使ってわかるCopilot+ PC

第13回

NPUを活用したAIでゲームのフレームレートを上げる「自動スーパー解像度」を試す

GPUとは違うユニークな処理方法。排他的フルスクリーンが設定の肝

検証に使用した「Copilot+ PC」、「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」

ゲームのフレームレート向上に役立つAI機能

 「Copilot+ PC」のNPUを活用する機能として、自動スーパー解像度(Automatic Super Resolution、Auto SR)が用意されている。低解像度のゲーム映像を高解像度化処理する、いわゆる超解像機能である。

 3Dゲームは高解像度で表示しようとすると、高性能なGPUが必要になる。処理能力が不足すると、フレームレートが低くなってカクカクした映像になり、ゲームのプレイ感覚を悪くしてしまう。解像度を低くすれば映像は滑らかになるが、映像の精細さで劣るため、これまたゲームの体験を悪くする。

 そこで、低い解像度でゲーム映像を処理した上、NPUを用いたAI処理で超解像すれば、高いフレームレートと高解像度を両立できる……というのが自動スーパー解像度の目的である。詳しい仕組みを見ていきつつ、実際にゲームで試してみたい。

Copilot+ PC専用のAI機能

 自動スーパー解像度についての解説は、MicrosoftのWebサイトに書かれている。ちょっとわかりづらい部分もあるので、詳しく解説しよう。

 まず、自動スーパー解像度を利用するためのシステム要件は、下記のようになっている。

  1. Hexagon NPUと統合GPUを搭載したSnapdragon Xシリーズのプロセッサーを備えたCopilot+ PC
  2. Windows 11 バージョン24H2以降
  3. グラフィックスおよびニューラルプロセッサの最新ドライバー(更新プログラムを手動で確認するには、「設定」アプリの[Windows Update]画面で[更新プログラムの確認]を選択する)
  4. 1080p以上の表示解像度。
  5. 「Auto Super Resolution Package」の最新バージョン。

 羅列すると大変そうに見えるが、実質的にはSnapdragon Xシリーズを搭載したCopilot+ PCであることだけが条件だ。筆者は手元に「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」があるので、問題なく使用できる。

 Snapdragon Xシリーズ搭載のCopilot+ PCは、最初からWindows 11のバージョン24H2なので、2は問題なし。3は『Windows Updateをしておけ』という意味だ。4の解像度も1080p未満のディスプレイを搭載した製品は現時点では存在しない(外部ディスプレイを接続した場合を除く)。

 5の「Auto Super Resolution Package」の最新バージョンについては、リンクが用意されているので確認して欲しい。本稿執筆時点では最初からインストールされていたようで、特に追加作業は必要なかったが、今後、最新バージョンが公開された時には最新版を取得する必要があると思われる。

動作確認済みの「Shadow of the Tomb Raider」でテスト

 では実際に自動スーパー解像度を使ってみよう。こちらのWebサイトでは、Arm版Windowsにおける動作状況が報告されており、この中にある「Auto SR」の項目で「yes」と回答したものが自動スーパー解像度対応となっている。本稿執筆時点では、14タイトルが動作確認済みとされていた。

動作確認済みのタイトルを検索できる。随時更新されているようで、「Shadow of the Tomb Raider」の対応は比較的新しいようだ

 ただゲームの要件としては、「DirectX 11またはDirectX 12を使用した、エミュレートされたx64またはArm64ネイティブプラットフォーム」となっているため、ほとんどのゲームは対応しているようにも読める(そもそもArm版Windowsでゲームが動作するかどうか、という問題はあるが)。ただしHDRや、Vulkan、OpenGLなどには非対応。

 今回は動作確認済みの作品の1つ、「Shadow of the Tomb Raider」を試してみる。本作で自動スーパー解像度を使用するための設定方法も、先述のWebサイトで確認できる。設定方法はゲームによって異なる場合がある。

 本作での設定手順は、まず設定の[システム]から、[ディスプレイ]-[グラフィック]と進み、自動スーパー解像度のスイッチをONにする。さらにその下の[アプリケーションのカスタム設定]の項目から本作の実行ファイルを探し、[自動スーパー解像度]の項目で[オン]を選択する。

設定で[自動スーパー解像度]の項目を[オン]にしておく

 そしてゲームを起動し、起動メニューの設定から[ディスプレイ]を選び、縦800ドットに近い解像度の設定に変更する(今回は1,152×768ドットを選択)。これでゲームを起動する。

「Shadow of the Tomb Raider」のタイトル画面。こちらは2,304×1,536ドットで表示したもの。左上の数値は「NVIDIA FrameView」で表示している(問題なく動作している)

 もし自動スーパー解像度が正しく機能している場合、『自動スーパー解像度によって強化されています』という通知が届く。もし設定が不十分な場合は、通知内容が『設定を変えれば自動スーパー解像度が使える』といった旨の文言に変わる。通知は数秒で消えるので注意して見ておくこと。

画面右下に通知が現れる。この通知が出れば自動スーパー解像度が動作している証拠

 実際にどのくらい高解像度化処理されるのかは、後述する理由で比較が難しい。そこで方向性を変え、「Shadow of the Tomb Raider」に搭載されたベンチマークテスト機能を利用し、フレームレートを測定することにした。

