山口真弘のおすすめ読書タブレット比較

お手頃価格の6型Android電子ペーパー端末「BOOX Palma」と「BOOX Poke5」を実機比較

スマホタイプとタブレットタイプのアスペクト比でどう違う?

左が「BOOX Palma」、右が「BOOX Poke5」。どちらもE Ink電子ペーパーを採用したAndroid端末で、画面は6型だが、アスペクト比が異なるためまったく違って見える

 BOOXから新たに登場した「BOOX Palma」(実売価格46,800円)は、スマホに近いアスペクト比が特徴のE Ink端末だ。Amazonの「Kindle」など、E Ink電子ペーパーを搭載した読書端末は一般的に横幅が広く、片手でギリギリつかめるか否かというサイズ感だが、本製品はスマホと同等のサイズ感ゆえ、片手でも余裕で握ることができる。

 もちろんE Inkならではの目にやさしく消費電力が少ないという特徴はそのままなので、スマホサイズならではのハンドリングのよさに、これらE Inkの利点も兼ね備えた、いいとこ取りのデバイスと言える。同じE Ink端末でありながらタブレットに近いアスペクト比を持つ「BOOX Poke5」(実売価格25,800円)と比較しながら、その特徴を見ていこう。

 なお画質比較のサンプルには、『Kindle Unlimited』で配信されている森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』を、許諾を得て使用。またテキストは夏目漱石著『坊っちゃん』をサンプルとして使用している。

同じ6型ながら似て非なるデバイス

 「BOOX Palma」は、見た目はスマホに似ているが、モバイル回線には対応せず、あくまでもE Ink電子ペーパー採用のAndroid端末であるところがミソである。それゆえ、主に自宅などWi-Fi環境で、電子書籍を手軽に楽しむにはぴったりだ。

 今回の比較対象である「BOOX Poke5」と比べると、その違いははっきりとわかる。「BOOX Poke5」も、画面サイズは同じ6型なのだが、「BOOX Poke5」はアスペクト比が4:3とタブレットに近いことから、ボディの幅は広く、片手でつかめるかどうかは、その人の手の大きさ次第だ。

 これに対して「BOOX Palma」は、6型というサイズでありながら、アスペクト比はスマホとほぼ同等(2:1)であるため、片手で保持しやすく、寝転がった状態での操作も行いやすい。OSはAndroidで、ホーム画面のデザインも一般的なAndroidに寄せたデザインということもあり、スマホの操作に慣れていれば迷うことはない。

「BOOX Palma」。スマホサイズのE Ink端末だ。画面サイズは6型。UIはスマホに似たデザイン
「BOOX Poke5」。こちらも画面サイズは同じ6型。UIは従来のBOOXにみられたタブレットライクなデザイン
背面の比較。「BOOX Palma」は滑り止めを兼ねた岩肌状の凸凹がある
厚みは「BOOX Palma」が8mm、「BOOX Poke5」が6.8mm。「BOOX Poke5」は上面に電源ボタンがある
底面にはどちらもUSB Type-Cポートを備える
「BOOX Palma」の右側面。電源ボタンと音量調節ボタンがある。スマホに似た配置だ
「BOOX Palma」の左側面には、各種機能を割り当て可能なファンクションキーを備える
「BOOX Palma」は実測168g。このクラスのスマホと同等かやや軽い部類に入る
「BOOX Poke5」は実測160g。薄型ということもあり軽量だ

コミックやテキスト、どんなふうに表示される?

 「BOOX Palma」と「BOOX Poke5」はどちらもOSにAndroidを採用しており、Google Playストア経由で好みの電子書籍アプリをインストールできる。一部動作に制限があるアプリもあるので、国内販売元のSKTのサイトにあるサポート情報を参考にするとよいだろう。ちなみに今回は「Kindle」を使用している。

 解像度はどちらも300ppiということで同等なのだが、E Inkパネルの世代が新しいぶん、「BOOX Palma」のほうが表示品質は上だ。ページ切替時の残像についても、なにかと残りがちな「BOOX Poke5」に対して、「BOOX Palma」のほうが明らかに目立たない。

 ただし「BOOX Palma」はアスペクト比が2:1と横幅が狭いために、テキストコンテンツならまだしも、コミックなど固定レイアウトのコンテンツは、横幅に合わせてページ全体が縮小されてしまう。同じ6型でありながら、アスペクト比が4:3の「BOOX Poke5」と比べると、ページサイズの違いは一目瞭然だ。

 とはいえ、これはどちらの端末がよい、悪いという話ではない。スマホ並の持ちやすさに加えて、ポケットに入るコンパクトさを優先するのであれば「BOOX Palma」、表示サイズが大きいことを優先するならば「BOOX Poke5」といった具合に、どちらを選ぶかはその人の使い方次第だ。

