対応するということでほとんどのユーザーは異論はないはずだが、「iPad mini」については賛否は分かれるだろう。吹き出しの中のセリフはまだしも、欄外などに書かれた文字は、「iPad mini」は老眼だとかなりつらいと感じることがある。
こうした傾向は雑誌ではさらに顕著になる。雑誌をなるべく原寸大で読むためには、iPadシリーズだと最上位の12.9インチ「iPad Pro」がもっとも理想的で、10.9型の「iPad」だと、やや窮屈な画面で我慢をしながら読むことになる。これがさらに画面が小さい「iPad mini」だと、面積的にも12.9インチ「iPad Pro」の半分以下になるので、ページ全体を表示しつつ読むのは絶望的だ。
仮に電子書籍側にページを縦スクロールする機能があれば、それを使って多少はカバーできるが、そうでなければページごとにダブルタップやピンチインアウトを駆使して画面を拡大縮小しながら読まなくてはいけなくなる。こうした面倒さを考えると、雑誌を読む頻度が高ければ、「iPad mini」はなるべく避けたほうがよいと言える。
ただし「iPad mini」は解像度は326ppiと高いことから、細かい文字を読むのにまったく抵抗がないのであれば、可搬性を優先して、「iPad mini」を選ぶ手もあるだろう。低解像度で物理的に文字が潰れてしまって読めないのとは根本的に異なるので、その点は留意したい。
最後に、テキスト本はどうだろうか。テキストコンテンツはリフローが可能なため、文字サイズを自分で読みやすく調整すればよく、「iPad」でも「iPad mini」でもどちらでもかまわない。むしろ「iPad」でテキストコンテンツを読もうとすると、1画面に表示される文字数が多すぎて落ち着かない場合もあるので、どちらかというと「iPad mini」が適任だろう。
知っておきたいiPadと「iPad mini」の縦横比の違い
ところであまり知られていないのが、「iPad」と「iPad mini」とでは、画面の縦横比が異なることだ。
「iPad mini」は、「iPad」をそのまま縮小したように見えて、「iPad」よりも画面が細長い。一般的にコミックを表示するには、縦横比が4:3、つまり短い辺に対して長い辺が「1.33」倍あるのが理想だが、「iPad」はやや細長い「1.44」倍、「iPad mini」はそれよりもさらに長い「1.52」倍となっている。この値が大きければ大きいほど、画面の端に無駄な余白が生じることになる。
Amazonの「Fire」などワイドサイズのタブレットになると、これが「1.78」倍になるので、それよりははるかにマシなのだが、コミック表示などで画面の広さを効率的に使えるのは、「iPad mini」よりも「iPad」ということになる。余白の有無が見やすさに直接影響を及ぼすわけではないが、ボディサイズの割に表示されるコンテンツの面積が小さいのは、やはりどこかもったいなさを感じるものだ。
一方で、電子書籍ではなく動画を表示する場合は、前述のワイド比率に近いほうがよいので、むしろ「iPad mini」のほうが適している。電子書籍と動画のどちらにも向いたいいとこどりの製品が「iPad mini」、どちらかというと電子書籍寄りでブラウジングでも見やすいのが「iPad」、くらいに解釈しておけばよいだろう。
「重量」「どこで読むか」もチェックしておきたい
以上のように、電子書籍ユースで「iPad」と「iPad mini」のどちらを選ぶかは、どのようなコンテンツを主に読むかで決めるのが正しい。スペック的にはどちらも一定のラインをクリアしているので、ほかのタブレットのように、ページめくりなどの基本操作や、ダウンロードの速度でもたつかないかを気にせず済むのは、なによりと言っていいだろう。
一方で気になるのは重さだ。本体の重量は、「iPad mini」が293g、「iPad」は477g。その差は約184gということで、iPhone 14(172g)の重量を上回る。これだけ違うと、手に持った時の差は相当なものだ。
事実、片手持ちでも余裕のある「iPad mini」と違って、「iPad」はどうしても両手持ちが中心にならざるを得ない。電車やバスといった交通機関の中で、吊り革を持った状態で使う機会が多いようならば、「iPad mini」をチョイスしたほうが、不便なく使えてよいかもしれない。
もともとiPadシリーズは視野角が広いだけに、公共交通機関の中で使うとなると、隣の席の人からは画面が丸見えだ。それらが気になるようであれば、画面サイズがコンパクトな「iPad mini」のほうが、周囲からガードしやすくなる。そうした「どこで読むか」も意識しておいたほうが、買ったあとで後悔せずに済むかもしれない。