石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
「Snapdragon X」搭載PCでゲームは動くか? ひたすら試した
マイクラ、FF、モンハンなど32本を検証
2024年7月5日 06:55
「Copilot+ PC」ならPCゲームも動くはず
AI PCの新世代として6月18日に登場した「Copilot+ PC」は、Armアーキテクチャを採用したQualcommの「Snapdragon X」というCPUを搭載している。IntelでもAMDでもないし、x86やx64でもないCPUである。
Microsoftは「Copilot+ PC」の要件として、AI処理に特化したNPUを搭載し、その性能が40TOPS以上であることとしている。それを満たした製品として最初に登場したのが「Snapdragon X」であり、IntelやAMDはまだ製品をリリースできていないという状態だ。
ただし今回はAIのことはいったん横に置く。現時点での「Copilot+ PC」は、全て「Snapdragon X」を搭載し、Arm版Windows 11を採用している。その上で動作するプログラムもArm版が必要かというと、そうではない。「Prism」と名付けられた高性能なエミュレーターを搭載しており、x86やx64のプログラムも動作する。
さらに「Snapdragon X」に搭載されたGPUはDirectX 12にも対応している。つまり仕様上では、ほとんどのPCゲームが動作するはずだ。ただし、DirectX 12 Ultimateには非対応で、レイトレーシングも使えない。パフォーマンス的にも最新の3Dゲームがバリバリ動くとは思えないが、従来のArm版Windows搭載機から比べれば大きく進歩している。
ということで今回は、過去に本連載でプレイした作品も含めて、いろいろなゲームの動作を調べてみようと思う。使用するPCは「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」だ。スペックは下記のとおり。
CPU | Snapdragon X Elite(12コア)/Snapdragon X Plus(10コア) |
GPU | Qualcomm Adreno GPU(CPU内蔵) |
NPU | Qualcomm Hexagon(45TOPs) |
メモリ | 16GB/32GB LPDDR5 |
SSD | 256GB/512GB/1TB(PCIe Gen4) |
ディスプレイ | 13.8型PixelSense Flow ディスプレイ(2,304×1,536ドット/120Hz/タッチ対応) |
OS | Windows 11 Home |
汎用ポート | USB4×2、USB 3.1×1 |
無線機能 | Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4 |
有線LAN | なし |
その他 | 1080pカメラ(Windows Hello 顔認証対応)、Surface Connect ポート、ヘッドフォン端子 |
本体サイズ | 301×220×17.5mm |
重量 | 1.34kg |
価格 | 207,680円~ |
使用したモデルは、CPUがSnapdragon X Plus (10コア)、メインメモリが16GB、SSDが256GBと、最もベーシックな構成だ。価格は207,680円。
最近は1本で数十GBにもなる作品も多く、ストレージが256GBのモデルだと入れては消しての繰り返しで非常に苦労したが、ひたすら試した結果をお伝えしよう。
ひたすらゲームを試していく
まずはPCゲームをプレイする上で重要な配信プラットフォームの動作を確認する。「Steam」、「Epic Games」、「EA App」、「Battle.net」、「Wargaming.net」はインストールから実行まで問題なく、購入済みのゲームのインストールや管理もできる。
マイクロソフト純正と呼ぶべき「Xbox」に関しては、クラウドゲーミング以外の項目がなく、所有済みのゲームのインストールもできない。代わりに「Microsoft Store」アプリからダウンロードは可能で、購入済みのゲームはこちらからインストールできる。
ここからは各ゲームの動作を確認していく。同じゲームでも配信プラットフォームが異なると動作状況が変わる可能性があるため、各タイトルの最後にはプラットフォーム名も書き添えた。また検証結果は本稿を執筆した7月上旬時点でのもので、その後のPC側・ゲーム側のアップデートにより状況が変わる可能性がある。この検証で各タイトルの動作・非動作を保証するものではなく、あくまで参考としてご覧いただきたい。
- 「Aim Lab」
- 「Among Us」
- 「Apex Legends」
- 「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」
- 「Cities: Skylines II」
- 「Diablo IV」
- 「Fall Guys」
- 「Frostpunk」
- 「Gang Beasts」
- 「Human Fall Flat」
- 「Microcivilization」
- 「Minecraft」
- 「Minecraft Dungeons」
- 「Minecraft Legends」
- 「Overwatch 2」
- 「Placid Plastic Desktop」
- 「Plague Inc: Evolved」
- 「PowerWash Simulator」
- 「Sea of Stars」
- 「Sid Meier's Civilization VI」
- 「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」
- 「World of Tanks」
- 「World of Warships」
- 「ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ」
- 「サイバーパンク2077」
