山口真弘のおすすめ読書タブレット比較

「iPad mini」と「Fire HD 8 Plus」はどっちのコスパが高い? 同じ8型クラスで価格は約4倍

「iPad mini」(左)と、「Fire HD 8 Plus」(右)。価格差は約4倍ある

 いま8型クラスのタブレットを選ぼうとしたとき真っ先に候補に上がるのは、Appleの「iPad mini」、そしてAmazonの「Fire HD 8」だろう。8型前後の画面をもつタブレットはそもそもの選択肢が少ないだけに、価格面では約4倍もの差があるこの両製品は、何かと比較されることが多い。

 今回はこの2製品について、8型クラスのタブレットとしての機能差を、おもに電子書籍を利用する場合の視点でチェックしていく。「Fire HD 8」については上位モデル「Fire HD 8 Plus」を用いるので、スタンダードな「Fire HD 8」を比較する場合は、スペックの差を考慮していただきたい。

 なお画質比較のサンプルには、「Kindle Unlimited」で配信されている、森田 崇/モーリス・ルブラン著『怪盗ルパン伝アバンチュリエ 第1巻』をサンプルとして使用している。

iPad mini - 仕様 - Apple(日本)

Amazon.co.jp: NEW Fire HD 8 Plus タブレット - 8インチHD ディスプレイ 64GB グレー (2022年発売) : Amazonデバイス・アクセサリ

約4倍もの価格差はどこから来る?

 この両製品、同じ8型クラスのタブレットだが、価格は大差がある。同じ64GBで比較した場合、「iPad mini」は78,800円、「Fire HD 8 Plus」は17,980円なので、じつに4倍以上。両製品とも2022年後半から2023年春にかけて価格改定を行ったが、これによって価格差はさらに広がっている。

 ほぼ同じサイズのタブレットでありながら、この価格差はどこから来るのだろうか。A15 Bionicチップを採用し、ゲームなど負荷の高い操作もこなす「iPad mini」と異なり、「Fire」シリーズは電子書籍の閲覧こそスムーズだが、複数のコンテンツをダウンロードする時や、大量のサムネイルが並んだ画面をスクロールする時には、読み込み待ちが起こるなど、処理速度ではかなりの差がある。このスペック差が最大の要因と言っていい。

「iPad mini」。A15 Bionicチップを採用するなど高スペック。ちなみにメモリ容量は4GB
「Fire HD 8 Plus」。「Fire HD 8」の上位モデルだが、タブレットとしてのスペックが必ずしも高いわけではない
Googleのベンチマークアプリ「Octane 2.0」での比較。左が「iPad mini」、右が「Fire HD 8 Plus」。スコア差は10倍以上ある

 画面周りはどうだろうか。画面サイズは「iPad mini」が8.3型、「Fire HD 8 Plus」が8型で、どちらもアスペクト比は4:3よりも若干ワイド寄り。「iPad mini」は耐指紋性撥油コーティングや反射防止コーティングが施され、見やすさを重視する電子書籍ユースに適している。解像度についても2,266×1,488ドット、326ppiと十分だ。

 一方の「Fire HD 8 Plus」は頑丈さをアピールするものの、画面まわりでは突出した特徴はない。解像度も1,280×800ドット、189ppiと低く、コミックなどでは表現力の低さがどうしても目立ってしまう。サイズ的には見開き表示も可能だが、セリフなどの書き文字が読み取りづらいことから、結果的に単ページで読まざるを得ない場合もある。

上が「iPad mini」、下が「Fire HD 8 Plus」。ベゼル幅のぶん下が大きく見えるが、ページサイズは実は上のほうが大きい
単ページ表示。左が「iPad mini」、右が「Fire HD 8 Plus」。こちらもやはり「iPad mini」のほうが表示サイズは大きい
解像度の比較。左が「iPad mini」、右が「Fire HD 8 Plus」。前者が326ppi、後者が189ppiと差があることから、表現力の違いは歴然だ

電子書籍を読む上での両者の違いは?

 もっとも電子書籍アプリは、動作のためにそれほど高いスペックは必要とせず、また無理に細かい文字を読もうとしなければ、最低限の解像度で済ませることも不可能ではない。そこで次は視点を変えて、利用可能な電子書籍アプリと、その機能について見ていく。

 「iPad mini」は、iPad OS向けのさまざまな電子書籍アプリが利用できるのが利点だ。ただし新しいコンテンツをアプリ上で直接購入できる電子書籍アプリは「Apple Books」など一部ストアに限られており、多くのアプリはWebブラウザー上であらためて電子書籍サイトを開いて購入し、それをアプリに転送しなくてはならないなどシームレスさに欠ける。

 その点「Fire HD 8 Plus」は、「Kindle」アプリ上で続刊がすぐに購入できたり、サンプルを読み終えた後にすぐにその本を購入できるなど利便性が高い。わざわざブラウザーを立ち上げて購入し、またアプリに戻ってこなくてはいけないという面倒な操作は不要だ。Kindleユーザーであればという条件はつくものの、魅力的な選択肢だろう。このほか定額制のドコモ「dマガジン」も利用可能だ。

