Blender ウォッチング
無料の3DCG統合環境「Blender 4.2」は『どこでもドア』やシャボン玉の表現が可能に
新しいカラー変換モデル「Khronos PBR Neutral」やUIの改善なども
2024年8月20日 06:55
本連載では、無料の高機能3Dモデリングツール「Blender」の使い方や関連情報を幅広くお伝えします。
7月16日(中央ヨーロッパ夏時間)、「Blender 4.2」が公式リリースされました。本リリースでは、「EEVEE-NEXT」や「エクステンションプラットフォーム」といった大型の新機能があります。
今回は「Cyclesレンダー」の新機能と、その他UIの新機能や変更点についてご紹介したいと思います。
Cyclesの新機能:「レイポータル」、「薄膜」
Cyclesレンダーに新しく「レイポータルBSDF」ノードと、「薄膜」シェーダーが付きました。
レイポータルBSDFノード
このノードは、レイの位置と方向を捻じ曲げ、シーン内の他の場所の映像を出力するシェーダーです。かの有名なゲームである「Portal」のように、穴の向こう側に別の場所の風景を出現させたり、監視カメラのように別の場所のカメラに写っている映像を手元のモニターに表示する表現が可能です。
ポータルの表現
最初の画像のように、穴の向こう側の景色を表現するには、公式マニュアルにシェーダーツリーがあるので、そのまま真似して作成すればいいでしょう。日本語UIで作成した例を下図に掲載します(クリックして拡大)。
マニュアルではドライバーで「位置」と「回転」を制御していましたが、静止画で面倒なら直接値を弄ってしまった方が早いかもしれません。
監視カメラ映像の表現
他のカメラオブジェクトの映像を画像としてレンダリングします。こちらもマニュアルにシェーダーツリーの見本があるのですが、色々端折ってあるため、少し解説します。
具体的にはシェーダーノードでは他のオブジェクトの方向を直接取得できないため、シェーダーノードツリーに加え、「ジオメトリノードツリー」の設定も必要になります。
上記の通り、まず「レイポータルBSDF」ノードを使用・表示したいオブジェクトに「ジオメトリノードツリー」を設定します。ここで[オブジェクト情報]ノードで「カメラオブジェクト」を指定し、「位置」と「回転」情報として取り出し、名前付き属性として「ジオメトリ」に格納します。
次に、マテリアル側に「シェーダーノードツリー」を設定します。ここで[属性]ノードを使用し、ジオメトリデータに格納した属性データから「位置」と「回転」を取り出し、[レイポータルBSDF]ノードに入力します。
[位置]入力は素直に「位置」値をつなげばいいのですが、[方向]入力は「0」から「1」の範囲のUV座標を、「-0.5」から「0.5」にずらしたX、Y座標に変換し、さらにZに焦点距離の係数を入れた三次元ベクトルを、[ベクトル回転]ノードの「オイラーモード」と、カメラから取得した「回転」値で回転したベクトル値を入力しています。
新しいビューカラー変換モデル
v4.1に引き続き、本リリースでも新しいカラー変換モデル(トーンマッパー)「Khronos PBR Neutral」が追加されました。これはe-コマース市場における、業界標準のPBR(Physical Based Rendering:物理ベースレンダリング)用として作成されており、ハイライト周りのHDRのアーティファクトを極力減らしつつ、高速かつ、できるだけ色を忠実に再現することを目的としているとのこと(参考)。
要は商品写真用に最適ということですね。実際、v4.1からデフォルトになった「AgX」と比べて彩度やコントラストが高く、商品が魅力的に見えます。
UIの便利機能
ドラッグ&ドロップによる複数の画像の同時追加
シェーダーノードにエクスプローラーから直接、複数の画像を一度にドラッグ&ドロップできるようになりました。
例えば各成分(ディフューズカラー、ノーマルマップなど)に分かれた画像テクスチャ素材がある時、一度に追加できて非常に便利です。
ダイアログのキャンセルボタン
もうお気づきの方も多いと思いますが、ダイアログにキャンセルボタンが付き、明示的にキャンセルできるようになりました。通常は確定する方のボタンにマウスカーソルが移動するため、特に使用感に変化はないと思われます。
重要な仕様変更
最後に、利用する人によっては重要な機能変更をいくつかご紹介します。
ポータブル化の仕様変更
v4.1まで、「Blender」イントールフォルダー内の「バージョン番号フォルダー」(「4.1」など)の中に「config」フォルダーを作成することで、そちらに設定やアドオンを保存する「ポータブル版」となっていました。
v4.2からはそのルールが変わり、これからは「Blender」インストールフォルダー内に直接「portable」フォルダーを作成することで、ポータブル化するようになりました。従来の方法ではもうポータブル化できませんのでご注意を。
コンポジターの仕様変更
コンポジターのGPUによる高速処理が最終結果でも可能になりました。それと平行して従来のCPUの処理がGPU側に合わせて変更されたため、従来のバージョンでのコンポジターの処理と、v4.2以降での処理結果が大幅に変わる可能性があります。
スペースの都合でここでは解説できないため、日本語訳のWiki版リリースノートをご覧ください。
- ⇨Dev:JA/Ref/Release Notes/4.20/compositor - wiki
- https://wiki.blender.jp/Dev:JA/Ref/Release_Notes/4.20/compositor
終わりに
今回は「Blender 4.2」で導入されたCyclesレンダーの新機能と、その他の新機能や変更についてご紹介しました。他にも記事では書けなかった多数の新機能や変更があります。上記のリリースノートをチェックしてみてください。
ではまた。