レビュー

メタバース住人から見た「Meta Quest 3」レビュー ~先代「Quest 2」から何が進化したのか

74,800円はむしろ安い! 新型モデルはあらゆる点で期待以上

新型VR・MRヘッドセット「Meta Quest 3」

 2023年10月10日に満を持して発売される新型VRヘッドセット「Meta Quest 3」。日本円では128GBモデルが74,800円、512GBモデルが96,800円と高く感じる方もいらっしゃるかもしれません。果たして「Meta Quest 3」はその金額を支払って購入するだけの価値はあるのか、その値段に見合った性能を持っているのか、そう思われている方も少なくないでしょう。

 「Meta Quest」(旧Oculus Quest)シリーズは、Meta(旧Facebook)社が発売しているVRヘッドセットです。PCやケーブルなしで動作するスタンドアローン型のVRヘッドセットで、初代の「Oculus Quest」は2019年5月21日に登場し、2020年10月13日には2代目の「Oculus Quest 2」が発売されました。「Quest 2」は(後々値上げされてしまいましたが……)、128GBモデル37,180円から、と当時のVRヘッドセットの中ではお手頃でした。たしかにハイエンドVRヘッドセットと比較すると見劣りする部分もありますが、そのコストパフォーマンスとスタンドアローン型という利点は「Quest」シリーズの強みです。そして「Meta Quest 3」は先代「Quest 2」の発売から約3年、ファンが待ちに待った新型モデルとなります。

 そんな私も「Meta Quest 2」の愛用者です。以前は「HTC Vive」(初代Vive)を使用していたのですが、メタバース空間へのデビューをきっかけ、2021年に「Meta Quest 2」を購入しました。ケーブルの取り回しなどが嫌いな私は単体で、かつワイヤレスで動くのはもちろん、HTC Viveと比較して軽量化されていたり、グラフィックスの美しさが際立っていたりと、初めて使用したときはとても感動したのを覚えています。また、安価ながらも単体でもパソコンと繋いでPCVRとしても使えるなど、その汎用性の高さも個人的には良ポイントでした。

先代モデル「Meta Quest 2」

 今回、本日10月10日の発売日に先駆けて、期待のモデル「Meta Quest 3」を一足先に体験する機会が得られましたので、そのレビューをお届けします。

 私が体験した各機能の詳細についてはこれからお話ししていきますが、あえて端的に言うと、あらゆる要素において“感動するほどの進化”を感じました。なぜそこまで思うに至ったか、順番にお話しできればと思います。

最新モデル「Meta Quest 3」
This is Meta Quest 3

MRヘッドセットへと進化した「Meta Quest 3」

 「Meta Quest 3」と「Meta Quest 2」までとの大きな違い、それは“MR(複合現実)ヘッドセット”を謳っているところにあります。MRとはその文字通り現実空間にバーチャルな情報を重ねる技術です。

Expand your world with Meta Quest 3

 なぜ「Meta Quest 3」はMRヘッドセットを謳っているのでしょうか。その1つはカラーパススルー機能にあります。

 ヘッドセットの正面にあるカメラから、ヘッドセット越しに外の景色が鮮やかに見える、このカラーパススルーという機能には本当に驚かされました。「Quest 2」にもパススルー機能はありましたが、クッキリ見えるというよりは大まかに外の状況を把握できる、というレベルの情報量でしたし、そもそも白黒でした。「Quest 3」のパススルーは「Quest 2」と比較して約10倍以上、開発者・法人向けハイエイドモデル「Meta Quest Pro」と比較しても約3倍以上の画素数を誇り、さらにフルカラー。これまでのものとは圧倒的に異なる情報量でした。

MRへの切り替えは、ヘッドセット右側を2回タップするだけです

 具体的にいうと、その情報量は「Quest 3」を装着しながら対面に座っている編集者と話せたほどです。彼の顔もはっきりと見えて表情もわかります。そのくらい違和感が少ないことに驚きました(彼から見れば、ヘッドセットを装着したままの人間と会話するのは相当違和感しかなかったでしょうが……)。

驚く編集者の顔。ヘッドセットをつけていても何をやっているかはっきりと見えてます(ミラーリングで撮影)

 このカラーパススルー機能のおかげで、VRコンテンツを楽しみながら、ヘッドセットを外すことなく、一時的にMR画面(現実世界の画面)に切り替えて飲み物などを取り、また再びVRの世界に戻るということがもっともっと容易になりました。安全には気をつけていただきたいですが、そのまま付近を歩き回れるほどです。