- 「どこかで見た“あのゲー”ムたちを棒人間で……(以下略)
- 「パルワールド」
- 「ファミレスを享受せよ」
- 「フォートナイト」
- 「モンスターハンターライズ」
- 「NVIDIA GeForce NOW」
「Apex Legends」(EA)
オンライン対戦型FPS。起動時にエラーが表示され、ARM64のCPUはサポート対象外とメッセージが出る。チート対策ソフト「Easy Anti-Cheat」によるブロック動作と思われる。
「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」(Steam)
3Dロボットアクションゲーム。ゲームを起動すると、「Easy Anti-Cheat」と思われるエラーメッセージが表示され、起動できない。
「Cities: Skylines II」(Steam)
都市開発シミュレーションゲーム。ゲームの起動後、マップデータ読み込みのタイミングで、アプリが落ちてしまう。何度か試したが、ゲームプレイまでは至らなかった。負荷が非常に大きな作品であることも影響しているのだろうか。
「Diablo IV」(Battle.net)
ハック&スラッシュと呼ばれるアクションRPG。インストールは順調に終わり、ゲーム起動時も読み込みが非常に重いながらも、ゲームプレイにたどり着いた。しかし途中で「[Prism] Device Removal」というエラーメッセージが出て強制終了してしまった。「Prism」に何らかの問題が起こったようだ。
「Fall Guys」(Epic Games)
オンライン対戦型競走アクションゲーム。ゲームを起動しようとするとエラーが表示され、ARM64は非サポートと表示されてプレイできない。「Easy Anti-Cheat」によるものと思われる。
「Minecraft Dungeons」(Microsoft Store)
ハック&スラッシュ型のアクションRPG。「Microsoft Store」で検索すると見つかるが、「お使いのPCのプロセッサと互換性がありません」と表示され、インストールできない。
「Overwatch 2」(Battle.net)
オンライン対戦型FPS。インストールが問題なく終わり、ゲームも動作する。ただし解像度はかなり低めに設定され、フレームレートもかなり低いため、快適にプレイできるとは言えない。
「PowerWash Simulator」(Microsoft Store)
汚れ落としアクションゲーム。「Microsoft Store」で検索すると見つかるのだが、「この製品の一部の要件を満たしていません」と警告が表示され、インストールできない。何が要件を満たしていないかは明らかにしていない。
「Sid Meier's Civilization VI」(Steam)
ターン制ストラテジーゲーム。起動しようとしたが、しばらくすると起動プロセスが勝手に終わってしまい、プレイできない。エラーメッセージの表示もない。
「サイバーパンク2077」(Steam)
オープンワールド・アクションアドベンチャーRPG。ベンチマークテストのフレームレートは、画質設定「低」でも平均20fps程度で十分とは言えないが、何とか遊べはする。
「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」(Steam)
スタンドアローンのRPG。インストールや動作に全く問題はなく、2Dゲームだけあって快適に動作する。なお「ファイナルファンタジーVI」まで6作のシリーズ作品全てで動作を確認した。
「フォートナイト」(Epic Games)
オンラインアクションシューティングゲーム。起動時にエラーが出て、「ARM64 CPUは未サポート」と表示される。「Easy Anti-Cheat」によるものと思われる。
「モンスターハンターライズ」(Steam)
3Dハンティングアクションゲーム。起動しようとするが、何も表示されないまま起動プロセスが終了する。エラーメッセージも一切表示されない。
「Prism」の動作より、ゲーム側のブロックが問題
かなりの数のタイトルをチェックしたが、「動かないタイトルが結構ある」と感じたのではないかと思う。それは事実なのだが、動かなかった理由を見てみると、実行したが正常に動かなかったのではなく、プログラム側で動作対象外としてブロックしたというものが多い。
最もわかりやすい例が「Easy Anti-Cheat」で、Arm系のCPUであることを理由にゲームを起動させない。本来想定したCPUとは異なるもので動作させた場合、想定外のチートの抜け穴がないとも限らないので、警戒のためブロックするのだと思われる。これは正しい対応だと思うので仕方ない。
他にも動作対象外としてインストールさせてもらえないものや、起動できないものがある。PCゲームは極めて古いPCで実行された場合、十分なパフォーマンスを発揮できず問題が出る。明らかに想定外のPCで実行されてトラブルが起きても開発者側が対処に困るので、動作環境でないものは弾くという設定はあり得る。
それらを除けば、基本的には動作すると言って差し支えない状態だ。DirectX 12が動作し、「Prism」が正しくエミュレーションしてくれるのだから、プログラム側からすれば普通のPCと変わりない。「Prism」の問題と思われるエラーを出したゲームはごく少数で、特に動作が軽いゲームはほとんど支障なく動いている。
GPUのパフォーマンスは、他社のCPU内蔵グラフィックスと大差はなく、特別に遅いということもない。ヘビーな3Dゲームを動かすのには力不足だが、軽めのゲームであれば何ら問題ない。
個別のゲームが動くかどうかは試してみないとわからないわけだが、ハード・ソフトの両面では十分にフォローされていると感じる。あとはArmアーキテクチャのCPUをゲーム側がどこまで対応するかだけだ。その「だけ」が今後どうなるか読めないのが、最も悩ましいところなのだが。ともかく「Prism」とAdreno GPUが十分優秀なのは間違いない。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。