石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
WindowsでGoogle Playも使える無料エミュレーターの最新版「NoxPlayerZ」
洗練されたUIは便利ながら、規約などに気になる点も……
2022年9月16日 11:00
Windows 11の機能実装を待つことなくAndroidアプリを使う
Windows 11でAndroidのアプリが動作する「Amazon アプリストア」のプレビュー版が公開されている。Android端末がなくてもAndroidアプリが使えたり、PC上で操作できたりという点から、注目している人は多いだろう。
しかしこのサービスには難点がある。「Amazon アプリストア」は利用できるが、Androidの標準アプリストアである「Google Play」には対応しない。つまり大方のAndroidアプリは使用できないことになる。
実はPCでも、以前からAndroidアプリを使う方法はあった。PC上で動作するAndroidエミュレーターを使うもので、中でも「NoxPlayer」は完成度や互換性が高く人気だ。その最新版となる「NoxPlayerZ」が登場したので、実際に試してみた。
Google Play内外のアプリが動く。PC向けの洗練されたUIも搭載
「NoxPlayerZ」は、香港の企業Nox Digital Entertainmentが開発したAndroidエミュレーター。公式サイトから無料でダウンロードできる。使い方は、ダウンロードしたファイルを実行してインストールするだけ。日本語にも対応しており、何も困ることはない。
インストールが済んで起動すると、ゲームのランチャーのような画面が出てくる。いくつかのゲームアプリが紹介されており、インストールのボタンも見える。試しにトップバナーに入っているゲームの1つ「アズールレーン」のインストールのボタンを押してみよう。
すると別の新たなウインドウが立ち上がり、Googleアカウントのログイン画面が現れた。一般的なAndroid端末と同様の挙動だ。ログインが済むと、Google Play上の「アズールレーン」のページが表示される。ここで再び[インストール]のボタンを押せば、やはりAndroid端末で見慣れた挙動でもってインストール作業が進む。
終わったら[プレイ]のボタンを押して起動。追加データのダウンロードが始まりつつ、ゲームがスタートする。マウスでの操作はもちろん、キーボードに対応したバーチャルパッドも設定されており、キーボードとマウスを併用した操作も可能だ。「JoyToKey」のようなゲームパッドカスタムツールを使えば、ゲームパッドによる操作もできる。
その他のアプリを探すには、ランチャー画面の上にある検索バーにタイトルを入力。Google Playで検索され、一覧できる。出てきたアプリの情報はGoogle Playから引っ張ってきたもので、実際のインストールはGoogle Playの画面で行われる。
例えば「ドラゴンクエスト」と検索すると、関連するタイトルが一覧表示される。位置情報ゲーム「ドラゴンクエストウォーク」も表示され、インストールも可能だ。実際にはPCで位置情報ゲームを遊ぶことはないと思うが、Google Playのタイトルがインストール可能なことはわかる。
さらに、Google Play以外の場所に置かれたアプリ、いわゆる野良アプリもインストール可能。「Google Chrome」をインストールした後、ベンチマークテスト「AnTuTu Benchmark」のWebサイトにアクセスしてAPKファイルをダウンロードすると、一般的なAndroid端末と同様に警告が出てインストールが可能だった。しかもランチャー側にもきちんと登録される。
以前からある「NoxPlayer」は、Androidタブレットの画面をそのまま表示して使うという形。ランチャー的なウィジェットもあるが、補助的な印象だ。「NoxPlayerZ」は、PCでの利用を前提にした専用ランチャーを主体とすることで、使い勝手がよくなっている。
もちろんゲーム以外のアプリも使用可能。普段はiPhoneを使っていて、Androidでしか使えないアプリがある時などには重宝するだろう。ほかにもPCには非対応のメッセンジャーアプリをPC上で使うといった用途も考えられる。意外と便利に使える状況は多そうだ。
アプリによっては規約違反も。「NoxPlayerZ」自体の規約にも不安が残る
ゲームの動作を含め、とても安定して互換性も高く見える「NoxPlayerZ」だが、気になる点もいくつかある。
まず動作については、ベンチマークテストを試したところ、通常ではありえない結果が散見される。ベースがPCなのでおかしくて当然なのだが、ゲーミングPCであればハイエンドスマートフォンを上回る性能を発揮できるというわけでもないようだ。なお、CPUに関しては「NoxPlayerZ」の設定で使用するコア数を選べるので、設定次第でいくぶん改善はするかもしれない。
端末の型番は、標準設定で「Samsung Galaxy Note 10+」となっていた。もちろん偽の型番であり、設定で型番を切り替えられるようになっている。動作上、認証を受けた端末でしか動かないアプリもあるのだろうが、こういう設定があることの是非は問われるだろう。
またゲームによっては、エミュレーターの利用が規約違反とされるものもある。エミュレーターはデータの改造や通信の改変といったチート行為の温床でもあり、特に対戦要素の強いオンラインゲームでは忌避される傾向にある。スタンドアローンで動作するアプリであればそれほど問題はないはずだが、プレイするゲームの規約は目を通しておく方がいいだろう。
「ランチャーで紹介されているゲームなら大丈夫なのでは?」と思うかもしれないが、ゲームの情報は単にGoogle Playから引っ張ってきているだけのようなので、何ら安心材料にはならない。Nox Digital Entertainmentがアプリメーカーと連絡を取って、動作を確認したという感じにも見えない。この点は注意が必要だ。
それ以上に筆者が気になるのは「NoxPlayerZ」の規約の内容だ。第2条の利用規約を要約すると、「規約はユーザーに通知することなく変更でき、変更を発表した時点でユーザーは新たな規約に同意したとみなす」、「規約は中国語で作成され日本語に翻訳したもので、中国語版と相違がある場合は中国語版を優先する」とあり、結構危うい。
また第3条の個人情報の扱いについては、プライバシーポリシーを示すとされるURLの表記がない。利用に際して個人情報の入力は求められないが、Google Playと連携したりすることを考えると不安は残る。開発が香港企業というのも、たとえ現状では問題がなくとも、昨今の世界情勢を見るに将来的には不安を抱かざるを得ない。
以上の内容を勘案すると、「懸念点を踏まえた上で利用は自己責任で」としか言いようがない。Google Playが使えて、洗練されたランチャーがあり、動作の互換性も高いので、Windows 11の「Amazon アプリストア」より便利なのは間違いない。しかも無料だ。いや、無料だから余計に怪しいとも感じるのだが……何とも悩ましい。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/