石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

「Snapdragon X」搭載PCでゲームは動くか? ひたすら試した

マイクラ、FF、モンハンなど32本を検証

「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」でゲームをプレイ

「Copilot+ PC」ならPCゲームも動くはず

 AI PCの新世代として6月18日に登場した「Copilot+ PC」は、Armアーキテクチャを採用したQualcommの「Snapdragon X」というCPUを搭載している。IntelでもAMDでもないし、x86やx64でもないCPUである。

 Microsoftは「Copilot+ PC」の要件として、AI処理に特化したNPUを搭載し、その性能が40TOPS以上であることとしている。それを満たした製品として最初に登場したのが「Snapdragon X」であり、IntelやAMDはまだ製品をリリースできていないという状態だ。

 ただし今回はAIのことはいったん横に置く。現時点での「Copilot+ PC」は、全て「Snapdragon X」を搭載し、Arm版Windows 11を採用している。その上で動作するプログラムもArm版が必要かというと、そうではない。「Prism」と名付けられた高性能なエミュレーターを搭載しており、x86やx64のプログラムも動作する。

 さらに「Snapdragon X」に搭載されたGPUはDirectX 12にも対応している。つまり仕様上では、ほとんどのPCゲームが動作するはずだ。ただし、DirectX 12 Ultimateには非対応で、レイトレーシングも使えない。パフォーマンス的にも最新の3Dゲームがバリバリ動くとは思えないが、従来のArm版Windows搭載機から比べれば大きく進歩している。

 ということで今回は、過去に本連載でプレイした作品も含めて、いろいろなゲームの動作を調べてみようと思う。使用するPCは「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」だ。スペックは下記のとおり。

【Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)スペック】
CPUSnapdragon X Elite(12コア)/Snapdragon X Plus(10コア)
GPUQualcomm Adreno GPU(CPU内蔵)
NPUQualcomm Hexagon(45TOPs)
メモリ16GB/32GB LPDDR5
SSD256GB/512GB/1TB(PCIe Gen4)
ディスプレイ13.8型PixelSense Flow ディスプレイ(2,304×1,536ドット/120Hz/タッチ対応)
OSWindows 11 Home
汎用ポートUSB4×2、USB 3.1×1
無線機能Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
有線LANなし
その他1080pカメラ(Windows Hello 顔認証対応)、Surface Connect ポート、ヘッドフォン端子
本体サイズ301×220×17.5mm
重量1.34kg
価格207,680円~

 使用したモデルは、CPUがSnapdragon X Plus (10コア)、メインメモリが16GB、SSDが256GBと、最もベーシックな構成だ。価格は207,680円。

 最近は1本で数十GBにもなる作品も多く、ストレージが256GBのモデルだと入れては消しての繰り返しで非常に苦労したが、ひたすら試した結果をお伝えしよう。

ひたすらゲームを試していく

 まずはPCゲームをプレイする上で重要な配信プラットフォームの動作を確認する。「Steam」、「Epic Games」、「EA App」、「Battle.net」、「Wargaming.net」はインストールから実行まで問題なく、購入済みのゲームのインストールや管理もできる。

「Steam」。サマーセールが始まって一面バナーになってしまった

 マイクロソフト純正と呼ぶべき「Xbox」に関しては、クラウドゲーミング以外の項目がなく、所有済みのゲームのインストールもできない。代わりに「Microsoft Store」アプリからダウンロードは可能で、購入済みのゲームはこちらからインストールできる。

「Xbox」はクラウドゲーミングしか対応していない

 ここからは各ゲームの動作を確認していく。同じゲームでも配信プラットフォームが異なると動作状況が変わる可能性があるため、各タイトルの最後にはプラットフォーム名も書き添えた。また検証結果は本稿を執筆した7月上旬時点でのもので、その後のPC側・ゲーム側のアップデートにより状況が変わる可能性がある。この検証で各タイトルの動作・非動作を保証するものではなく、あくまで参考としてご覧いただきたい。

「Aim Lab」(Steam)

 FPSのエイミングトレーニングソフト。プレイからスコア表示まで無事に完遂した。

「Aim Lab」は動作した

「Among Us」(Epic Games)

 オンライン対戦型心理戦アクションゲーム。正常に起動し、ゲームプレイも可能。2Dベースだけあって動作も軽快だ。

「Among Us」は動作した

「Apex Legends」(EA)

 オンライン対戦型FPS。起動時にエラーが表示され、ARM64のCPUはサポート対象外とメッセージが出る。チート対策ソフト「Easy Anti-Cheat」によるブロック動作と思われる。

「Apex Legends」は起動できない

「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」(Steam)

