山口真弘のおすすめ読書タブレット比較
「Kindle Scribe」vs「BOOX NoteAir3」! 10型クラスのE Inkタブレット対決
読書に向いているのはどっち?
2024年3月8日 10:14
液晶や有機ELのようなバックライトを搭載せず、紙のような質感を持つことから、目が疲れにくいことが特徴のE Ink電子ペーパー。これらを利用した読書端末は、従来は6型や7型といったコンパクトなタイプが主流だったが、最近は10型クラスの製品も増えつつある。
今回はその中から、Amazonが販売している10.2型のE Ink端末「Kindle Scribe」と、BOOXが販売しているE Ink採用の10.3型Android端末「BOOX NoteAir3」を比較してみよう。10型クラスで読書向けのE Ink電子ペーパー端末を探す場合に候補の筆頭に上がるこの両製品、サイズは酷似しているが、どのような違いがあるのだろうか。
なお画質比較のサンプルには『Kindle Unlimited』で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』を、許諾を得て使用。雑誌は『DOS/V POWER REPORT』の最新号を、サンプルとして使用している。
ボディデザインや画面サイズは酷似
まずは両製品の特徴から。「Kindle Scribe」(以下Kindle)は、Amazonが販売するE Ink電子ペーパー端末Kindleのひとつで、10.2型の大画面を備えている。
Amazon製デバイスゆえ、利用できる電子書籍ストアは「Kindleストア」のみという制限はあるが、同ストアを快適に使うためにチューニングされた操作性の高さはなによりの特徴だ。またスタイラスを使っての手書きにも対応するのは、Kindleシリーズの他のモデルにはない特徴だ。
一方の「BOOX NoteAir3」(以下BOOX)は、モノクロE Inkを採用したAndroidタブレットで、「Google Play ストア」からAndroidアプリを自由にインストールして利用できるため、Kindleに限らずさまざまな電子書籍アプリに対応することが大きな特徴だ。
電子書籍だけにフォーカスした端末というわけではないので、手書きノート機能のほか、Webブラウザーを利用したり、テキストエディターとして利用するなど、幅広い用途に対応しているのも売りと言える。
両者を並べると、ベゼルの一辺だけ幅があるというボディデザインはほぼ共通で、厚みも5.8mmと同一。このほかUSB Type-Cポートの配置など、じっくり見ていくと共通項が多い。
ページめくりボタンは両者ともに非搭載。Androidの場合、音量ボタンを使ってページをめくる機能を搭載した電子書籍アプリが多いが、BOOXは音量調整の物理ボタンがないため、これらの機能は利用できず、結果的に両者ともに横並びということになる。
持ちやすさも横並びだが生体認証の有無に注意
続いて持ちやすさについて見ていこう。ボディは両製品ともに片側のベゼルにだけ幅があり、ここに指をかけることで、長時間安定して保持できる。こうした形状面の特徴はもちろん、重量差も30g程度しかないなど、読書に当たっての持ちやすさはほぼ横並びと見ていい。
使い勝手の部分で実際に使っていて差を感じるのは、生体認証の有無だ。BOOXは指紋認証に対応しているのに対して、Kindleは生体認証に非対応で、ロックを解除するためには毎回パスワードを入力しなくてはいけない。こまめにスリープさせる使い方であれば、指紋ひとつでロックを解除できるBOOXに圧倒的な分がある。この点においてKindleは不利だ。
利用できるストアに大きな違い
電子書籍端末として利用するにあたっての表示性能を見ていこう。画面サイズは両者ともに10型クラスと十分な大きさがあることから、画面を横向きにしての見開き表示にも対応できる。雑誌などのコンテンツは縦向きで、コミックは横向きにして見開き表示にするのが、スタンダードな使い方だろう。
解像度はKindleの300ppiに対してBOOXは227ppiと、Kindleのほうが若干上。またBOOXはアプリごとに最適化が必要だったり、またコンテンツによっても濃淡を調整する必要があったりと、使い始めるに当たってかなり手間がかかる。手軽さを重視するならばKindleのほうがはるかに上だ。ただし対応する電子書籍ストアはKindleストアに限定される。
その点、BOOXはさまざまな電子書籍ストアが利用できるのが強みだが、Kindleのようにアプリ上で直接コンテンツを購入できず、毎回ブラウザーで電子書籍ストアを開いて電子書籍を購入し、それをアプリに送って表示するという手間がかかる。
もっともこれらについても、そもそも自分が利用しているストアに対応していて初めて論点になるものばかりだ。実際に製品を選ぶ場合は、Kindleストアしか使わないのであれば手間を考慮してもKindle一択、その他のストアを使いたければ最初からBOOX一択、という、ある意味で身も蓋もない結論になる。
例外があるとすれば、Kindleストアしか使っていなくとも、電子書籍以外の汎用性を重視してBOOXを選ぶケースや、メモリカードを使えるなどの利点からBOOXを選ぶケースが、もしかするとあるかもしれない、といったところだろう。
ちなみに動作速度については、リフレッシュモードによってレスポンスが大きく変わるBOOXに対して、KindleはあらかじめKindleストア向けにチューニングが施されていることもあり、動作は高速かつ安定している。今回紹介しているBOOXの「BOOX NoteAir3」は、ハード自体はラインナップの中でもハイスペックなのだが、Kindle相手だとさすがに分が悪い。
製品選びの決め手は「利用するストア」
最後に付属品ならびにオプションにも言及しておこう。手書きに利用するスタイラスは、KindleもBOOXも、本体側面にマグネットで吸着できる仕組みを導入している。電子書籍ユースだけではなく、手書きノートとしての用途も含めて利用するのであれば、こうしたスタイラスも込みで使い勝手を評価するべきだが、これらもほぼイーブンだ。
大きく異なるのは、標準で用意される保護カバーが、Kindleは上に跳ね上げるタイプで、BOOXは横に開くタイプであること。スタイラス利用時には上に跳ね上げるほうが便利だと感じるが、電子書籍ユースでは横に開くほうが自然だ。このあたりはユーザーによって好みの違いも出るだろう。
以上のように、細かいところではさまざまな違いがある両製品だが、Kindleストアしか使っていないユーザーは「Kindle Scribe」がオススメで、Kindleストアも込で複数のストアを併用するのならばBOOXという、利用するストアによって製品選びの結論はほぼ出てしまう。BOOXならばそれを踏まえて、カラーモデルや小型モデルと比較検討することになるだろう。
実売価格については、Kindleは64GBモデルで59,980円、BOOXも同じく64GBで65,800円と、大きな差はなく、価格面が決め手になることはないだろう。外観や画面サイズからして競合するように見えて、実はきっちりと棲み分けができているというのが、実際に比べた上での結論だ。