Windows新標準アプリ徹底解説

モダンに生まれ変わった「メモ帳」アプリはアクセシビリティにもしっかり配慮

テキストエンジンも刷新されているが、隠し機能を含めた下位互換性は維持

「Windows 11 バージョン 21H2」

 Windows 11で刷新されたインボックス(OS同梱)アプリを紹介する本連載。今回は、みなさんお馴染みの「メモ帳」(Windows Notepad)の改善にスポットを当てる。

 「メモ帳」(notepad.exe)は「Windows 1.0」からOSに付属している息の長いテキストエディターだが、つい最近まではフォントの変更がサポートされたことや、64KiB以上のサイズのテキストファイルを扱えないという制限が取り払われたことを除けば、機能・デザインともに長い間大きな変化はなかった。

Windows 10の「メモ帳」。「Windows 10 バージョン 1809」以降、Linux/Webとの相互運用性強化が図られた

 そんなメモ帳に転機が訪れたのは、「Windows 10 バージョン 1809」(October 2018 Update)のこと。Windows 10上にLinux環境を構築する「Windows Subsystem for Linux」(WSL)が搭載され、Linuxとの相互運用性が課題になったため、それを改善するために多くの機能追加が行われたのだ。

 軽くまとめると、改善点は以下の通りとなる。

  • Linuxの改行コード(LF:0x0A)をサポート。古いMacで用いられていた改行コード(CR:0x0D)にも対応
  • ズーム機能。[Ctrl]+[+]または[-]キーで拡大・縮小。[Ctrl]+[0]キーで等倍に戻す
  • 検索・置換の折り返し。文末まで検索してマッチしなければ、自動で文頭に戻る
  • 選択テキストを「Bing」検索
  • ワードラップ(折り返し)が有効な場合にもステータスバーを表示
  • 大きなファイルを開くときのパフォーマンスが向上
  • [Ctrl]+[Backspace]キーで前の単語を削除
  • 矢印キーはテキストを正しく選択解除してからカーソルを移動するように
  • ファイルを保存しても行番号と列番号が1にリセットされなくなった
  • 画面に完全に収まらない行を正しく表示するように

 また、後継バージョンでもデフォルト保存形式をBOMなしUTF-8に変更するなどの改善が加えられている。これはWeb開発の現場でBOMなしUTF-8が主流となっていることをうけた変更だ。

  • 未保存のテキストはタイトルバー先頭にインジケーター「*」が付記されるように
  • 260文字(MAX_PATH)を超える長いパスを持つファイルを扱えるように
  • [Ctrl]+[Shift]+[N]キー:新しい「メモ帳」ウィンドウを開く
  • [Ctrl]+[Shift]+[S]キー:[名前を付けて保存]ダイアログを開く
  • [Ctrl]+[W]キー:現在の「メモ帳」ウィンドウを閉じる

 このように機能面でのテコ入れが続いたWindows 10のメモ帳だが、デザインに関してはとくにこれといった変化はなかった。

「Fluent Design System」に準拠したデザインへと刷新された「メモ帳」

 Windows 11の「メモ帳」アプリは、基本的な構造こそWindows 10までのものを踏襲しているが、「Fluent Design System」に従ったモダンなデザインになっている。メニューバーはタイトルバーと一体化しているように見えるが、これは共通の「Mica」(雲母)マテリアル効果が施されているためだ。

Windows 10の「メモ帳」。デザインのアップデートのほか、カラー絵文字への対応など、内部的な機能強化が図られる

 このマテリアル効果は不透明で、「Aero Glass」のような半透明効果ほど派手ではないが、色がデスクトップ壁紙からサンプリングされているため、周りとの調和がとれている。サンプリング処理は比較的軽いため、パフォーマンスを大きく損なうこともない。

「Aero Glass」のような半透明効果ほど派手ではないが、パフォーマンスを損なうことなく美しさとデザイン性を高める「Mica」マテリアル効果

 メニューバーは「メモ帳」らしく、キーボード主体の操作も考慮。キーボードショートカットはもちろん、「アクセス キー」にも対応しており、[Alt]キーを押すと各UI要素に「ニーモニック」と呼ばれる英数字が現れ、順に押していくことでUIを操作できる。この機能は伝統的にアクセシビリティを重視して開発されている「Microsoft Office」アプリではすっかりお馴染みの機能だが、本連載で紹介しているインボックスアプリでも完全に対応しているものはまだまだ少ない。

[Alt]キーを押すと各UI要素に「ニーモニック」と呼ばれる英数字が現れ、順に押していくことでUIを操作できる

 [設定]画面はメニューバーの右端の歯車アイコンからアクセス可能。ここではテーマとフォントをカスタムできる。とくにダークテーマへの対応は要望の多かった機能で、低照度環境でもテキストを快適に閲覧できる。

[設定]画面はメニューバーの右端の歯車アイコンからアクセス可能
ダークテーマにも対応

 そのほかにも検索・置換ダイアログのデザインがアップデートされており、シンプルでコンパクトになった。もちろん、前述の「折り返し」にも対応している。

検索・置換ダイアログのデザインがアップデート

 さらに、機能面でもいくつかの改善が施されている。なかでも目玉は、マルチレベル取り消し(アンドゥ、[Ctrl]+[Z]キー)への対応だ。従来の「メモ帳」アプリは一度しかアンドゥできなかったが、Windows 11のメモ帳は何回でもアンドゥできる。メニューバーにコマンドはないが、[Ctrl]+[Y]キーでやり直し(リドゥ)も可能。

マルチレベル取り消しをサポート

 ほかにも以下の機能強化が計られた。

  • [Alt]+[X]キーによるUnicode文字の入力:16進数コードを入力してショートカットキーを押すことでUnicode文字を挿入できる。例)「2260」を入力後に[Alt]+[X]キーで「≠」が入力される
  • [Ctrl]+[}]キーによる対応する括弧へのカーソルジャンプ:「Visual Studio」から取り入れた機能で、(……)、[……]、{……}などで機能する
  • ドラッグ&ドロップ:選択テキストをドラッグ&ドロップで他の場所へ移動
  • カラー絵文字

 こうした機能改善の裏には、テキストエンジンの刷新がある。これについては以前紹介したので繰り返さないが、今後のアップデートの礎にもなるものだ。今後も「メモ帳」の進化に目が離せない。


    https://forest.watch.impress.co.jp/docs/news/1391029.html
「メモ帳」の隠し機能(?)もそのまま
「メモ帳」アプリには、先頭に「.LOG」と記述して保存すると、ファイルを開くたびに自動でタイムスタンプを入力する機能があり、「いつ何をしたのか」をメモしておきたい場合などに役立つ。Windows 11の「メモ帳」アプリは外観やテキストエンジンが刷新されているが、互換性を切り捨てたわけでは決してなく、この隠し機能(?)もしっかり継承している。なくなったのは選択テキストを「Bing」で検索する機能ぐらいだが……しつこいぐらい「Bing」押しのMicrosoftにしては珍しいことだ。うっかり再実装し忘れたのだろうか。
先頭に「.LOG」と記述して保存すると、ファイルを開くたびに自動でタイムスタンプを入力する