山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
新登場『Kindle Scribe』vs定番『Fire HD 10』 ~Amazon製大画面デバイス対決
コミックの見開き表示も余裕なAmazonデバイス2製品を比較
2023年1月31日 06:55
Amazonから、E Ink電子ペーパーを採用した電子書籍端末Kindleの大画面モデル『Kindle Scribe』が登場した。画面サイズは10.2型ということで、これまで最大だった『Kindle Oasis』(7型)と比較すると、面積は実に2倍以上ということになる。これだけのサイズがあれば、コミックを見開きで表示するのにもまったく支障はない。
ところで同じAmazonでは、メディアタブレット『Fire』にも10.1型という大画面モデル『Fire HD 10』(今回の撮影には上位モデルの『Fire HD 10 Plus』を使用)が存在している。こちらもやはり、コミックなどの見開き表示に対応しうる画面の大きさが売りの製品だ。今回は、Amazonが販売するこの2つの大画面デバイスについて、それぞれどのような特徴があり、どのような使い方に向くかを比較してみよう。
なお画質比較のサンプルには、『Kindle Unlimited』で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』を、許諾を得て使用している。またテキストは夏目漱石著『坊っちゃん』を、雑誌は『DOS/V POWER REPORT』の最新号を、それぞれサンプルとして使用している。
意外に大きい画面サイズの差。利用できるストアに違いあり
新しく登場した『Kindle Scribe』は画面サイズが10.2型で、画面のアスペクト比は4:3と本に近く、電子書籍のページにほぼぴったりフィットする。サイズ的にもかなりの余裕があり、画面を横にすることで、コミックや単行本を原寸に近いサイズで見開き表示できる。
『Fire HD 10』も、画面サイズは10.1型と数値上は同等だが、アスペクト比は16:10とかなり横長で天地が圧迫されるため、同じコミックや単行本を表示しても、『Kindle Scribe』に比べるとサイズは2周りほど小さくなる。動画を表示した場合はこのアスペクト比は適切なのだが、電子書籍をなるべく大きく表示したければ、『Kindle Scribe』のほうが有利だ。
ただしE Ink電子ペーパーを採用する『Kindle Scribe』は、画面はカラーではなくモノクロ16階調。それゆえ色をふんだんに使った雑誌などを表示するには向かない。また技術書でも、色分けされている図版は、グレー表示になることで意味がわかりづらくなることもしばしばだ。
カラー液晶を採用する『Fire HD 10』はこうした制約はなく、どのようなコンテンツも色鮮やかに表示できる。タブレットとしては決してハイエンドではないため、アプリの切り替えこそワンテンポ待たされることはあるが、画面の書き替えでE Ink独特の残像が少なからず発生する『Kindle Scribe』に比べ、ページめくりなどの挙動もスムーズだ。
どちらもAmazon純正デバイスだけに、利用可能な電子書籍ストアはAmazonの『Kindle』のみ……と思われがちだが、Fireシリーズは2022年になって新たに雑誌の定額読み放題サービス「dマガジン」に対応した。前述のように画面が細長いため、雑誌を表示すると余白が目立つとはいえ、カラー表示が可能なことから、雑誌を読むのには適している。
『Kindle Scribe』はペンを使っての手書きメモに対応
本にメモをつけたり、付箋を貼ることができる読書支援機能についてはどうだろうか。Kindleストアで売られているテキストコンテンツは、傍線を引いた上でハイライトをつけたり、メモをつける機能を備える。これは専用端末(『Kindle』や『Fire』)に限らず、スマホやタブレットで使えるKindleアプリでも同様だ。
この機能をベースに、さらにプラスアルファの機能を追加したのが『Kindle Scribe』だ。『Kindle Scribe』は同梱のペンを使って手書きでハイライトをつけたり、メモを書き込むことができる。
