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“「Cluster Conference 2022」は大きな転換点になる” クラスター・代表取締役CEO 加藤直人氏インタビュー

大型アップデートの狙い、誤解を生みやすい「クリエイティビティ」・「バーチャル経済圏」の真意とは?

クラスター・代表取締役CEO 加藤直人氏

 「人類の創造力を加速する」というミッションを掲げ、進化を続ける国産メタバースプラットフォーム「cluster(クラスター)」。10月20日に年次カンファレンス「Cluster Conference 2022」が開催され、クラスター(株)が目指す「クリエイターファースト」の場づくり、そして「バーチャル経済圏」の確立に向けて実装予定の新機能や最新情報が披露された。

 同カンファレンスでは、アバターをさらにカスタマイズできる「アクセサリー機能」や、ワールドの作成にスクリプト(JavaScript)が使用できるようになるなど、ユーザーのクリエイティビティをさらに加速させる大型アップデートを多数発表。こちらは別稿でもお伝えした通りだ。

 「Cluster Conference 2022」の終了後には、メディア関係者を対象とした同社の代表取締役CEO・加藤直人氏への質疑応答が行われた。弊誌では、9月に千葉県・幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2022」の場で、加藤氏への単独インタビューを実施したが、前回に続いて今回も、加藤氏に貴重なお話を伺う機会を得られた。

 ちなみに、今回のインタビューは、複数のメディアが一堂に会しての合同インタビューという形で実施。限られた時間の中で、聞きたいことをすべてを聞けたとは言いがたいが、進化が止まらないclusterについて、今後のビジョンなどを伺った。

 「バーチャル経済圏のインフラ」を目指すというclusterはどんなことをやってきて、今後何をやっていくのか。加藤氏自身がたびたび話題にするキーワード「クリエイティビティ」の真意についても語っていただいた。本稿ではその内容をお届けしたい。

Cluster Conference 2022
お馴染みのトリの姿から人型にトランスフォームした加藤氏の新アバター。cluster上で行われた今回のカンファレンスとインタビューの場にはこの姿で登場した

今回のカンファレンスは、clusterにとって大きな転換点になる

――サービス開始後、さまざまなアップデートが行われていましたが、これまでのclusterのアップデートで最も影響が大きかったアップデートは何ですか?

加藤氏:1個に絞るなら「ワールド機能」(筆者注:ユーザーがワールドという常時開設の空間を自由に作れるようになった機能)のリリースだったと思います。2020年にワールドの機能が出て、それまでのclusterはバーチャルイベントのために発展してきて、バーチャルイベントで収益を上げるユーティリティ性の高いツールとしてのサービスだったのですが、ワールド機能ができてから人がそこに集まるようになって、生活する場に変わるという大きい境目だったんじゃないかなと思っています。

 そのタイミングでスマートフォン版も出たのですが、僕としてはワールド機能というのが、まずclusterがバーチャル空間から「住む場所」に変わったという点で、大きかったと思いますね。

 住む空間になってからですね、皆さんがアバターをアップロードしてclusterを生活の場としてちょっとずつ使っていただけるように広がってきたかなと思っていて、その中で経済圏ができるのが大切かなと思っています。そういう観点から言うと、今回のカンファレンスはかなり「クリエイターエコノミー」や「クリエイターエコシステム」というところをテーマに押し出した発表でした。clusterにとって大きな転換点になるのではないかなと思っています。数年後に「大きな転換点はどこでしたか?」と言われたときに、今回のカンファレンスを挙げられるといいな、というふうに思っています。

2020年のアップデートで実装された「ワールド機能」。clusterがバーチャル空間から「住む場所」へ変化した

――今回のアップデートで、今後のclusterに与える影響が最も大きいと思うことは何ですか?

加藤氏:一番は「アクセサリー機能」とそのストアだと思っています。

 clusterはいままで、モノを作ることはできる、アップロードすることはできる、でもそれを売ることができないという場所でした。9月に東京ゲームショウでも発表させていただきましたが、「ワールドクラフト」ですね、ワールドを作るためのアイテムを売るということができるようになったのですが、今回アクセサリーという身に付けるところにおいて、自由度が2から3に増えたというのが結構大きいかなと思っています。

 結局、2次元から3次元くらいへの大きな違いが生まれるかなと思ってまして、かなり大きくクリエイティブの幅が増えるどころか「次元が変わる」というような、ワールドとアバターだけだったのが「ワールド×アバター×アクセサリー」というので、また新しい遊び方が生まれてクリエイティビティが広がった、しかもそのアクセサリー自体が売買できる、というそのコンボが今回一番大きかったかなと思ってます。

 なので、clusterにおいては今回、クリエイティブの幅が本当に次元が変わって、モノの売買に関して大きく変わったというのが、今回のカンファレンスで一番重要なポイントだったかなと考えています。

待望の「アクセサリー機能」が実装。さらに自分らしくアバターを着飾ることができるようになった
アクセサリーは装着する場所や大きさなどを自由にカスタマイズできる

「クリエイティビティの加速=人類総クリエイター」ではない

――「クリエイターエコノミー」に関連してですが、いまメタバースにはさまざまなプラットフォームがあって、クリエイター自身もその中からプラットフォームを選んでいくと思うのですが、clusterが選ばれるために技術的なところや文化的なところでどんなことに注力していますか?

