山口真弘のおすすめ読書タブレット比較

Amazonの『Fire Max 11』は『Fire HD 10 Plus』より1万円高いだけの価値があるか?

左が『Fire Max 11』(以下本製品)、右が『Fire HD 10 Plus』。実売価格は前者が34,980円(64GB)、後者が22,980円(32GB)

 2023年6月にAmazonから新登場したタブレット『Fire Max 11』は、Fireとしては初となる生体認証(指紋認証)を搭載したほか、スタイラスやキーボード(いずれもオプション)の利用にも対応。何より性能が格段に向上し、コスパ重視だった過去モデルと比べても軽快に利用できるようになった。

 一方で実売価格は64GBモデルで34,980円と、32GBモデルが22,980円だった『Fire HD 10 Plus』よりも1万円以上値上がりしている。ストレージの容量差を差し引くと実際の値上げ幅は数千円程度なのだが、3万円の大台に乗ったことで、購入にはより慎重にならざるを得ない。

 今回はこの『Fire Max 11』を『Fire HD 10 Plus』と比較し、それだけの価格差があるにふさわしいかを、実機を用いてさまざまな観点からチェックしていく。

 なお画質比較のサンプルには、『Kindle Unlimited』で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』を、許諾を得て使用している。また雑誌は『DOS/V POWER REPORT』の最新号を、サンプルとして使用している。

ボディ質感は大幅アップ。画面まわりはほぼ同等

 まずは外見と画面周りから。本製品のボディは従来のFireに共通していた、チープさを感じる樹脂素材ではなく、iPadなどと同じアルミ製に変更されている。厚みも7.5mmとスリムで、9.2mmと厚ぼったい『Fire HD 10 Plus』の面影はまったくない。

 画面は10.1型から11型へと大きくなったが、これに合わせてベゼルもスリム化しているため、ボディサイズはそう極端に変わっていない。重量は490gということで、『Fire HD 10 Plus』の468gからすると若干重くなってはいるが、500g以内に収めたのは評価できる。どちらも両手で長時間持つのに厳しい重量だが、これは10型クラスのタブレットはどれも基本同じだ。

背面の比較。本製品(左)はアルミボディで、『Fire HD 10 Plus』(右)よりもスタイリッシュだ
厚みの比較。左が本製品、右が『Fire HD 10 Plus』。厚ぼったさが解消されている
ベゼル幅の比較。左が本製品、右が『Fire HD 10 Plus』。大幅にスリムになっている

 画面は大型化している一方で、アスペクト比が細長くなったことから、コミックなど固定レイアウトの電子書籍を表示した場合は、従来に比べて端の余白が目立つようになっている。10.1型から11型に大型化した恩恵をあまり受けないコンテンツもあるので注意したい。

 解像度は224ppiから213ppiへと下がっているが、これは画面サイズが大きくなったことで計算上そうなるというだけで、両者を比較しても画質に違いはない。ただし画面サイズでカバーできているだけで、300ppiクラスの製品と比べるとやや見劣りするのは事実だ。現行のタブレットの中では「並」レベルという表現が妥当だろう。

コミックの見開きを比較したところ。上が本製品、下が『Fire HD 10 Plus』。本製品のほうがひとまわり大きく表示されているが、左右の余白もかなり大きくなっている
雑誌のページを比較したところ。上が本製品、下が『Fire HD 10 Plus』。こちらもやはり本製品のほうがひとまわり大きい一方、上下の余白はそれ以上に大きくなる傾向がある

指紋認証対応で使い勝手は劇的に向上

 一方で、実際の使い勝手に関しては、『Fire HD 10 Plus』に比べて明らかに進化している。

 ひとつは指紋認証だ。歴代のFireは生体認証に対応していなかったが、本製品は初めて指紋認証センサーを搭載し、ロックの解除が簡単に行えるようになった。従来は、毎回パスコードを入力しなくてはいけなかったので、使い勝手は劇的に向上している。認識の精度も高い。

 一方で、アルミボディの採用で薄くスタイリッシュになった反面、滑り止め加工が施された『Fire HD 10 Plus』よりも滑りやすくなっている。特に屋外など、落下が即故障につながる場所での利用には気をつけるべきだろう。こうした点は、滑りにくいことに加えて、価格が安いぶん壊れても痛手になりにくい『Fire HD 10 Plus』のほうが優秀と言える。

