山口真弘のおすすめ読書タブレット比較

「Kindle Scribe」vs「BOOX NoteAir3」! 10型クラスのE Inkタブレット対決

読書に向いているのはどっち?

左が「Kindle Scribe」、右が「BOOX NoteAir3」。いずれも10型クラスのE Ink電子ペーパー端末だ

 液晶や有機ELのようなバックライトを搭載せず、紙のような質感を持つことから、目が疲れにくいことが特徴のE Ink電子ペーパー。これらを利用した読書端末は、従来は6型や7型といったコンパクトなタイプが主流だったが、最近は10型クラスの製品も増えつつある。

 今回はその中から、Amazonが販売している10.2型のE Ink端末「Kindle Scribe」と、BOOXが販売しているE Ink採用の10.3型Android端末「BOOX NoteAir3」を比較してみよう。10型クラスで読書向けのE Ink電子ペーパー端末を探す場合に候補の筆頭に上がるこの両製品、サイズは酷似しているが、どのような違いがあるのだろうか。

 なお画質比較のサンプルには『Kindle Unlimited』で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』を、許諾を得て使用。雑誌は『DOS/V POWER REPORT』の最新号を、サンプルとして使用している。

ボディデザインや画面サイズは酷似

 まずは両製品の特徴から。「Kindle Scribe」(以下Kindle)は、Amazonが販売するE Ink電子ペーパー端末Kindleのひとつで、10.2型の大画面を備えている。

 Amazon製デバイスゆえ、利用できる電子書籍ストアは「Kindleストア」のみという制限はあるが、同ストアを快適に使うためにチューニングされた操作性の高さはなによりの特徴だ。またスタイラスを使っての手書きにも対応するのは、Kindleシリーズの他のモデルにはない特徴だ。

「Kindle Scribe」。Kindleシリーズの最上位モデルで、画面サイズは10.2型。ページめくりボタンは搭載しない

 一方の「BOOX NoteAir3」(以下BOOX)は、モノクロE Inkを採用したAndroidタブレットで、「Google Play ストア」からAndroidアプリを自由にインストールして利用できるため、Kindleに限らずさまざまな電子書籍アプリに対応することが大きな特徴だ。

 電子書籍だけにフォーカスした端末というわけではないので、手書きノート機能のほか、Webブラウザーを利用したり、テキストエディターとして利用するなど、幅広い用途に対応しているのも売りと言える。

「BOOX NoteAir3」。Android採用のモノクロE Inkタブレットで、画面サイズは10.3型

 両者を並べると、ベゼルの一辺だけ幅があるというボディデザインはほぼ共通で、厚みも5.8mmと同一。このほかUSB Type-Cポートの配置など、じっくり見ていくと共通項が多い。

 ページめくりボタンは両者ともに非搭載。Androidの場合、音量ボタンを使ってページをめくる機能を搭載した電子書籍アプリが多いが、BOOXは音量調整の物理ボタンがないため、これらの機能は利用できず、結果的に両者ともに横並びということになる。

背面の比較。Kindleはデスク上での筆記時に安定させるためのゴム脚が四隅にある
両者ともに左側面にUSB Type-Cポートを備える。Kindle(下)はさらに電源ボタンも備える
厚みは両者ともに5.8mmとスリムだ

持ちやすさも横並びだが生体認証の有無に注意

 続いて持ちやすさについて見ていこう。ボディは両製品ともに片側のベゼルにだけ幅があり、ここに指をかけることで、長時間安定して保持できる。こうした形状面の特徴はもちろん、重量差も30g程度しかないなど、読書に当たっての持ちやすさはほぼ横並びと見ていい。

 使い勝手の部分で実際に使っていて差を感じるのは、生体認証の有無だ。BOOXは指紋認証に対応しているのに対して、Kindleは生体認証に非対応で、ロックを解除するためには毎回パスワードを入力しなくてはいけない。こまめにスリープさせる使い方であれば、指紋ひとつでロックを解除できるBOOXに圧倒的な分がある。この点においてKindleは不利だ。

Kindleを縦向きに持った状態。上下を逆転させ、幅のあるベゼルを右側に移動させることもできる
BOOXを縦向きに持った状態。こちらもやはり幅のあるベゼルを右側に持ってくることが可能だ
Kindleを横向きに持った状態。コミックで見開き表示をする場合はこうした持ち方になる
BOOXを横向きに持った状態。こちらも持ち方はKindleと同様。ちなみにページめくりに使える音量ボタンは非搭載なので、持ち方に与える影響はない
Kindleは実測431g
BOOXは実測466g。違いはわずかで、体感的な差は感じない
Kindleは生体認証には非対応。ロック解除のために毎回パスコードを入力しなくてはいけない
BOOXは電源ボタンと一体化した指紋認証センサーを備えており、ロック解除もすばやく行える

利用できるストアに大きな違い

 電子書籍端末として利用するにあたっての表示性能を見ていこう。画面サイズは両者ともに10型クラスと十分な大きさがあることから、画面を横向きにしての見開き表示にも対応できる。雑誌などのコンテンツは縦向きで、コミックは横向きにして見開き表示にするのが、スタンダードな使い方だろう。