「Kindle」アプリで詳細ページを表示したところ。「iPad」(左)はサンプルをダウンロードするか、リストに追加するしかできないのに対して、「Fire HD 8 Plus」(右)はアプリ上で直接購入できる

 一方で「Fire HD 8 Plus」は、Amazonのアプリ専用のデバイスでありながら、最適化が行き届いていない点も随所に見られる。例えば電子書籍のライブラリ画面がそれで、画面下部にメニューバーが常時表示されるせいで、「iPad mini」のライブラリ画面よりも天地が圧迫されてしまう。表示サイズを「小」にすれば多少緩和されるが、メニューバーは表示されたままなので、息苦しさはそのままだ。

「Fire HD 8 Plus」(下)はサムネイルが大きく、またメニューバーがほぼ常時表示されるので、「iPad mini」(上)よりも一画面に並べられる本のタイトル数が少ないほか、天地も圧迫される

 ただしいったん本を開いてしまえば、ページをめくるという操作自体に差は見られないし、またメニューバーは本を開いている間はきちんと非表示になるので、天地が圧迫されることもない。読書オプションなどの画面も、多少のレイアウトの違いこそあれ、操作性は共通だ。スマホ向けの「Kindle」アプリと併用する場合も、シームレスに使い分けられるだろう。

テキスト本のオプションなどはほぼ同じ。よく見ると左側の[間隔]、[マージン]が上下入れ替わっているなどの違いがあるが、せいぜいその程度の差だ

持ちやすさをはじめとした使い勝手の差は?

 デバイスとしての持ちやすさはどうだろうか。8型のタブレットは一般的に300gという重量がひとつの目安となるが、「iPad mini」は8.3型という画面サイズに対して293gと相対的に軽く、両手で長時間持っても疲れにくい。ボディ側面が垂直に切り落とされたデザインゆえ、指を端にかけやすく、滑りにくいのも利点だ。

 一方の「Fire HD 8 Plus」は、重量は342gとかなりヘビーで、またボディの厚みもそこそこある。ボディの側面は丸くラウンドカットされているため、iPadに比べると手を滑らせやすい印象だ。背面の滑り止め加工があること、またベゼル幅が広く持ちやすいことから、ある程度はカバーできているが、トータルでは「iPad mini」に分がある印象だ。

ただしベゼル幅は「Fire HD 8 Plus」(右)のほうが広く、持ちやすさという意味では上だ
厚みは「iPad mini」(左)のほうがスリム

 ポートとボタン類については、「iPad mini」は、指紋認証を兼ねた電源ボタンと音量ボタンという一般的な構成で、給電はUSB Type-Cポートで行う。「Fire HD 8 Plus」についても、電源ボタンと音量ボタン、USB Type-Cによる給電という構成は同様だが、指紋認証をはじめとした生体認証に対応しないので、ロックの解除にはパスワードが必須になる。生体認証に慣れている人にとっては面倒さを感じるだろう。

 その一方で「Fire HD 8」は、上位のPlusモデルがワイヤレス給電機能を搭載することから、専用スタンドを導入すれば、ケーブルを接続することなく本体を充電でき、さらに時刻や天気、ニュースなどさまざまな情報を表示できる。電子書籍ユースとは関係がないが、こうしたスマート機能に魅力を感じるならば、導入にあたってプラス要因となるだろう。

「iPad mini」はひとつの面に電源ボタンと音量ボタンを備える。電源ボタンは指紋認証を兼ねる
「Fire HD 8 Plus」は電源ボタンと音量ボタン、さらにUSB Type-Cポートまで同じ面に配置される。イヤホンジャックがあるのも利点だ
「iPad mini」は電源ボタンに指を当てることで画面のロックを解除できる
「Fire HD 8 Plus」は生体認証に対応しておらず、ロック解除は毎回パスコードを入力しなくてはならない

見逃されがちな細かい挙動を把握しておきたい

 最後にバリエーションについて触れておこう。「iPad mini」は、64GBに加えて256GBのモデルもあるほか、カラーバリエーションも豊富に揃っており、端末を選ぶ時はまず好みの色があるかを探すユーザーも満足の行くラインナップだ。またWi-Fiモデルに加えて、Wi-Fi + Cellularモデルも用意されている。

 一方の「Fire HD 8 Plus」は、64GBより下に32GBモデルがあるだけで、カラーバリエーションは下位モデル「Fire HD 8」に3色のラインナップがあるものの、この「Fire HD 8 Plus」はブラック1色のみ。ただし今回使用している上位モデル「Fire HD 8 Plus」のように、スペックが上位のモデルが用意されていたりと、「iPad mini」とはやや方向性が違うバリエーションだ。

 以上のように、項目別に見ていくと両製品の違いは顕著だ。しかし実際に使った時に気になりがちな細かい差は、そうした大きな違いに飲み込まれてスルーされがちなのも事実。今回紹介した電子書籍ライブラリにおけるツールバーの常時表示のような、使い勝手に差を及ぼす挙動の違いは、可能な限り情報収集に務めたほうが、買ったあとに「こんなはずでは」と後悔せずに済むだろう。

背面の比較。左が「iPad mini」、右が「Fire HD 8 Plus」。カメラ機能は両者ともに必要最小限といったところだ