加藤氏:clusterの戦略はすごく明確で、「どこよりも簡単で、どこよりもハードルが低い、クリエイターのためのプラットフォームであろう」というのをスローガンに開発しています。いろんなバーチャルのプラットフォームがあって、いろんなクリエイターエコノミーの仕組みがあるかなと思うんですが、メタバースと呼ばれるテーマだったりイデオロギーの根幹だと思っているのが「作るのが簡単になること」だと思うんですよ。

 例えば、大きい船を作ろうとなったときに、普通に1人で大きい船を作るのは不可能ですが、バーチャル空間なら1人で大きい船を作ってそこに乗るなんてこともできてしまう。そういうところが生産性というか、クリエイティビティを加速してるなと思うんですよね。この「大きい船を作って」ということを考えたときに、これが一部のクリエイター、一部の才能のあるクリエイターの方々に閉じてしまってるんだとしたら、僕はメタバースの可能性としてはすごく狭いところに終わってしまうなと思っています。

 というときに、clusterはどこよりも簡単、どこよりも手軽、どこよりも軽くというのを押し出しているサービスです、というので、それが結構現れているのが「ワールドクラフト」の機能だったり、スマートフォンで入れたり、自動でアバターを軽くする自動リダクションの仕組みです。難しくて入れない、作り方が難しくてプロフェッショナルしか作れない世界ではなく、いろんな人がメタバースの世界を享受できるようにというところにかなり注力して、そこに関しては特色を出せているかなと思います。

「ワールドクラフト」の紹介映像

――逆にメタバースはモノを作らない人でも楽しめる場所なのでしょうか。

加藤氏:僕はクリエイティビティということを言ったときに、「人類総クリエイター」みたいな発言はあんまり好きじゃないんですよ。クリエイティビティという言い方自体が誤解を生みやすいかなと思っています。何か形があるもの、何か価値のあるものを作らないと、その人は価値がないのかと。そのときの「価値」というもの自体が、何か「ものさし」が存在しているはずなんですよね。何かのものさしに合わせて価値が生まれている、その価値を生み出すことがクリエイティビティだ、というふうに勘違いされがちだと思います。

 本来は、1人ひとりがいろんなものさしを持っていていいはずなんですよね。自分はこういうことに価値を感じる、自分はこれを面白いと思う、といういろんなものさしがあるはずで、その面白いと思う中で何か自己表現をしたりとか、自分が楽しいと思う。そのために何かパッシブ、受け身ではなく、アクティブに動く瞬間があると、人類が前に進めるかなと思っているし、輝く瞬間かなと思っているんですね。

 そのときに、メタバースの世界のいいところって、やっぱり物質に囚われた世界というのは1個しか世界がないんですけれども、バーチャル空間というのは何個世界があってもいいわけですよね。まさにこの1つ1つの空間がワールドという呼ばれ方をしていますが、1つ1つのワールドだったり、1人1人のクリエイターが自分の思い思いのものさしを持っていてもいいし、そのものさしをもとに何かを生み出したり、何も生み出していないのかもしれない。それでもその人にとっては楽しいと思えることをやっているような空間が、本当の理想のバーチャル空間だと思いますし、メタバースと呼ばれるようなイデオロギーなのではないかと考えています。

モノを作らなくても楽しいと思えることをやっていれば大丈夫

――いまTwitterみたいなSNSはご飯を食べながら触れるぐらいの手軽さでみんな使っているものだと思います。将来的にはメタバースもそこまで手軽に使えるようになるのでしょうか。デバイス的なハードルをどのようにお考えでしょうか。

加藤氏:結論から言うと、いまのメタバースやバーチャルの世界というのは、ある種「1990年代くらいのときのTwitterやSNS、インターネットのコミュニティに近いもの」だと思っています。90年代にTwitterはないんですけど(笑)。90年代のときにどのくらいの人がインターネットを使っていたのか、どのくらい手軽だったのかというと、全然手軽じゃなかったですよね。本当にみんなが触っているようなサービスではなく、一部のオタクしか触れないようなものでした。