左が「Kindle Scribe」、右が「BOOX NoteAir3」。雑誌コンテンツも原寸に近いサイズで表示できる
上が「Kindle Scribe」、下が「BOOX NoteAir3」。コミックの見開き表示にも適したサイズだ

 解像度はKindleの300ppiに対してBOOXは227ppiと、Kindleのほうが若干上。またBOOXはアプリごとに最適化が必要だったり、またコンテンツによっても濃淡を調整する必要があったりと、使い始めるに当たってかなり手間がかかる。手軽さを重視するならばKindleのほうがはるかに上だ。ただし対応する電子書籍ストアはKindleストアに限定される。

 その点、BOOXはさまざまな電子書籍ストアが利用できるのが強みだが、Kindleのようにアプリ上で直接コンテンツを購入できず、毎回ブラウザーで電子書籍ストアを開いて電子書籍を購入し、それをアプリに送って表示するという手間がかかる。

 もっともこれらについても、そもそも自分が利用しているストアに対応していて初めて論点になるものばかりだ。実際に製品を選ぶ場合は、Kindleストアしか使わないのであれば手間を考慮してもKindle一択、その他のストアを使いたければ最初からBOOX一択、という、ある意味で身も蓋もない結論になる。

 例外があるとすれば、Kindleストアしか使っていなくとも、電子書籍以外の汎用性を重視してBOOXを選ぶケースや、メモリカードを使えるなどの利点からBOOXを選ぶケースが、もしかするとあるかもしれない、といったところだろう。

BOOXはコンテンツに合わせて自身でリフレッシュモードを設定する必要があり、それによってページめくりの速度や画質が変化する。Kindleにはない概念だ
雑誌コンテンツの画質の比較。上段左がBOOX/ノーマルモード、上段右がBOOX/スピードモード、下段左がBOOX/Xモード、下段右がKindle。BOOXは、画質を優先するか、それともページめくりのスムーズさを優先するかで、最適解が変わってくる
コミックの画質の比較。上段左がBOOX/ノーマルモード、上段右がBOOX/スピードモード、下段左がBOOX/Xモード、下段右がKindle。こちらもやはり画質とページめくりのどちらを優先するかで最適解が変わってくる。右下のKindleはつねに安定した印象だ
BOOXはGoogle Playストアが利用できるためさまざまな電子書籍アプリが使える
BOOXはカラーのアイコンを白黒で表示しているため、最適化を怠るとこのようにボタンのラベルが見えなくなることもしばしば

 ちなみに動作速度については、リフレッシュモードによってレスポンスが大きく変わるBOOXに対して、KindleはあらかじめKindleストア向けにチューニングが施されていることもあり、動作は高速かつ安定している。今回紹介しているBOOXの「BOOX NoteAir3」は、ハード自体はラインナップの中でもハイスペックなのだが、Kindle相手だとさすがに分が悪い。

製品選びの決め手は「利用するストア」

 最後に付属品ならびにオプションにも言及しておこう。手書きに利用するスタイラスは、KindleもBOOXも、本体側面にマグネットで吸着できる仕組みを導入している。電子書籍ユースだけではなく、手書きノートとしての用途も含めて利用するのであれば、こうしたスタイラスも込みで使い勝手を評価するべきだが、これらもほぼイーブンだ。

 大きく異なるのは、標準で用意される保護カバーが、Kindleは上に跳ね上げるタイプで、BOOXは横に開くタイプであること。スタイラス利用時には上に跳ね上げるほうが便利だと感じるが、電子書籍ユースでは横に開くほうが自然だ。このあたりはユーザーによって好みの違いも出るだろう。

Kindleに専用保護カバーを取り付けた状態。スタイラスは手前に取り付けられるほか、本体側面への吸着も可能
カバーは上に展開する仕組み。スタイラス利用時に角度をつけて立てることもできる
BOOXに専用保護カバーを取り付けた状態。スタイラスは側面に取り付ける
カバーは横に展開する仕組み。背面に回して重ねたまま保持することもできる
Kindleで手書きノートを取っている様子。2024年3月現在、Kindleシリーズでこの機能があるのは本製品だけ
BOOXで手書きノートを取っている様子。Kindleのそれよりも高機能で、テンプレートの数も豊富だ

 以上のように、細かいところではさまざまな違いがある両製品だが、Kindleストアしか使っていないユーザーは「Kindle Scribe」がオススメで、Kindleストアも込で複数のストアを併用するのならばBOOXという、利用するストアによって製品選びの結論はほぼ出てしまう。BOOXならばそれを踏まえて、カラーモデルや小型モデルと比較検討することになるだろう。

 実売価格については、Kindleは64GBモデルで59,980円、BOOXも同じく64GBで65,800円と、大きな差はなく、価格面が決め手になることはないだろう。外観や画面サイズからして競合するように見えて、実はきっちりと棲み分けができているというのが、実際に比べた上での結論だ。