 「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」のディスプレイ解像度となる2,304×1,536ドットをゲーム解像度とし、グラフィックス品質を[中]とした場合、平均フレームレートは16(fps)。映像がかなりカクカクする場面が多く、ゲームプレイには適さない。

高解像度時のフレームレートは低め

 次は縦横50%となる1,152×768ドットに解像度を落として再び計測。今度は平均フレームレートが37まで上がり、十分遊べるレベルになった。

レンダリング解像度が下がるとフレームレートは上がるが、画面がぼやけたように見える

 最後に自動スーパー解像度をONにする。平均フレームレートは36で、OFFの時よりごく僅かに低下したが、見た目の解像感は自動スーパー解像度がOFFの時よりかなり上がる。2,304×1,536ドットの設定時には及ばないながら、くっきりした映像になっている。

フレームレートはほぼ変わらず、解像感の高い映像になる(ただしスクリーンショットでは判別できない)

他とは違う特殊処理

 自動スーパー解像度と同様の機能は、NVIDIA、AMD、IntelのGPUメーカー3社もそれぞれに用意している。しかし自動スーパー解像度の説明を読んでいくと、どうも3社のGPUとはちょっと違うプロセスで処理されている。

 GPUメーカーの機能では、設定した解像度よりも、ゲームのレンダリング解像度を低くして、それを高解像度化処理して、設定した解像度に合わせて出力している。これに対して自動スーパー解像度は、ゲームで出力する解像度を下げ、出てきた映像をディスプレイ出力する前に高解像度化処理している。

 具体的な例で示すと、ディスプレイ解像度が2,304×1,536ドット、ゲームのレンダリング解像度が1,152×768ドットの場合、GPUメーカーのものは1,152×768ドットの映像を高解像度化処理して、2,304×1,536ドットの映像をディスプレイ出力する。

 しかし自動スーパー解像度では、ゲーム上の設定解像度は1,152×768ドットで、OSからも1,152×768ドットの解像度で出力されているように見える。しかし実際には、高解像度化処理が加えられた映像がディスプレイに出力されている。

 説明によると、「自動スーパー解像度は、Windows OSとディスプレイパイプラインに統合されている」という。GPUによる高解像度化処理では、高解像度化した映像を映像出力するのに対して、自動スーパー解像度は出力された映像そのものを高解像度化処理してディスプレイに渡す、という形のようだ。

 この仕様により、映像をスクリーンキャプチャしても低解像度の画像しか得られない。またGPUメーカーの高解像度化処理とは根本的な仕組みが違うため、仕様的には併用も可能だ(結果が望ましいものになるかどうかはともかく)。高解像度化して欲しいのに、見かけ上のディスプレイ解像度が低いというのは違和感があるのだが、そういうものだと理解するほかない。

スクリーンショットは低解像度で撮影されてしまうためわからないが、実際にディスプレイに表示される映像は高解像度化処理がなされている

 そして処理にはNPUもちゃんと使用している。GPUメーカーのものとは違い、GPUに負荷をかけないのはメリットと言える。自動スーパー解像度の動作中はNPU使用率が50~100%になっており、NPUを使用するAI機能としては負荷が重めだ。

NPUも確かに使用している

未確認タイトルでも使用できる

 では動作報告された14タイトル以外のゲームはどうだろうか。「マインクラフト」は[アプリケーションのカスタム設定]の項目に自動でリストアップされていたが、「このアプリで自動SRを使用すると、予期しない結果が発生する可能性があります」という注意が付けられている。

警告ともとれる表示が出ている

 [自動スーパー解像度]の項目を[オン]にしてゲームを起動してみると、特に何の通知も上がってこない。説明を読み直すと、自動スーパー解像度は縦900ドット未満の解像度の時に動作すると書かれているので、OSの解像度を1,152×768ドットに下げてから再び起動したが、やはり通知は来なかった。

ゲームは問題なく動作しているが、自動スーパー解像度の通知が一切来ない

 他のゲームに関しては、そもそもリストに上がらないものもある。その場合は実行ファイルを手動で指定することも可能だ。試しに「ファイナルファンタジーIV」を登録し、[自動スーパー解像度]の項目を[オン]にしてみたところ、ゲーム側の映像設定をフルスクリーンにしておくだけで、ゲーム起動時にディスプレイ解像度が下げられ、自動スーパー解像度が動作した通知が上がってきた。

「ファイナルファンタジーIV」を登録。警告表示はこちらも同じ
起動すると、自動スーパー解像度が動作したとの通知が来た
ゲームも動作している。2Dベースの本作に自動スーパー解像度は必要ないと思うが、動作確認ということで

 自動スーパー解像度を使用する条件として、排他的フルスクリーン表示が必要になるようで、「マインクラフト」は疑似フルスクリーン表示になるため対応しなかったのではないかと思われる。他のゲームを試す際には、ゲーム側が排他的フルスクリーン表示設定になっているかを確認するといいだろう。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/