使ってわかるCopilot+ PC
第3回
「Windows スタジオ エフェクト」はWeb会議アプリのカメラ映像加工とどう違う?
Web会議アプリにはないAI機能のメリットとは?
2024年8月2日 08:13
AIがカメラ映像を加工する機能
「Copilot+ PC」のAI機能の1つとして、「Windows スタジオ エフェクト」が用意されている。これはカメラの映像をAIで加工し、背景をぼかすなどの効果を付加できるもの。
カメラの映像を加工するだけなら、「Microsoft Teams」のようなWeb会議アプリでも機能として搭載しているものがある。しかし「Windows スタジオ エフェクト」には、それらとは異なるメリットや機能がいくつもある。使い方を含めて見ていこう。
「Microsoft Teams」の加工機能と「Windows スタジオ エフェクト」を比較
今回使用した機材は、「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」。本機に搭載されているカメラを使い、「Microsoft Teams」の映像を表示すると、下のような映像になる。Web会議アプリを使っている人にとっては見慣れた光景だろう。
まずは「Microsoft Teams」で使用できるカメラのエフェクト機能を確認する。カメラのアイコンの右側をクリックすると、映像を加工するメニューが表示される。背景の「ぼかし」を選択すると、自分以外の背景がぼやけて見える。また背景を別の画像に変える機能もある。
また顔の暗い部分を明るくして全体のバランスを整える「明るさの調整」や、肌の凹凸を減らしてソフトな印象にする「ソフト フォーカス」も使用できる。
次は「Windows スタジオ エフェクト」を見ていこう。タスクバーにある[クイック設定]を開き、[スタジオ効果]を選ぶと、カメラの映像にさまざまな加工を施せる。
「ポートレート ライト」は、カメラの明るさのバランスを調整する。「Microsoft Teams」にあった「明るさの調整」と似た機能だが、こちらの方が修正力は弱めの印象で、筆者の利用環境では映像にほとんど変化がなかった。カメラ自体が優秀で、露出を自動補正しているためかもしれない。
「縦向きのぼかし」と「標準ぼかし」は、いずれも背景をぼかす効果。「標準ぼかし」は「Microsoft Teams」の「ぼかし」と同等の効果で、「縦向きのぼかし」はかなり弱めのぼかし効果になっている。
「クリエイティブフィルター」は、「図」、「アニメーション」、「水彩画」の3種類があり、それぞれ映像に特殊なフィルターをかける。「アニメーション」だと全体的にのっぺりとしたセル画のような描画になり、「水彩画」にすると筆で色を塗り分けたような段階的な色味になる。ちょっとお遊び感のある機能だ。
「アイ コンタクト」には、「標準」と「テプロンプター」の2種類がある。使用すると、自分の目線がカメラに向いているように加工される。特に「テプロンプター」を選んだ時の効果が強力で、実際には目線を手元の原稿などに向けていたとしても、カメラの映像では常にカメラの方を向いているように修正される。
Web会議の際に、手元の原稿を読んでいるのに、正面を向いて話し続けているように見えるので、相手に良い印象を与えられるかもしれない。映像にも不自然さはほとんどなく、この機能を使用しているかどうかを映像から見分けるのは困難だ。
「自動フレーム化」は、カメラから離れたり、脇にずれたりした際に、自分がなるべく適切な大きさで画面の中心に来るようにズームする機能。例えば意図的にカメラから距離を取ってみると、自分の表示が小さくならないよう、自分の姿が拡大表示される。
これを応用すると、カメラの画角が広くて家の様子が見えてしまうという場合にも、自分を適切なサイズに表示しつつ、背景もある程度隠せるという使い方もある。カメラ自体を動かすわけではなく、あくまで映像を加工するものなので、自分がカメラから完全にフレームアウトしてしまうと意味をなさない。それでもカメラとの適切な距離を作るのが難しい状況では意外と重宝するだろう。
高品質、多機能、多用途、低負荷と多数のメリット
こうして機能を比較してみると、「Windows スタジオ エフェクト」の方が多機能ではあるが、「Microsoft Teams」にもある背景ぼかしや明るさ調整があれば十分と感じる人も多いと思う。しかし「Windows スタジオ エフェクト」を使うメリットは他にもまだまだある。
まず背景ぼかしの機能については、一見同じように見えるが、比較すると「Windows スタジオ エフェクト」の方が追従性が非常に高く、背景との境目も隙間がかなり少ないないことがわかる。つまり「Windows スタジオ エフェクト」の方が、背景ぼかしの品質が高い。
また「Windows スタジオ エフェクト」は、元々のカメラ映像に対して加工を行うのも特徴だ。「Microsoft Teams」で加工したカメラ映像は、あくまで「Microsoft Teams」で使うためのものだが、「Windows スタジオ エフェクト」で加工した映像は、カメラを使うあらゆるアプリに適用できる。
例えば動画配信の際、自分のカメラ映像を使いながらも、背景はぼかすといったことにも使える。もちろん「アイ コンタクト」や「クリエイティブフィルター」といった機能も活用できる。
さらに重要なこととして、「Windows スタジオ エフェクト」の映像加工処理は、「Copilot+ PC」に内蔵されているNPUを使用する。CPUとは別の処理となるため、映像加工のためにCPUパワーを割く必要がないのだ。
実際にCPU使用率がどのように変化するのかチェックしてみた。まず映像加工をしていない状態で「Microsoft Teams」を起動すると、CPU使用率は3%程度。「Microsoft Teams」でぼかしなどの加工を行うと、8%程度になった。
次に「Windows スタジオ エフェクト」で「標準ぼかし」と「ポートレート ライト」を使用すると、CPU使用率は4%程度。NPUも4%程度使用している。
さらに「クリエイティブフィルター: 水彩画」、「アイ コンタクト: テプロンプター」、「自動フレーム化」を追加すると、CPU使用率は6%程度、NPU使用率は25~45%程度になった。特に「自動フレーム化」が働いている時には、NPU使用率が20%ほど上昇しており、処理負荷が高めのようだ。
このようにNPUの使用率が上がっているが、CPU使用率は比較的低い状態が保たれている。つまりカメラ映像を加工しても、他の作業に使うためのCPUリソースは空けられている状態だ。並行して別の作業を行う際には大きなメリットになる。
NPU自体の消費電力もかなり低く、快適な使用感と消費電力低減の両方でメリットがある。ノートPCであれば、CPU使用率が下がることで発熱が減り、ファンの騒音を減らせたり、バッテリ持続時間を伸ばせるというメリットもある。
一見すると「別にAIじゃなくてもできる機能でしょ?」と思われそうだが、同等の機能であってもメリットはある。加えて他ではあまりない便利なエフェクトも使用できるし、加工した映像を適用するアプリケーションも問わないため自由度も高い。地味に見えて、現状では「Copilot+ PC」で最も役立つAI機能と言っていいものだ。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/