これらの操作を指先で行おうとすると、範囲指定が難しかったり、メモもキーボードから入力しなくてはいけない不便さがあるが、ペンを使うことで紙の本に書き込む感覚で操作できる。本稿執筆時点では他のKindleデバイスやアプリとの同期には非対応だが、『Kindle Scribe』の中だけで操作が完結するのであれば非常に重宝する。
ちなみに『Fire HD 10』にもハイライトやメモ機能はあるが、これらは指先での操作が前提だ。汎用スタイラスを使って指先でしづらい操作を代替することは可能だが、メモはあくまでキーボードを使っての入力になり、ペンでの手書き入力は非対応だ。書き込みを含めた電子書籍の活用という点では、『Kindle Scribe』のほうが現状では上だ。
バッテリーの持続時間に大きな違い
読書用途に限定せず、ハードウェアの全般的な違いについて見ていこう。
まず画面の見やすさについて。『Kindle Scribe』が採用するE Ink電子ペーパーは画面に直接印刷したかのような質感が特徴で、またフロントライトは上下から画面を照らす構造ゆえ、バックライトで光が直接目に飛び込んでくる『Fire HD 10』と違って目は疲れにくい。さらに直射日光下でも見やすいという利点がある。コンテンツがモノクロであればという条件付きだが、見やすさは圧倒的に『Kindle Scribe』のほうが『Fire HD 10』より上だ。
重量は『Kindle Scribe』が433g、『Fire HD 10』は468gと差はわずかなのだが、ややボディが厚ぼったい『Fire HD 10』に比べて『Kindle Scribe』はボディが薄く、そのせいか重量差も数値以上にあるように感じられる。とはいえ片手で長時間持てる重量ではないという点ではどちらも変わらず、重量差がこの両者のどちらを選ぶかの決め手になることはないだろう。
ストレージ容量は、『Kindle Scribe』が16GB/32GB/64GB、『Fire HD 10』は32GB/64GB。後者はメモリカードスロットを搭載しており、最大1TBの容量を追加できる。もっともこれについては、用途が読書と電子ノートに限定される『Kindle Scribe』と、汎用の『Fire HD 10』を比較することにあまり意味はない。『Fire HD 10』を動画鑑賞に利用していると、それらのキャッシュで容量の多くを使ってしまうこともありうるからだ。
バッテリーの持ちのよさは、『Kindle Scribe』の圧勝だ。なにせ『Fire HD 10』が最大12時間のところ、『Kindle Scribe』は最大12週間と、単位そのものが異なっている。充電のペースは、『Fire HD 10』は数日ごと、Kindleは月に一度程度になると考えておけばよいだろう。
充電はどちらもUSB Type-Cポートで行うが、『Fire HD 10』は上位モデルの『Fire HD 10 Plus』のみワイヤレス充電に対応しており、オプションの専用スタンドも販売されている。未使用時はつねにスタンドに置くようにすれば、『Kindle Scribe』に比べると不利なバッテリーの持続時間をカバーできるだろう。
価格は『Fire HD 10』が圧倒的に有利だが…
最後に価格について見ていこう。実売価格は『Kindle Scribe』が5万円前後、『Fire HD 10』が2万円前後。『Kindle Scribe』はスタイラスペンが付属しているとはいえ、相当な価格差だ。汎用性の高いFireに比べると、『Kindle Scribe』でできることは読書および電子ノートへの手書きに限定されるので、「できること」と「価格」のバランスだけを見れば、『Fire HD 10』のほうが圧倒的に有利だ。
とはいえ、決して「できること」と「価格」だけで決められないのが、こうしたデバイス選びでの難しいところ。読書に没頭したければ、むしろ機能が限定された『Kindle Scribe』のほうが有利だろうし、目の疲れにくさ、バッテリーの持続時間の長さといった、E Ink電子ペーパーならではの利点も見逃せない。このどれを重視するかによって、最適解は変わってくるだろう。
ちなみに『Fire HD 10』は、今回の写真で紹介している上位モデル『Fire HD 10 Plus』のほうが、メモリ容量が多く動作はより軽快だ。『Kindle Scribe』と比較検討した結果『Fire HD 10』を選ぶのであれば、予算は多少余裕があると考えられるので、前述のワイヤレス充電の利便性なども踏まえて、上位の『Fire HD 10 Plus』を選ぶことをおすすめしたい。