 それがモバイルが普及することによって、どんどんテクノロジーが普及することで、いわゆる「リテラシー」という言い方をしますけど、インターネットの触り方もよくわからない、普段からそういう高度なことに興味・関心がないような方々でも、インターネットの価値を享受できる時代になってきたと思っています。

 といったときに、いまのVR(仮想現実)だったりとか、VRの技術というもの自体はハードルがまだまだ高いし(普及するには)時間がかかります。でももう一個の観点がありまして、僕はあまりメタバースと呼ばれる大きな流れは、ヘッドマウントディスプレイによるものだと思ってないんですね。もっとシンプルにですね、インターネットとゲームの掛け算によって、物事が大きく変わっているという時代の流れだと思っています。

 そういう観点でいうと、ゲームって本当に食ベながらでもやれるし、テレビを見ながらでもやれる、というような世界観ですよね。clusterも実際に、スマートフォンやPCで遊んでくださっている方々はすごく手軽にclusterを遊んでくださってますし。実際、clusterの全ユーザーの7割くらいはスマートフォンで楽しんでくださっているという状況なので、本当にグラデーションかなと思っています。

 「ゲーム的な楽しみ方で世界が自分たちで作れて、しかもその中で生活できる」という、この時代の流れがメタバースと呼んでいるのだと思ってますし、そこでclusterがインフラになれるような経済圏を作っていけたらなと思っています。

clusterはスマートフォン、タブレット、PC、スタンドアロンのOculs Quest 2、PC+VRなど、さまざまなデバイスでプレイできる

バーチャル上を仕事場にするには解決しないといけない問題がたくさんある

――最近ではVR空間にオフィスだったりと、リアルにあったものをバーチャル上に移すという動きがサービスとして多いと思います。clusterにも例えばコミュニティのような感じで、cluster上にオフィスや教室、学校のサークルのような空間を現状、実装しているのでしょうか? また今後作る予定などはあるのでしょうか。

加藤氏:結論から言うと、それをダイレクトに解決するような機能自体は存在していないです。clusterには、基本的にはイベントのためのイベント空間と、生活する場としてのワールドの2種類しかないので、例えば、仕事の空間としてのソリューションなどは提供していない状態ではあります。

 でも実はclusterって、一番最初にclusterという名前もなかったときはバーチャルのオフィスを作ろうとしていました(笑)。ただ結局、バーチャルのサービスをイベント空間として発展し、ソーシャルの空間として発展し、というのを続ける中で、ビジネスの空間というのはそれはそれでいろんな要件があるなと思っています。バーチャル上を仕事場にするというもの自体には、解決しないといけない問題ってすごくたくさんあるなと考えていまして、clusterがそうやって使われるのは数年後でもいいかなと考えているという感じです。

 直近でも、本当に普通にclusterを、例えば大学だったり高校だったり中学もそうですが、授業に使っていただいたり、文化祭や学会にも使っていただいたりという事例は結構あります。なので、要所要所でそうやって使っていただいたりはしているんですけども、オフィス空間や教室のための尖った機能は今のところは出していないです。でもそういう使われ方もどんどん広がっていけばいいなくらいに思っています。

――コンテンツがリッチになっていくと、どうしても重くなっていくのではないかという懸念があります。参加する人数を増やすのと、1つのアバターやワールドをリッチにしていく、リッチに動かすというのは現状のマシンパワーで両立できるものなのでしょうか?

加藤氏:仕組みによっては両立すると考えています。というのと、体験が本当にたくさん表示されることを求めているのか、というところもあると思っています。例えばですが、clusterではアバターを表示しているときに、近くにいる人をリッチに表示して、遠くにいる人はかなり差っ引いて表示する、みたいなことをやったりしています。そういうのをいろいろ組み合わせていくことによって、まずたくさん入るということは実現できると思ってます。

 でも例えば1万人、10万人、なんだったら100万人、100万体のアバターをガーッと表示するなんてことが実際、それをやりたいかといったときに、やりたいのだとしたらその表現の仕方はいろいろあると思っているんですね。実際100万人いたときに、1人ひとりの顔を認識するなんてというのはいらなくなってくるわけです。そういったときにある程度の人数までは1人ひとりを識別できて、より入っていったときには平均化されたような表示になる。それをいろんなところで組み入れていくことによって、ちゃんと軽さとたくさん(の人が同時に)入れる、アバターもどんどんリッチになっていく、というのが両立できると考えています。

 ただここに関しては、本当にマシンパワーが上がっていくことによって解決するところでもあるんですけど、技術の進歩の、一番人類が解決しないといけないソリューション、プロブレムだと思ってまして、イシューだと思ってまして、ここに人類レベルでゲーム業界だったりとか、Webアプリ業界だったりとか、いろんなインダストリーな人たちがそのイシューを解決するために集まって、解決すること自体は人類にとってとても大きな意味があると思っています。それが実現した社会というのが、いわゆる理想のメタバースになっているかなと考えています。

今回のカンファレンスでは、会場が重くなってしまうトラブルもあった。現在clusterでは最大100体のアバターが同時に表示できるようになっている

「こんなのあったらいいよねー」をその場で作っちゃうみたいな世界観がメタバースのあるべき姿

――ワールドクラフトのアップデートについて、今回の発表であった「パブリッククラフト」はフレンドじゃない人とも、バーチャル上でコメントのやりとりをして、簡単にできるものなのですか?