 3Dロボットアクションゲーム。ゲームを起動すると、「Easy Anti-Cheat」と思われるエラーメッセージが表示され、起動できない。

「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」は起動できない

「Cities: Skylines II」(Steam)

 都市開発シミュレーションゲーム。ゲームの起動後、マップデータ読み込みのタイミングで、アプリが落ちてしまう。何度か試したが、ゲームプレイまでは至らなかった。負荷が非常に大きな作品であることも影響しているのだろうか。

「Cities: Skylines II」は強制終了してしまいプレイできなかった

「Diablo IV」(Battle.net)

 ハック&スラッシュと呼ばれるアクションRPG。インストールは順調に終わり、ゲーム起動時も読み込みが非常に重いながらも、ゲームプレイにたどり着いた。しかし途中で「[Prism] Device Removal」というエラーメッセージが出て強制終了してしまった。「Prism」に何らかの問題が起こったようだ。

「Diablo IV」は少しは動作するのだが、途中で「Prism」のエラーが出てしまう

「Fall Guys」(Epic Games)

 オンライン対戦型競走アクションゲーム。ゲームを起動しようとするとエラーが表示され、ARM64は非サポートと表示されてプレイできない。「Easy Anti-Cheat」によるものと思われる。

「Fall Guys」は起動できない

「Frostpunk」(Epic Games)

 サバイバルシミュレーションゲーム。低画質でも動作は重めながら、ゲーム自体は問題なく動作する。

「Frostpunk」は重いながらも動作した

「Gang Beasts」(Steam)

 格闘アクションゲーム。起動まで問題なく、高画質設定でも快適に動作する。

「Gang Beasts」は動作した

「Human Fall Flat」(Steam)

 3Dアクションパズルゲーム。起動まで問題なく、3Dゲームながら軽快に動作する。

「Human Fall Flat」は動作した

「Microcivilization」(Steam)

 文明開発クリッカーゲーム。インストールから起動、動作まで何ら問題はない。

「Microcivilization」は動作した

「Minecraft」(Microsoft Store)

 サンドボックスゲーム。「Microsoft Store」からダウンロードが可能で、問題なくプレイできる。動作や読み込みも十分速い。

「Minecraft」は動作した

「Minecraft Dungeons」(Microsoft Store)

 ハック&スラッシュ型のアクションRPG。「Microsoft Store」で検索すると見つかるが、「お使いのPCのプロセッサと互換性がありません」と表示され、インストールできない。

「Minecraft Dungeons」はCPUの判定でインストールさせてもらえない

「Minecraft Legends」(Steam)

 アクションストラテジーゲーム。起動からゲームプレイまで問題なく動作し、3Dゲームながらフレームレートも高く快適に遊べる。

「Minecraft Legends」は動作した

「Overwatch 2」(Battle.net)

 オンライン対戦型FPS。インストールが問題なく終わり、ゲームも動作する。ただし解像度はかなり低めに設定され、フレームレートもかなり低いため、快適にプレイできるとは言えない。

「Overwatch 2」はプレイ可能だがパフォーマンス不足

「Placid Plastic Desktop」(Steam)

 デスクトップにアヒルを浮かべるアプリ(ゲームではない)。起動して大量のアヒルをデスクトップに浮かべるまで、何ら問題なく動作する。

「Placid Plastic Desktop」は動作した

「Plague Inc: Evolved」(Steam)

 伝染病シミュレーションゲーム。起動まで問題なく、ゲームも快適に動作する。

「Plague Inc: Evolved」は動作した

「PowerWash Simulator」(Microsoft Store)

 汚れ落としアクションゲーム。「Microsoft Store」で検索すると見つかるのだが、「この製品の一部の要件を満たしていません」と警告が表示され、インストールできない。何が要件を満たしていないかは明らかにしていない。

「PowerWash Simulator」はインストール不可

「Sea of Stars」(Steam)

 2DベースのRPG。起動まで問題なく、ゲームプレイも快適に動作する。

「Sea of Stars」は動作した

「Sid Meier's Civilization VI」(Steam)

 ターン制ストラテジーゲーム。起動しようとしたが、しばらくすると起動プロセスが勝手に終わってしまい、プレイできない。エラーメッセージの表示もない。

「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」(Steam)

 ダンジョン探索RPG。問題なく起動し、プレイもスムーズ。

「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」は動作した

「World of Tanks」(Wargaming.net)

 オンライン戦車アクションゲーム。ゲームのインストールから起動まで問題なし。画質は「低」を選べば十分プレイできる品質だ。

「World of Tanks」は低画質なら問題なくプレイできる

「World of Warships」(Wargaming.net)

