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未来の生成AIツールを先取り! Adobe最新技術のお披露目会「Sneaks 2023」発表まとめ
アドビが描く「動画生成AI」「3D生成AI」の時代がやってくる!?
2023年10月30日 09:00
10月10日~12日の3日間にわたり、アメリカ・ロサンゼルスで「Adobe MAX 2023」が開催されました。数多くのセッションなどが行われる中、Adobe MAXの中でも人気のイベント「Sneaks」は今年も大いに盛り上がりました。
Sneaksの様子はYouTubeでも配信されていましたが、見逃した方やアーカイブを視聴する時間がない方のために、今年の「Sneaks」で発表された内容をまとめてみました。
Adobe MAXの「Sneaks」って何?
そもそも「Sneaks」って何?という方も少なくありませんよね。
「Sneaks」は、毎年開催されるクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX」の中の人気イベントで、Adobeが研究中の新機能をお披露目するイベントのことです。製品機能に含めるのすら未定の最新テクノロジーの数々がデモンストレーションとともに紹介されます。
Project Fast Fill
Photoshopには、すでに生成AI機能の「生成塗りつぶし」が実装されましたが、「Project Fast Fill」はその動画版です。任意の1フレームで「Project Fast Fill」の処理を行うだけで他のフレームにも反映されます。
ビデオの1フレームに不要な部分を指定してボタンを押すと、Photoshopの「生成塗りつぶし」のように綺麗にその部分が消えます。しかも、ビデオの他のフレームにも反映され、非常に自然な仕上がりになっているのがわかります。
また、Project Fast Fillは不要な部分を消すだけでなく、必要な物をゼロから生成することも可能です。スーツ姿の男性の胸元を選択し、プロンプトに「Tai(ネクタイ)」と入力して生成すると、スーツにネクタイが生成されました。そして他のフレームにも生成したネクタイは反映され、しかもビデオとしても非常に自然です。
Project Draw & Delight
「Project Draw & Delight」は、アイデアのメモとして描いたラフなスケッチなどを、生成AIを使ってちゃんとしたイラストに変える機能です。生成AIを使う際にテキストプロンプトを入力しますが、ラフスケッチなど視覚的なヒントでテキストプロンプトの手助けをします。形だけでなく色やポーズなども反映でき、最終的にはベクター画像として生成することも可能です。
マウスで書いた個性的な猫の絵もプロンプトと共に使うことで、ちゃんとした猫の絵を生成します。
また、部分的に少しだけ色を付ければ配色も提案してくれます。
ほかにも犬や背景も追加し、ここまでちゃんとしたイラストが出来上がりました。
Project Neo
デザイナーの中にも3Dの技術を身につけたい方は多いのではないでしょうか?
しかし、3Dは2Dとはまた違う部分が多く、習得するためには多くの時間が必要になります。「Project Neo」は非常にシンプルに3D要素を2Dの中に取り入れることができます。
デモンストレーションでは、非常にシンプルかつ直感的な操作であっという間に以下のような3Dを制作していました。
完成した3Dはベクターにもなります。
Project Scene Change
「Project Scene Change」は、異なる2つの構図で撮影された動画から被写体と背景を認識し、カメラモーションを同期させて1つの動画に合成する技術です。
AIで動画から背景を切り抜いて3D化し、カメラを自由に動かしてレンダリングできるようにします。その後、もう1つの動画から被写体を切り抜き、違和感のないように影と一緒に合成します。
オフィスで撮影した自撮り動画とバリ島の動画を合成しますが、構図がバラバラで違和感があります。
そこで「Project Scene Change」を使うことで、背景を3D化して違和感のないように合成します。
また、机の上に自分自身を合成するユニークな使い方も紹介されました。手前にあるマグカップに被写体がしっかりと隠れています。
Project Primrose