左が「BOOX Palma」、右が「BOOX Poke5」。同じ6型ながらページサイズはまったく異なる
「BOOX Palma」はアスペクト比が2:1で、コミックなどを表示すると幅に圧迫されてページが縮小され、上下に大きな余白ができる
「BOOX Poke5」はアスペクト比が4:3で、コミックでも余白がほぼない状態で表示できる
「BOOX Poke5」を横向きにし、見開き表示にすると、「BOOX Palma」とほぼ同じページサイズになる
こちらはテキストコンテンツを表示した状態の比較。どちらも画面いっぱいに表示できる
「BOOX Palma」でテキストコンテンツを表示したところ。コミックと違い上下に余白ができることもない
「BOOX Poke5」でテキストコンテンツを表示したところ。文庫本サイズでの読書が楽しめる

両製品でおすすめのリフレッシュモードの設定は?

 BOOXシリーズでは、アプリや表示するコンテンツに併せて、E Inkのリフレッシュモードを切り替えるというのが、基本的な使い方になる。

 これは「Kindle」や「楽天Kobo」など、特定のストア向けのチューニングを施してあるE Ink読書端末と違い、汎用的な端末であるBOOXシリーズでは、アプリごとに適した設定が必要になるからだ。これに加えて、カラーでの使用が想定されているアプリをモノクロE Inkで表示するにあたっては、濃度などの調整が必要になる場合もある。

コントロールパネル。E Ink設定の画面はここから呼び出せる
「BOOX Palma」のリフレッシュモードは「HD」「Balanced」「高速」「超高速」「リーガル」の5つ。コンテンツによっては一部モードが表示されない場合もある
「BOOX Poke5」のリフレッシュモードは「ノーマル」「リーガル」「スピード」「A2」「X」の5つ。「BOOX Palma」のそれとは呼び名と並び順が微妙に異なっているが、使い方の要領は同じだ

 具体的な画質は以下の通り。ページめくりなどの速度を優先すれば画質が低下し、逆に画質を追求すると動作が遅くなるので、アプリに応じて、あるいは表示するコンテンツの内容に応じて、適切なモードを選択することになる。表現力や速度に問題がなくとも、ページめくり時のエフェクトが好みでないという場合もあるので、いろいろと切り替えて試してみるとよい。

「BOOX Palma」で「コミック」を、5つのリフレッシュモードで表示したところ。モードは左から「HD」「Balanced」「高速」「超高速」「リーガル」。中央の3つは線がギザギザになるほか、ハーフトーンの描写が弱い
「BOOX Poke5」で「コミック」を、5つのリフレッシュモードで表示したところ。モードは左から「ノーマル」「リーガル」「スピード」「A2」「X」。徐々に粒子感が強くなっていき、右端の「X」は細かいディティールが表示できなくなる
「BOOX Palma」で「テキスト」を、5つのリフレッシュモードで表示したところ。こちらは極端にフォントサイズを小さくしない限り、コミックほどの差は出ない
「BOOX Poke5」で「テキスト」を、5つのリフレッシュモードで表示したところ。右端の「X」を除けば、見た目はほとんど変わらない

 もっとも「BOOX Palma」については、リフレッシュモードは画質優先の「HD」モードを用いるのがおすすめだ。というのも本製品は表示サイズが小さく、画質が粗い「高速」モードでは、コミックの吹き出しにみられる細かい文字が極端に読みにくくなるからだ。

 そうなるとパフォーマンスが気になるところだが、本製品はメモリ容量が6GBと余裕があり、またE Inkの反応速度を向上させるBOOX独自のBSRなる技術も搭載していることから、パフォーマンスへの影響は軽微だ。画質優先の「HD」モードを基本に、ケースバイケースでほかのモードに切り替えるのがよいだろう。

 一方の「BOOX Poke5」は、メモリ容量がわずか2GBでパフォーマンスに難があり、画面が操作についてこないこともしばしばあるので、「BOOX Palma」の「HD」モードに相当する「ノーマル」モードだと、操作が反映されるまでにワンテンポどころかツーテンポ間が空いてしまう。そのため、速度優先で「スピード」モードを使うことをおすすめする。

リフレッシュモードはアプリごとに設定しておける(左)アプリごとに「最適化」を行うことでより快適に利用できる(中)「最適化」ではDPIなどを個別に設定できる(右)

押すだけで画面をリフレッシュできるファンクションキーを搭載

 BOOXシリーズの中でも比較的ベーシックな「BOOX Poke5」と異なり、新しく登場したスマホサイズの「BOOX Palma」には、新機軸の機能がいくつも盛り込まれている。ここではそれらを紹介していこう。

 まずは本体左側面に搭載されたファンクションキー(カスタムボタン)。これらボタンに任意の機能を割り当てることで、快適な読書を行える。「iPhone 15 Pro」シリーズに搭載されるアクションボタンとよく似ているが、こちらは「短押し」「長押し」「ダブルクリック」にそれぞれ1つずつ、計3つの機能を割り当てられるのが強みだ。

