山口真弘のおすすめ読書タブレット比較

15,980円の「Fire HD 10」と38,280円の「iPad」 マンガを読むならどっち?

 さまざまな書籍のジャンルの中でも、電子書籍に比較的なじみやすいのがコミックだ。巻数が増えても場所を取らないことや、続きをすぐオンラインで購入できるのがその理由だ。家族にあまり知られたくない作品をこっそり揃えられることを、利点として挙げる人もいるかもしれない。

 最近はスマホ向けのマンガアプリが台頭し、ページを横にめくるのではなく縦にスクロールするコミックも増えているが、一方で従来と同じく、紙で販売されているコミックそのままの形で読みたいというニーズも根強い。

 今回はこのうち後者、見開きも含めてコミックを読むのに適した端末として、2つのタブレット端末を比較していく。なおサンプルとして、「Kindle Unlimited」で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第5巻』を許諾を得て使用している。

今回はコミックを読むのに適した2製品を比較する。なお「Fire HD 10(手前)」はメモリ容量の多い上位モデルの「Fire HD 10 Plus」にて試用を行っている(後ろは「第8世代iPad」)

コミックを見開きで読むのにちょうどいいデバイスは?

 コミックを見開きで読むにあたってデバイスに求められるのは、なんといっても画面サイズだ。2つのページを横に並べるだけならば、スマホ向けの電子書籍アプリでも不可能ではないが、画面が小さいとセリフが読み取れなかったり、細かい表現が潰れてしまう。見開きにできてもページの高さが数センチというのは、さすがに無理があると言わざるを得ない。

 現実的に見開き表示に耐えうる画面サイズとしては、「10型以上」というのがひとつの目安になる。これが8型前後の「iPad mini」や「Fire HD 8」だと、見開き表示では1ページのサイズが文庫本以下になってしまい、極端に読みづらい作品も出てくる。持ち歩くためにボディサイズに制限があるような場合を除けば、やはり10型クラスのタブレットが無難だ。

「Fire HD 10」vs「iPad」

 こうした条件に当てはまる端末として筆頭に上がるのが、この5月に新モデルが発売されたばかりの、Amazonの「Fire HD 10」とその上位モデル「Fire HD 10 Plus」だ。画面サイズは10.1型で、従来モデルの欠点だった重量も改善されているほか、従来モデルにあったもっさり感も大幅に解消されている。

 利用できる電子書籍ストアはKindleのみなので、他の電子書籍ストアを使っている場合は残念ながら選外だが、2万円を切るコストパフォーマンスの高さは大きな魅力で、Kindleユーザにとっては願ってもない候補となる。ちなみに現行モデルは第11世代にあたる。

Amazon「Fire HD 10」。画面サイズは10.1型、メモリ3GBで実売15,980円~と破格の安さだ。メモリ4GBの上位モデル「Fire HD 10 Plus」でも実売18,980円~と2万円を切る
コミックの単行本とのサイズ比較。見開きでの1ページのサイズは、単行本よりもひとまわり小さくなる

 これに対抗しうる10型クラスの端末としては、Appleの「iPad」が候補となる。画面サイズは10.2型、エントリーモデルならば3万円台から入手でき、何より汎用性はお墨付きだ。前述の「Fire」がKindleストアしか利用できないのに対して、iPadであればApple BooksやKindleをはじめ、さまざまな電子書籍ストアを利用できる。

 iPadは現在10~11型クラスで「iPad」「iPad Air」「iPad Pro」という3製品をラインナップしているが、一般的に電子書籍はそれほど高いスペックは必要なく、またiPadはローエンドでも一定のパフォーマンスで動作するので、目的と予算を考慮するとここでの選択肢は「iPad」一択となるだろう。ちなみに現行モデルは第8世代にあたる。

Apple「iPad」。初代から続くホームボタンを搭載するエントリーモデルで、実売価格は38,280円~と、10型クラスのiPadファミリーの中ではもっとも安価だ
コミックの単行本とのサイズ比較。見開きでの1ページのサイズは、単行本よりもひとまわり小さいが、前述のFireよりはわずかに大きい