加藤氏:いまのワールドクラフトはプライベートの体験なんです。基本的にはフレンドで、しかも入ってもいいよって人だけが入れる。入っている人たちは誰でもどこでもなんでも置けるという世界観です。

 ですが、現実空間ってどういうふうになっているかっていうと、結構誰でもなんでも触れますよね。現実空間ってそもそも「パブリック」じゃないですか。例えば、リアルのイベント会場で椅子が置いてあるってなったときに、椅子は誰でも触れますよね。というので、誰でも触れて、誰でもそこをいじくりまわせるというのが本来の世界のあるべき姿だと考えています。

 なので、今回の「パブリッククラフト」はどんなものかというと、カフェをメインで作っている人がいるけども、そこに訪れた人たちが勝手にこの辺をいじくることもできるし、もちろんカフェのオーナーが「そんな勝手にいじってくれるな!」となったら、そこを閉じればよいというような体験にするものです。

カンファレンスで発表された新機能「パブリッククラフト」。これまではプライベートな空間で、クラフトに参加できるのも事前に招待されたフレンドだけだった。パブリッククラフトでは誰でも参加できる空間でワールドクラフトが楽しめる

――自由度がより上がった印象ですね。

加藤氏:そうですね。もっと「クラフトする」という体験自体が意識しないものになれたらいいなというのが、僕の考えていることでもあります。

 要するに、現実世界でも椅子を動かすとなったときに、作るモードであるとか、作らないモードであるとかを意識しないわけですよね。そんなところに意識はなくて。本来はバーチャル空間で「この椅子邪魔だな、どかしたいな」と思ったら、いつだってどかせられるべきだと考えています。

 もちろんそれが他の方の迷惑にならないように、というな切り分けはすごく大事ですが、そうなったときにパブリックな空間でみんなが集まって、思いついたらモノを作ったり、拡張してるだったりとか、そこで喋りながら仲良くなった人と「こんなのあったらいいよねー」ってなったときに、その場で作っちゃうみたいな世界観が本来あるべきバーチャルな世界だし、メタバースのあるべき姿かなというのが僕の考えなので、今回パブリッククラフトを発表させていただきました。

――つぎ2023年を目指しての開発について、アバターの表現やAPIなどが挙がっていましたが、もう少し可能な範囲で踏み込んで教えてください。

加藤氏:いまのところは計画であり、まだまだ仕様を策定している最中なので、「具体的にこの機能になります」ということはもうちょっと先にならないとダメなところなのですが、大きい方針としてclusterというサービス自体はクリエイターの方だったりとか、開発者の方がよりハックしてclusterを便利にするような場所になっていけばいいなと考えています。

 clusterはただのコンテンツではないと思っていますし、生活空間くらいの言い方しかできないかなと思っているのですが、最終的に目指している場所がバーチャルの、経済圏の、しかもインフラということを考えると、cluster自体がいろんなニーズに耐えうるようなものになっていってほしいなと思っています。

 というので、clusterのAPIを開放していくだったり、そういったところを整備していくというのを計画していますし、いろんな表現、例えば、いまエモーションを使ったりしてますけど、この辺をいろんな方々が自由にアップロードして使えるようにしたりとか、なんだったらそのモーションデータを売ったりもできるし、あとアバターもまだいろんな制限があるのですが、そこをいろんなふうにいじくりませたりとか、というようなことをどんどんしていきたいなと思っています。

 どんどん自由度があがるし、どんどんハックできるような場所になっていくというのが、clusterの大きく目指したいなと考えている方針です。

カンファレンスで発表された2023年の開発計画。今後もclusterはバーチャル経済圏のインフラを目指して拡張を続けていく

――ありがとうございました。

著者プロフィール:でんこ

バーチャルに活動の場を移したゲームライター。得意分野はビデオゲーム全般だが、最近はメタバースへの関心が強い。
ライターとして様々なメディアで執筆する一方、NPO法人バーチャルライツ公認の第0期VR文化アンバサダーでもあり、メタバース上の活動やメディアでの情報発信を通じてVR文化の魅力を普及させるべく活動中。

・著者Webサイト:https://note.com/denpa_is_crazy/