 オンライン海戦アクションゲーム。ゲームのプレイまで問題なし。画質は標準で「中」が選択されており、プレイにも支障なかった。

「World of Warships」はそれほど画質を下げなくても遊べる印象

「ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ」(Steam)

 ブロックメイクRPG。インストールから起動まで問題はなく、3Dゲームながら動作も軽く、快適にプレイできる。

「ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ」は快適に動作した

「サイバーパンク2077」(Steam)

 オープンワールド・アクションアドベンチャーRPG。ベンチマークテストのフレームレートは、画質設定「低」でも平均20fps程度で十分とは言えないが、何とか遊べはする。

「サイバーパンク2077」はかなり重いが動作は可能

「どこかで見た“あのゲー”ムたちを棒人間でつくってみたけれど、果たしてあなたはクリアできるのか?」(Steam)

 カジュアルパズルゲーム集。起動まで問題なく、ゲームも快適に動作する。

「どこかで見た“あのゲー”ムたちを棒人間でつくってみたけれど、果たしてあなたはクリアできるのか?」は動作した

「パルワールド」(Steam)

 オープンワールドサバイバルクラフトゲーム。無事に動作はするものの、低画質設定で何とか遊べる程度のフレームレート。

「パルワールド」はかなり重いがプレイは可能

「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」(Steam)

 スタンドアローンのRPG。インストールや動作に全く問題はなく、2Dゲームだけあって快適に動作する。なお「ファイナルファンタジーVI」まで6作のシリーズ作品全てで動作を確認した。

「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」は動作する。シリーズ全6作品とも動作確認

「ファミレスを享受せよ」(Steam)

 謎解きアドベンチャーゲーム。起動まで問題はなく、ゲームプレイも快適だ。

「ファミレスを享受せよ」は動作する

「フォートナイト」(Epic Games)

 オンラインアクションシューティングゲーム。起動時にエラーが出て、「ARM64 CPUは未サポート」と表示される。「Easy Anti-Cheat」によるものと思われる。

「フォートナイト」はCPU未サポートとされ動作しない

「モンスターハンターライズ」(Steam)

 3Dハンティングアクションゲーム。起動しようとするが、何も表示されないまま起動プロセスが終了する。エラーメッセージも一切表示されない。

「NVIDIA GeForce NOW」

 こちらはゲームではなく、クラウドゲーミングプラットフォーム。インストールや実行に問題はなく、直接起動できなかったゲームもクラウド経由でプレイできる。ゲームの動作も快適だ。

起動できなかった「モンスターハンターライズ」を「NVIDIA GeForce NOW」でプレイ

「Prism」の動作より、ゲーム側のブロックが問題

 かなりの数のタイトルをチェックしたが、「動かないタイトルが結構ある」と感じたのではないかと思う。それは事実なのだが、動かなかった理由を見てみると、実行したが正常に動かなかったのではなく、プログラム側で動作対象外としてブロックしたというものが多い。

 最もわかりやすい例が「Easy Anti-Cheat」で、Arm系のCPUであることを理由にゲームを起動させない。本来想定したCPUとは異なるもので動作させた場合、想定外のチートの抜け穴がないとも限らないので、警戒のためブロックするのだと思われる。これは正しい対応だと思うので仕方ない。

 他にも動作対象外としてインストールさせてもらえないものや、起動できないものがある。PCゲームは極めて古いPCで実行された場合、十分なパフォーマンスを発揮できず問題が出る。明らかに想定外のPCで実行されてトラブルが起きても開発者側が対処に困るので、動作環境でないものは弾くという設定はあり得る。

 それらを除けば、基本的には動作すると言って差し支えない状態だ。DirectX 12が動作し、「Prism」が正しくエミュレーションしてくれるのだから、プログラム側からすれば普通のPCと変わりない。「Prism」の問題と思われるエラーを出したゲームはごく少数で、特に動作が軽いゲームはほとんど支障なく動いている。

 GPUのパフォーマンスは、他社のCPU内蔵グラフィックスと大差はなく、特別に遅いということもない。ヘビーな3Dゲームを動かすのには力不足だが、軽めのゲームであれば何ら問題ない。

 個別のゲームが動くかどうかは試してみないとわからないわけだが、ハード・ソフトの両面では十分にフォローされていると感じる。あとはArmアーキテクチャのCPUをゲーム側がどこまで対応するかだけだ。その「だけ」が今後どうなるか読めないのが、最も悩ましいところなのだが。ともかく「Prism」とAdreno GPUが十分優秀なのは間違いない。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』 記事一覧

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。