画面のクオリティや厚みはほぼ互角

 画面のクオリティは、解像度ベースで見るとFireが224ppi、iPadが264ppiと若干差があるが、200ppiを切っているならまだしも、どちらも標準的と呼べる範囲だ。タップもしくはスワイプによるページめくりなどの操作性も同様で、レスポンスも速い。ダブルタップによる拡大・縮小もスムーズに行えるので、細かいセリフが読みづらい場合も、適宜ズームしながら読み進められる。

老眼などでセリフなどが読みにくい場合は、該当のエリアをダブルタップ
拡大表示されるので読みやすくなる。こうした操作はiPadも共通だ

 厚みについてはFireが9.2mm、iPadは7.5mmと若干差があるが、重量はどちらも400g台の後半と変わらないので、電子書籍を読む時の持ちやすさという意味において、製品選択の決め手になる部分ではない。

ページの表示サイズとロック解除方法は「iPad」が有利

 両者を並べた時、違いとして目につくのが画面の縦横比だ。iPadは4:3と本の縦横比とほぼ等しいため、ページが画面ほぼぴったりに表示されるのに対して、Fireは16:10と若干横長なので、コミックを表示すると天地が圧縮され、サイズが一回り小さくなる。ページを少しでも大きく表示するのであれば、iPadのほうが有利ということになる。

両者を比べるとFire(上)のほうが画面が横長で、ページが縦方向に圧縮された結果、iPad(下)に比べてひとまわり小さくなっている。現行のワイドタイプのタブレットによくみられる傾向だ

 もうひとつiPadが有利な点として、指紋認証(Touch ID)でロックを解除できることが挙げられる。Fireは指紋認証や顔認証などの生体認証に非対応で、ロックを解除するにはPINまたはパスワードを画面上で毎回入力しなくてはいけない。自宅で、かつ自分しか使わなければ画面のロック自体をOFFにしておく手もあるが、こうした点でFireはやや不利だ。

iPadはTouch IDを採用しており、指紋ですばやくロック解除が行える
Fire HD 10は毎回パスワードもしくはPINコードを入力する必要があるため、ロックと解除をたびたび繰り返す使い方では面倒さを感じることも

充電方法と電子書籍購入の利便性では「Fire HD 10」

 一方のFireの利点としては、ワイヤレス充電に対応することが挙げられる。これは上位モデルの「Plus」のみに備わる機能で、オプションのワイヤレス充電スタンドに乗せるだけで充電が行え、またその状態で読書スタンドとしても使える。どちらかというと読書よりは動画鑑賞に向いた機能だが、充電にケーブル接続を必須とするiPadにはない利点だ。

上位モデルの「Fire HD 10 Plus」はワイヤレス充電に対応。オプションの充電スタンドを読書スタンドとして使うこともできる。ちなみに縦置きも可能だ

 なおiPadには、コミックを読むにあたり、ひとつ大きなネックがある。それはApple Booksなど一部の電子書籍ストアを除いては、続刊をアプリ内で購入できず、毎回Webブラウザーで該当の電子書籍ストアにアクセスし、そこで購入したのち電子書籍アプリに転送しなくてはいけないことだ。

 これがFire場合、コミックを読み終わると表示される「続きを買う」というリンクをタップすればすぐに購入ページに遷移し、続刊を購入してすぐさまダウンロードできる。iPadの場合、すでに続巻を購入済みの場合を除き、読了後にアプリ内でダウンロードできるのはあくまでサンプルだけだ。

 これは自社コンテンツ以外はアプリ内での購入を原則サポートしないというAppleの方針によるもので、Apple以外の電子書籍ストアを使う上では、どうしてもネックになる。もっとも、購入はすべてPC上で行い、iPad側ではダウンロードして読むだけという運用ならば、何ら支障はない。そうした意味では、ユーザーの使い方に大きく左右される仕様と言える。

コミックを読み終わったあと、Fireであれば次の巻をストアで見る・買うのリンクが表示されるので、スムーズに続きを読める(今回のサンプルは読み放題の「Kindled Unlimited」に登録されているので「無料読書」が表示されている)
iPadでは、「Apple Books」など一部の電子書籍ストアを除き、次の巻を買うための直接のリンクは表示されない。サンプルはダウンロードできるが、購入は別途ブラウザーを表示して行うしかなく、続きの巻があるコミックを読みすすめるにはやや手間だ