本製品は新たに指紋認証に対応。センサーは電源ボタンと一体化している
『Fire HD 10 Plus』は生体認証には非対応で、毎回ピンコードでロックを解除する必要がある
本製品はアルミボディでスタイリッシュだがそのぶん滑りやすいのも事実
『Fire HD 10 Plus』は滑り止めのコーティングが施されており手に馴染みやすい

パフォーマンスは従来の約2倍と圧倒的

 パフォーマンスについては雲泥の差だ。実際に使っていても、本製品は『Fire HD 10 Plus』以前のモデルに感じられたもっさり感がほとんどなく、実際にベンチマークを取ってもスコアは『Fire HD 10 Plus』のほぼ2倍と、圧倒的な性能差がある。

 これらは、電子書籍のページをめくるなどの基本操作ではそう露骨な差はないが、目的の本を探すためにライブラリをスクロールしたり、ストアを表示して表紙のサムネイルを同時に多数読み込む場合に、その違いを実感する。Fireシリーズの場合、電子書籍だけでなく、プライムビデオなど他のアプリと切り替えて使う機会も多く、そうした場合にも恩恵がある。

Google Octane 2.0でのベンチマークスコアの比較。本製品は「21425」、『Fire HD 10 Plus』は「10098」と、倍以上の開きがある。標準モデルの『Fire HD 10』との比較であればさらに差は広がるだろう

拡張性はそれぞれに特徴あり。メモリカードにも対応

 電子書籍ユースからはやや離れたところで、拡張性についてはどうだろうか。本製品は別売のスタイラスを用いての手書き入力に対応するほか、保護カバーと一体化した日本語JIS配列の専用キーボードもオプションで用意されており、Chromebookのような使い方も可能だ。

 『Fire HD 10 Plus』にもケース一体型のキーボードはオプションで用意されているが、接続はBluetoothなのでスリープからの復帰はワンテンポ遅れる上、タッチパッドは非搭載ときている。本製品のキーボードはタッチパッドを搭載する上、専用のポゴピンで通信を行うのでスリープからの復帰も早く、入力の遅延もない。またペアリングなどの設定も不要だ。

本製品(上)は、『Fire HD 10 Plus』(下)にはないポゴピンを底面に搭載し、専用キーボードを接続できる
設定画面を見ると、従来はなかった「Fireタブレットのアクセサリ」という、キーボードやペンの設定をするための項目が新たに設けられており、OSベースでサポートされていることが分かる

 一方、『Fire HD 10 Plus』が優っている点として、専用充電スタンドと組み合わせてのワイヤレス充電に対応することが挙げられる。おそらく薄型化を優先したことで、これらのギミックは省かれたのだろう。ふだんはスタンドに置いて充電しておき、使いたい時はサッと手に取るという使い方は、『Fire HD 10 Plus』でのみ可能だ。

 なお、Bluetoothによるデバイスの追加は両者ともに自由に行えるので、市販のキーボードやマウス、リモコンデバイスを追加することもできる。こうした点は、両者ともに大きなハンデはない。またメモリカードについては、両者ともに最大1TBまで対応しており、メモリカード非対応の競合製品と比較した場合のアドバンテージとなっている。

従来と同じくメモリカード(microSD)に対応している。なおスロットはトレイ式に改められている

価格差なりの価値は十分。オプションの購入も検討したい

 以上のように本製品は、従来の『Fire HD 10 Plus』と比較しても、性能・機能ともに大きく上回っており、1万円以上の価格差なりに価値は十分にある。前述のワイヤレス充電まわりにこだわりがあるユーザーや、イヤホンジャックがどうしても必要なユーザーは気をつける必要があるが、強いて挙げればそのくらいだ。

 一方で、Fireタブレットならではの欠点、具体的にはストアでのアプリのラインナップの乏しさや、GPSセンサーを搭載しないがゆえの一部ゲームやナビ利用には向かない点などは、どちらのモデルも違いはない。購入に当たってはそれらマイナス点も把握しておきたいところだ。

本製品(上)には『Fire HD 10 Plus』(下)にあったイヤホンジャックが省かれている
本製品(上)はカメラが高性能化した反面、背面に飛び出る設計になってしまっている。カバーをつければ段差を解消できるとはいえやや惜しい

 本製品を日常的にしばらく使って感じるのは、従来のFireタブレットを凌駕するだけの高い拡張性を持った製品ゆえ、電子書籍や動画だけでは少々もったいないということだ。今後セールなどで安価に入手できる機会があれば、前述のスタイラスペンや、保護カバー一体型のキーボードについても、併せて検討することをおすすめする。