 割り当てる機能はリストから選択する方式だが、おすすめなのは何と言ってもE Inkの「フルリフレッシュ」。これを割り当てておけば、E Inkならではの残像が気になる時に、ポチッと押すだけで手軽にリフレッシュが行える。むしろこの機能を割り当てるために用意されたボタンと言っても過言ではなく、ほかのBOOXデバイスにもぜひ実装してほしいと感じる。

 残る2つのうちひとつは「リフレッシュモードの切り替え」。押すたびに「HD」「Balanced」「高速」「超高速」「リーガル」と順番にリフレッシュモードを切り替えられる。最後のひとつは前述の「E Ink設定」。画面下からのスワイプでも呼び出せるように設定できるが、物理ボタンに割り当てておいたほうが誤操作は起こりにくいだろう。

 なお割り当て可能な項目の中には、「次ページ」と「前ページ」、つまりページめくりボタンも用意されているが、これらは音量ボタンにも割当が可能なので、このファンクションキーを消費してしまうのはもったいない。アプリ側と本体側、両方で設定してやることで、音量の大小ボタンでページを前後に行き来できるようになる。

ファンクションキーは「BOOX Palma」の左側面に搭載されている
システム設定の中にある「ファンクションキー」から設定できる(左)「短押し」「ダブルクリック」「長押し」にそれぞれ1つずつ機能を割り当てられる(中)機能は一覧から選択する(右)
ページめくりについてはファンクションキーではなく、アプリ上で音量ボタンに割り当てたほうがよい(左)音量キーは本体側の設定で上下の役割を入れ替えられる(中)このほかナビゲーションバーとサイドジェスチャーも設定しておきたい(右)

 新機軸となる機能のもうひとつは、背面カメラを用いたドキュメントの取り込み機能だ。本製品に搭載されているカメラは人物や風景を撮るためのものではなく、ドキュメントを撮影してデジタルデータ化するためのものだ。同じBOOXシリーズの「BOOX Tab Ultra」にも同様の機能が搭載されており、それらがフィードバックされた格好だ。

 これにより本製品は、電子書籍ストア経由でダウンロードした本を読むだけではなく、外部のドキュメントを取り込んでデータ化し、好きなタイミングで読むことができる。残念ながら現時点では日本語に非対応なのだが、前述の「BOOX Tab Ultra」では日本語に対応済みで、近い将来に使えるようになることが期待できる。

背面のカメラはドキュメントをスキャンする用途で用いられる
このようにドキュメントを撮影してOCRでデータ化する
現時点ではまだ日本語には非対応。アルファベットを撮影して認識を実行すると……(左)OCR処理が行われ、テキストデータに変換された(中)そのままPDFドキュメントとして保存し内蔵ビューアで閲覧できる。ページの追加も可能(右)

過去のどれとも異なる製品。実売価格は5万円以下で試しやすい

 今回は同じ6型という括りで「BOOX Palma」「BOOX Poke5」を紹介したが、既存のKindleデバイスやAndroidタブレットから使い勝手がある程度想像できる「BOOX Poke5」と違って、「BOOX Palma」は過去に存在したデバイスのどれとも異なる使い勝手を持った、奥が深い製品だ。

 また本製品の大きな魅力と言えるのが、実売価格が46,800円と、リーズナブルな価格帯に収まっていることだ。昨今はスマホにせよタブレットにせよ、円安の影響もあって価格が高騰しており、数万円クラスだったデバイスは10万円超え、10万円台だったデバイスは20万円超えというケースも珍しくない。

 そんな中で本製品は、この手のデバイスとしては比較的手を出しやすい価格帯に収まっている。なにせ似た製品がないため、比べにくいというのはあるのだが、ただ試すためだけに10万円前後はなかなか出しにくいわけで、5万円を切っているのは評価できる。

オプションの保護ケースを取り付け、さらにサードパーティ製のシリコンバンドを取り付けた状態。これならば握らなくても保持できる

 なお今回は電子書籍ユースを中心に見てきたが、E Ink電子ペーパー端末に共通する、動画の再生に向かないという特徴は、特に変わるわけではない。スマホに近い使い勝手ながら目に優しいのが本製品の利点だが、スマホとまったく同じことができるわけではないので、そのあたりは間違えないようにしたい。

 ただしWebブラウザーについては、画面を1ページ単位でスクロールするスクロールボタンを有効にすることで、ある程度は快適に見られるようになる。デフォルトでは無効になっているが、入手した暁には、設定画面から機能をONにして、有効な使い方をマスターしておきたいところだ。

Webブラウザーなど上下スクロールを頻繁に行うならば、「アプリと通知」の中にある「スクロールボタン設定」を有効にしておこう(左)スクロールボタンの設定。上下スクロールを画面単位で行える(中)ブラウザー画面の右下に表示されるスクロールボタンを押すことで上下に移動できる。通常のスクロールと違って残像が発生しにくい(右)