小型のモデル(8型)、大型のモデル(12.9型)も要チェック

 最後に、今回紹介した2製品以外の選択肢についてもざっと触れておく。

 まずは冒頭でも紹介した、ひとまわり小さい8型クラスの「Fire HD 8」と「iPad mini」だ。外出先、例えば電車の中で取り出して使う場合、10型クラスはやや大きすぎるので、こうした場所での利用機会が多いようであれば、画面サイズが多少小さいことに目をつむっても、これらコンパクトな端末が候補に上がってくる。

 この両製品は今回紹介した2製品の実質的なサイズ違いに当たるので、画面サイズ以外の特徴はほぼそのまま読み替えて差し支えない。ただし動作速度は若干もっさりしており、ライブラリの読み込みなどは時間がかかる傾向がある。特にFire HD 8はそれが顕著だ。

Amazon「Fire HD 8」。前述の「Fire HD 10」の小型モデルに当たる。こちらもワイヤレス充電対応の上位モデル「Plus」がラインナップされている
「Fire HD 10」とのサイズ比較。ふたまわりほど小さくなるため、見開き表示はかなりギリギリだ。解像度は200ppiを切る189ppiとややダウンしているのが気になるところ
Apple「iPad mini」。前述の「iPad」の弟分に当たる、7.9型の小型モデル
「iPad」とのサイズ比較。こちらもふたまわりほど小さくなる。ホームボタンを搭載するなどの意匠はそっくりだ。こちらは解像度が326ppiとかなり高い
むしろ見開きよりも単ページ表示のほうが、紙の単行本(右端)のサイズに近い

 逆に10型クラスより大きい選択肢としては、12.9インチの「iPad Pro」が挙げられる。これだけの画面サイズになると、見開きの状態で紙の単行本とほぼ同じか、わずかに大きく表示できる。単ページ表示に切り替えると、雑誌掲載時に近いサイズまで実現できてしまう。また反射防止のコーティングなど、上位モデルならではの仕様も備えている。

 ただしボディは700gオーバーと、500gを切るiPadやFireに比べるとかなり重く、かつもっとも安価なモデルで129,800円~と、前述のエントリークラスのiPadが3台ほど買えてしまう。スペックもそうだが価格についても、電子書籍のためだけに購入するにはややハイエンドすぎるので、電子書籍を読む以外の活用方法も考えておくとよいかもしれない。

Apple「12.9インチiPad Pro」。容量が最大の2TB、かつCellular対応のモデルだと、価格は279,800円にも達する
見開きにした状態だと、1ページのサイズは紙の単行本とほぼ同じだ。迫力優先ならば候補の筆頭に上がるだろう
iPad(下)との比較。ホームボタンのないスリムベゼルで、余白部分が目立ちにくい
左から、12.9インチiPad Pro、iPad(10.2型)、iPad mini(7.9型)、iPhone 12 Pro Max(6.5)型。右2つは、単ページ表示は問題なくとも、見開きにはややつらいサイズだ

E Ink電子ペーパー端末は?

 最後に、前回紹介したE Ink電子ペーパー端末はどうだろうか。現在Kindleまたは楽天Koboで発売されているE Ink電子ペーパーの端末は、最大でも7.8型ということで、見開き表示はかなり厳しい。ページめくりボタンの配置からして、単ページ表示が基本となるだろう。

E Ink電子ペーパーを採用したKindleの最上位モデル「Kindle Oasis」。画面サイズは7.8型で、見開き表示にはややつらい

 専用端末ではなく、E Ink搭載の汎用タブレットであれば、それ以上のサイズの選択肢もある。例えばBOOXが販売している10.3型の「Note Air」などだ。ただし価格はカラータブレットと同等またはそれ以上で、なおかつ設定の難易度も高く、中級者以上向けの製品だ。コミックの場合、カラー表紙や挿絵も白黒になってしまうので、目が疲れるなどの理由がなければ、無難にカラータブレットを選んだほうがよい。

コミックは本文ページが白黒でも、表紙などカラーページも多いため、そうした場合にカラー対応であることは意味を持ってくる(写真はFire HD 10)

 ちなみにE Inkはカラー表示に対応した製品もちらほら出始めているが、現時点ではまだサイズは7.8型が上限だ。また現時点では発色や残像などの問題があり、まだ積極的にお勧めできるレベルにはない。もう何年後かには、こうしたコミック向けのデバイスとして、カラーE Ink端末が名を連ねるようになるかもしれない。