フルカラーパススルーで現実世界とバーチャル空間が一体化したMR体験ができます

よりくっきり、鮮明になった「Meta Quest 3」

 そして画質面の向上もとてもインパクトがある要素でした。

  「Quest 2」と比較すると、「Quest 3」ではディスプレイ解像度が約30%向上しており、シャープさは約25%向上しています。今回は十数時間程度「Quest 3」を使用していたのですが、「Quest 3」のディスプレイは明らかにくっきりとしていました。決して「Quest 2」の画質が悪いとは思いませんし、かつての私にとっては十分なものでしたが、今回改めて比較してみると、圧倒的に解像度が向上しているのを実感できました。

 視野角も「Quest 2」と比較すると、約15%広い水平110度、垂直96度になりました。こちらは体験が大きく変わるかというと、そこまでではありませんが、順当に進化しており、快適さは向上しています。

写真右側にある「Quest3」のレンズ間隔ダイアルは1メモリごとに調整可能に

 それは「Quest」3単体で動作するゲームやアプリケーションはもちろん、PCと接続したときにもその画質の向上を強く感じました。

 私は「Virtual Desktop」というアプリケーションを使ってPCと接続しているのですが、細部までくっきりと鮮明に表示されました。また「Quest 3」を使うと、「Virtual Desktop」のストリーミング形式でより高画質な「AV-1」コーデックが使用できます。筆者の目には劇的な変化が見られたとまではいきませんでしたが、スペック的にはより高画質なPCVR体験ができます。

「Virtual Desktop」で「AV-1」コーデックが選択できます

 しかしながら、「Meta Quest 3」の進化はそれだけに留まりません。ハードウェア面も大きくパワフルに進化しています。

 「Quest 3」は、Qualcomm社と共同開発された最新SoC「Snapdragon XR2 Gen 2」を搭載しており、「Quest 2」と比較すると2倍のグラフィックス処理能力を実現。RAMも33%増加して8GBになりました。今回は「Quest 3」単体でいくつかのゲームコンテンツを試してみましたが、ロードが快適なもちろん、グラフィックス面の進化も加わって、遠くまでくっきりキレイに描写されていました。これは非常に好印象です。

「サンバDEアミーゴ」
「Demeo Battles」

 さらに下位互換にも対応しているので、過去に「Quest 2」向けに配信された500以上のアプリは動作します。また年末までに100以上の新規・アップグレードされたタイトルが登場し、既存の50アプリもアップグレードされ、さらにMR機能に対応予定となっています。過去に購入したソフトウェア資産をそのまま使いながら、より美しく快適な体験ができるのも、「Quest 3」の利点の1つです。

「Beat Saber」。旧作タイトルも綺麗で快適にプレイできます
The Walking Dead: Saints & Sinners | Meta Quest 2 + 3 Comparison

細かな使い心地も改善された「Meta Quest 3」

 ここまではどちらかというとハードウェア側の進化を中心にお話ししてきましたが、もちろんVRヘッドセットとしての使い心地を上げる細かな点も進化しています。

 まず感じたのはヘッドセット自体が薄型になったことです。新しいパンケーキレンズが採用されたことで、製品サイズは、幅184mm×奥行160mm×高さ98mmとなり、幅も奥行きもスリム化されています。特に感じたのが奥行きの小ささで、これが装着のしやすさに影響していると感じました。

レンズ部分はとてもスリムに

 筆者は眼鏡をかけた上にヘッドセットを装着しています。「Quest 2」も眼鏡をかけたまま装着できる程度の大きさでしたが、少し窮屈さを感じたのも事実でした。しかし「Quest 3」ではよりスムーズに装着できました。この恩恵は個人的に大きかったです。

「Quest3」(左)と「Quest2」(右)の比較

 今回は、標準のヘッドストラップを使ってヘッドセットを装着しましたが、装着感は「Quest 2」より若干アップしているかなという印象です。こちらは別売の「Eliteストラップ」を使用すれば、ダイヤルを回すだけで調整可能になるので、装着感はもっと上昇することでしょう。

「Quest 3」の標準ヘッドストラップ。頭頂部で二股に分かれるものになりました
別売の「Eliteストラップ」(価格は10,450円)

 また、標準コントローラーの「Touch Plusコントローラー」はリング部分がなくなり、より小型になりました。重量は単三電池を含めても126g。もちろん触覚フィードバックも搭載されているので、触った感覚をダイレクトに感じられます。触覚を擬似的に再現した「TruTouchハプティクス」を採用したことで、「Quest 2」と比べると、より繊細なフィードバックがあり、細かい動作をリアルに感じられました。