非常に未来を感じさせる「Project Primrose」は、ドレスにディスプレイを組み込み、Adobe Firefly、Adobe After Effects、Adobe Stock、Adobe Illustratorで作成された作品を表面全体に反映させることができます。
今回のSneaksの中で最も歓声が上がったデモンストレーションではないでしょうか。身に着けたドレスの模様がどんどん変化する様子を見せてくれました。
Adobe公式ブログによると、Project Primroseは家具などの立体物にも応用でき、無限の可能性を手に入れられるとも紹介されています。
Project Glyph Ease
Glyphとは字体のことで、「Project Glyph Ease」は特定のスタイルでデザインされた文字をベクターデータでAI生成する機能です。リファレンスとして使う文字を3つ指定すると、残りの文字がスタイルを合わせて自動生成されます。
3つのリファレンスとなる文字を準備し、それを元に他の文字にスタイルを合わせて生成します。
さらに文字にかじられたような変形を加えて再度処理をすると、すべての文字がかじられたような変形が反映されました。
これは手書きのスキャンした文字でも使うことができます。
Project Poseable
「Project Poseable」は、3Dでキャラクターのポーズを作り、そこにプロンプトを組み合わせることで、イメージ通りの画角やポーズの画像を生成することができる技術です。
デモンストレーションでは、実際に3Dキャラクターのポーズをシンプルな操作で作り、そこからプロンプトと組み合わせて画像を生成していました。
この技術を使って絵コンテなどの大幅な時短が期待されます。
Project Res Up
非常にシンプルですが強力な技術である「Project Res Up」。内容としては低解像度な動画を高解像度に変換する技術です。
デモンストレーションの中で、モノクロの古い映像がくっきりとした高解像度の映像に変換されていました。過去の映像の修復などにも期待が高まります。
Project Dub Dub Dub
動画のコンテンツを世界中に配信したいと思ったことはありませんか?「Project Dub Dub Dub」は、生成AIを使って動画や音声から70以上の言語と140以上の方言の吹き替えを作成する技術です。
日本語で話すオリジナルの動画から、あっという間に複数の吹き替えバージョンを作成していました。しかも話し手の声やトーン、リズムなども同期しています。
Project See Through
「Project See Through」は、撮影した写真からガラスの反射を除去する技術です。写真によってはレタッチでも時間のかかる処理ですが、AIの力であっという間に、そして自然に反射を除去します。
デモンストレーションでは、いくつもの反射がある写真を除去していましたが、なかには非常に複雑に映り込んだ反射の写真もありました。その写真の反射も驚くほど綺麗に取り除かれています。
Project Stardust
「Project Stardust」は、レイヤーを使わずに画像内のオブジェクトを選択して移動し、空白になる部分を塗りつぶすことができます。これにより、撮影した写真や生成AIで作成した画像を直感的に、かつシンプルに編集をすることができます。
デモンストレーションでは、男女が映った写真をレイヤーを使わずに編集する様子が披露されました。
この「Project Stardust」のすごさがわかるデモンストレーションがこちらです。人物が重なった写真を下記のように動かすと、元の写真には隠れていて存在しない部分まで生成します。
「Adobe MAX 2023:Sneaks」まとめ
今年の「Sneaks」も驚く技術ばかりでしたが、なかでもAIを使った新技術が目立っていました。ユニークなものから実用的なものまで、私たちのアプリケーションに実装される日が待ち遠しいですね。
著者プロフィール:パパ
映像制作会社などを経て2017年フリーランスとして独立。現在はSNSを中心にPhotoshopの作品メイキング、チュートリアルを投稿している。複数の写真を使い1枚のアート作品を作るフォトマニュピレーションの動画は200万回再生を超え、現在YouTubeのチャンネル登録者数は約11万人、Twitterフォロワーは約6万5千人。また2022年10月からAdobe Community Evangelistとして 講師やセミナー、メディア出演、書籍執筆などを通しノンデザイナーやノンプロ向けに「作れる面白さ」を精力的に発信している。Twitterは@StudioT_ppp