Windows新標準アプリ徹底解説
四半世紀の歴史を持つ「ペイント」アプリがシンプル・モダンな装いで復活
Windows 11のデザイン原則の好例
2022年4月29日 06:55
「Windows 10からたいして変わっていない、Windows 10.1だ」などと揶揄されることもあるWindows 11だが、大きく改善された部分もある。その一つが、OSに最初から含まれている「インボックスアプリ」の刷新だ。
わざわざサードパーティー製のアプリを探してインストールしなくてもOSのセットアップ直後から気軽に利用できるインボックスアプリは機能こそ最小限だが、もっとも身近なアプリともいえる。インターネット環境が劣悪だったり、そもそもインターネットに接続できない、サードパーティー製アプリのインストールを禁じられているシーンではインボックスアプリに頼らざるを得ないこともあり、その改善はユーザーにとって歓迎すべきことだろう。
そこで本連載では、Windows 11で新しくなったインボックスアプリを紹介していく。第1回となる今回は、「ペイント」アプリだ。機能こそ従来の「ペイント」アプリをほぼそのまま踏襲しているが、デザインはWindows 11に合わせて刷新されている。Windows 11のデザインシステム「Fluent」がどのようなものかを理解する上でも有用だ。
既存のアプリの問題点
「ペイント」(Microsoft Paint、mspaint.exe)は、Windows 95からOSに同梱されているお画像編集ソフトだ。色のついたドットからなるラスター形式の画像(ビットマップ)を作成・編集することが可能で、ペンやブラシ、図形ツールなどを使ってキャンバスに絵を描くことができる。クリップボードに格納された画像データをファイルへ保存したり、写真やスクリーンショットをトリミングするといった加工にも役立つ。
「ペイント」アプリは歴史が古いこともあり、何回か大きなデザインの変更が行われている。当初はメニューとツールバーからなる簡素なデザインだったが、Windows 10に搭載されている「ペイント」アプリは「Microsoft Office」のリボンUIを彷彿とさせるデザインとなった。一時期「ペイント」アプリの後継とされていた「ペイント 3D」アプリは、フラットなデザインとなっている。
しかし、これらの古いアプリにはさまざまな欠点がある。たとえば、ユーザーインターフェイスが整理されておらず、複雑だ。少しずつ機能が追加されてきたという歴史的経緯、そのときどきのトレンドを取り込んできたという事情はあれど、他のアプリと統一感がなく、操作に癖があったり、アイコンが独特であったりと、最近の言葉で言えば「エクスペリエンス」に一貫性がない。また、タブレットでのタッチ操作、明暗テーマの切り替えといった新しいニーズにも対応できていない。
こうした欠点を解決するために、MicrosoftがWindows 10時代から取り組んでいたのが「Fluent Design System」だ。デザインシステムとは製品の目的にかなうデザインを、一貫性をもって提供するための仕組みで、Windows 11の場合は以下のような要素が重視されているという。
- 簡単さ:すばやく反応し、なににフォーカスがあるのかがわかりやすく、必要な操作を直感的に行える
- 穏やか:ユーザーが落ち着いて作業に集中できるよう、簡潔で軽く、温かみのあるデザイン
- 個人性:ユーザーのニーズと好みに合わせてカスタマイズできる
- 親しみ:今まで慣れ親しんだWindowsの操作感とアップデートされた外観のバランス
- 一貫性:プラットフォーム全体にわたって視覚的にシームレスなエクスペリエンス
Windows 11の新しいタスクバーや[スタート]画面、角のとれたウィンドウやコントロール、OSや他のアプリと統一されたアイコンと色遣い、オブジェクトの重なりをさりげなく表現する視覚効果、操作したときに現れるちょっとしたアニメーション効果などはその成果といえる。
新しい「ペイント」アプリ
新しい「ペイント」アプリも、こうしたデザイン原則を踏襲したつくりになっている。[ペイント 3D で編集する]コマンドがなくなっていることを除けば、機能は従来バージョンとほぼ同じだが、ユーザーインターフェイスはドラスティックに変更されている。
各種コマンドがおさめられていたリボン風のツールバーは「Windows UI ライブラリ」(WinUI)の新しいメニューバー・コマンドバーに置き換えられ、シンプルでクリーンな印象だ。コントロール類は角がとれて丸くなり、アイコンも極力システムとの統一が図られた。見た目は大きく変わったが、操作性はそれほど変わらないのが面白いところだ。
ただ、テキストツールのみ全面的に刷新されており、リボンではなく専用のツールバーでスタイルを指定する仕組みに改められている。状況に応じてツールバーに表示されるコマンドが変化するリボンは、限られた領域に多くのコマンドをおさめることができるという点では優秀なアイデアだが、慣れないユーザーの戸惑いやつまずきを招く仕組みでもあった。その点、コンパクトなバーで追加ツールを表示するWindows 11スタイルはわかりやすく、それでいて邪魔というほどでもない。
リボンのようにツールバーを折りたたんで編集エリアを広げる機能が見当たらない点が唯一気になるが、それ以外はWindows 11版の方が使いやすく感じる人の方が多いのではないだろうか。
あと、意外なことに新しい「ペイント」アプリはダークモードに対応していない。この点は今後の課題といえるだろう。
このように、まだ発展途上の部分も見られるが、全体的に見ればWindows 11の「ペイント」は「Fluent Design System」の原則にのっとってアプリをモダナイズする例として注目に値する。これからデスクトップアプリを開発するオンラインソフト開発者はぜひ参考にしてほしい。