「Touch Plusコントローラー」。リング部分がなくなりスッキリなデザインに

 「ダイレクトタッチ」についても大きな進化を感じました。いわゆる「ハンドトラッキング」と呼ばれる機能で、コントローラーを使わずに手でメニューやオブジェクトを操作できます。

 私がメインに使用している「Meta Quest 2」にもその機能は搭載されているのですが、カメラ性能の問題か、たびたび手を見失ってしまったり、上手くトラッキングできない状況が発生しており、正直素直にコントローラーを使った方が快適に操作できる状況でした。

 ですが「Quest 3」ではその部分がかなり改善されており、ハンドトラッキングが実用レベルに進化しているという印象です。実際にパススルーを使いながら自分の手を見てみると、かなり正確にトラッキングされています。対応アプリケーションが使用すれば、かなり有用な印象です。

 ちなみに、「Meta Quest 3」にアイトラッキングは搭載されていません。この点は多少残念に思われるところではありますが、この価格設定であれば妥当な判断というところではないでしょうか。

ハンドトラッキングの様子。かなり正確にトラッキングされている印象です

 「Quest 3」ヘッドセット自体のバッテリー寿命は「Quest 2」とほぼ変わらず2時間~3時間といったところでしょうか。長時間使用するには少し物足りなさを感じましたが、充電しながら使用することも可能ですし、外部バッテリーを使うのもアリでしょう。個人的には充電しながら使用したときの発熱が抑えられているように感じ、長時間での使用もより快適になった印象です。

 最後に、オーディオ面についても再生音域が「Quest 2」と比べて40%アップしており、より臨場感を感じられるようになってました。もちろん3.5mmヘッドフォンジャックにも対応しているので、スピーカーから音が出ると困るような状況でも問題ありません。

「Meta Quest 3」は74,800円以上の価値があるヘッドセットか

 総じて言えるのは「Meta Quest 3」は、前モデルの「Meta Quest 2」を軽く超える性能を持っています。映画などをじっくりと見る用途でも、「Meta Quest 3」単体でゲームやアプリケーションを楽しむ用途でも、パソコンと接続してPCVRのコンテンツを楽しむにしても、どの用途でも進化を感じられるデバイスになっていました。

 たしかに最低74,800円という価格設定は「気軽に購入しましょう」と言いやすい値段ではありません。しかし私は、「Meta Quest 3」にはこの値段以上の価値が十分にあるし、コストパフォーマンスもよいデバイスだと思っています。それほどの価値と進化を感じさせた「Meta Quest 3」は、先代「Quest 2」の愛用者たちの期待を易々と超えた素晴らしいデバイスに仕上がっているといえるでしょう。

「Quest 3」はいよいよ本日発売です。「Quest 2」からの進化がすごい!これは欲しい!
「Meta Quest 3」基本スペック
製品寸法184mm(L)x 160mm(W)x 98 mm(H)(ヘッドセット、接顔部、 同梱のソフトストラップを最小に設定した場合)
製品重量515g
ストレージ128GB、512GB
SoCSnapdragon XR2 Gen 2
RAM8GB
オーディオステレオスピーカー・マイク内蔵、3.5mmヘッドフォンジャックに対応
MRセンサー18 ppdのRGBカメラ(2台搭載)
ディスプレイ解像度片目当たり2,064×2,208
リフレッシュレート72Hz、80Hz、90Hz、120Hz(試験中)
視野角水平110度、垂直96度
光学系パンケーキレンズ光学スタック
レンズ距離調整ホイール 対応IPD(瞳孔間距離)53mm~75mm
アイトラッキング非搭載
WiFiWi-Fi 6E対応(地域による)
BluetoothBT 5.2、BLE
プレイスペース静止モードと歩行モードに対応
PCVR対応Meta Quest Linkケーブル、Air Linkに対応
「Meta Quest 3」最大使用可能時間(バッテリー寿命)
全体平均2.2時間
ゲーム平均2.4時間
ソーシャル体験平均2.2時間
プロダクティビティ平均1.5時間
メディア平均2.9時間
充電時間約2時間でフル充電(18Wアダプター付属)

著者プロフィール:でんこ

バーチャルに活動の場を移したゲームライター。得意分野はビデオゲーム全般だが、最近はメタバースへの関心が強い。
ライターとしてさまざまなメディアで執筆する一方、メタバース内ではラジオパーソナリティや、DJなどの活動を通して、メタバースの魅力を多くの人に伝えるべく活動中。

・著者Webサイト:https://note.com/denpa_is_crazy/