使ってわかるCopilot+ PC
第1回
結局Copilot+ PCって何が凄いの? 今のPCでもAIは使えるけど……
2024年7月19日 11:57
「Copilot+ PC」発売。それって何だ?
マイクロソフトは6月18日、AI機能を強化したPC「Copilot+ PC」の展開を始めた。ここ数年はさまざまなAIが世間を賑わせており、ついに我々のPCにもAIがやってくるのだなという未来を感じさせる存在だ。
ところで、「Copilot+ PC」とは何だろうか? AIが使えるということはわかるが、いったい何のAIなのか。それによってPCがどう変わるのか。「何だかすごいものらしい」という印象だけの話で終わらせず、普通のPCと何が違うのかを学んでおこう。
40TOPS以上のNPUが搭載されたPCであることが条件
まず「Copilot+ PC」とは何かだが、マイクロソフトは下記のように説明している。
Copilot+ PC は、リアルタイム翻訳や画像生成などの AI を多用するプロセス専用のコンピューター チップであり、40 兆回以上の操作を秒速で実行 (TOPS) できる超高速ニューラル プロセッシング ユニット (NPU) を搭載した、新しいクラスの Windows 11 PC です。
おわかりいただけただろうか? もうちょっとわかりやすく説明しよう。
「Copilot+ PC」には、AI機能を処理するための「NPU」という専用ユニットが搭載されている。NPUの性能は、1秒間に何回の演算ができるかを示す「TOPS」という単位で示される。TOPSは「Tera Operations Per Second」の略で、1秒間に何兆回の演算ができるか、という意味になる。
「Copilot+ PC」には40TOPS以上のNPUが必要とされている。つまり「Copilot+ PC」を名乗るには、1秒間に40兆回以上の演算が可能なNPUを搭載していることが条件となる。
NPUを搭載するCPUはまだ少なく、2024年7月時点で40TOPS以上のNPUを持つ製品は、Qualcommの「Snapdragon X」シリーズのみ。性能は45TOPSだ。そのため、本稿執筆時点で購入できる「Copilot+ PC」は、全て「Snapdragon X」を搭載している。
NPUが搭載されたCPUであることを除けば、「Copilot+ PC」は従来型のPCと同じWindows 11を搭載したPCである。つまりWindows 11搭載PCの中に、高性能NPUを搭載した「Copilot+ PC」が存在する、という位置づけだ。
ただしQualcommは、PC向けのCPUメーカーとして知られるIntelやAMDとは違い、ArmアーキテクチャーのCPUを開発しているメーカーだ。「Snapdragon X」もArmアーキテクチャーを採用しており、Windows 11はArm版が用いられている。Arm版のWindows 11を搭載した「Copilot+ PC」は、高性能なエミュレーター「Prism」を搭載しており、ほとんどのWindows向けソフトは動作するが、一部動作しないものもある。
なおIntelやAMDはも、40TOPSを上回るNPUを搭載したCPUの開発を進めている。そう遠くないうちにIntelやAMDのCPUを搭載した「Copilot+ PC」が登場するだろう。
活用できるAI機能
以上は「Copilot+ PC」を名乗るための条件であり、ユーザーとしては「AI処理に強いPCなんだ」という程度の理解があればいい。ユーザー目線で従来型のPCと異なる点としては、キーボードに[Copilot]キーを搭載したことが挙げられる。
従来からある[アプリケーション]キーと統合する形で導入されることが多く、そのため[Copilot]キーの位置は概ねキーボードの右下にあることが多い。ただし位置の絶対的な指定はなく、メーカーが変えてもいいらしい。
「Copilot+ PC」で[Copilot]キーを押すと、AIチャットができる「Copilot」ウインドウが起動する。これ以外にも[Copilot]キーと別のキーを組み合わせた操作も考えられるが、「Copilot」ウインドウの起動以外には使えないようだった。ここは今後のアップデートに期待したい。
そして肝心の、「Copilot+ PC」で何ができるかの話だ。「Copilot」ウインドウに関しては、サーバー側で処理されるAIチャットだそうで、NPUを使うものではない。そのため、インターネットに接続していない環境では動作しないというデメリットがある。
これに対して、「Copilot+ PC」のNPUを使うAIは、PC単体で処理を完結できるため、インターネット接続がなくても動作する。ユーザーから見ればどちらもAIだが、それがクラウドサービスなのか、スタンドアローンで動作するものなのか、という違いがある。「Copilot+ PC」のNPUを使うことにより、スタンドアローンで動作するAIを活用できるということだ。
現時点において、NPUを使用するAI処理がWindows 11の機能としていくつか用意されている。簡単に紹介しよう。
リアルタイム字幕機能「ライブ キャプション」
動画などの音声をAIがリアルタイムに聞き取ってテキスト化し、さらに英語にも翻訳できる。PCから再生される音声を聞き取ってテキスト化および翻訳するという機能なので、動画に限らずあらゆる音声ソースに対して使用できる。
カメラ映像をリアルタイム加工「Windows スタジオ エフェクト」
Webカメラの映像で、背景をぼかしたり、映像にアニメ調などの効果を付けたりできる機能。Windowsの機能として搭載されているので、Web会議アプリなどのカメラを使うソフトの種類を問わず利用できる。
現時点ではNPUを使用するAI機能はあまり多くはないが、こちらもいずれソフトウェアが充実してできることも増えていくはずだ。そういった情報も入り次第、弊誌で情報をお伝えしていきたい。
ちなみにAIがNPUを使用しているかどうかは、「タスク マネージャー」を起動すれば確認できる。NPUを搭載したPCでは、CPUやGPUと並んでNPUの使用状況を確認できる。先述のようなAI機能を実行中に「タスク マネージャー」を確認して、NPUの使用率が上がっていれば、正しくNPUを使用するAIであるとわかる。
AI搭載PCが当たり前になる日も遠くない?
「Copilot+ PC」について総括すると、40TOPS以上の高性能NPUを搭載たPCで、いくつかのAI機能がOSに標準搭載されているもの、と説明できる。
基本的にはWindows 11搭載PCであり、従来型のPCの機能は持ち合わせている。逆説的に言えば、従来型のPCは、NPUによるAI機能をオミットしたWindows 11搭載PC、という見方もできる。
この先はCPUの進化に伴って、全てのWindows PCが「Copilot+ PC」になる可能性もあり、今後は「Copilot+ PC」であるかどうかが時代の分かれ目になるかもしれない。まずは「Copilot+ PC」が何であるかを理解し、この先の動向にも注目しておいて欲しい。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/