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【第56回】
フォーマットと原稿用紙
(04/02/23)
窓の杜高校、超パソコン部の部室。
あらあら、めも理ちゃん。今日はちょっと憂鬱そうな雰囲気です。
一体、何があったのでしょう?
読書感想文
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はー。
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どうしたんですか、めも理ちゃん。憂鬱そうにため息なんかついて。
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そうなの。読書感想文の宿題があったのよ。それで原稿用紙に感想文を書いて提出しないといけなかったんだけど、原稿用紙を学校に忘れちゃったの。仕方がないから白紙に適当に書いて提出したら、文字数が数えられないと怒られたのよ。
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めも理ちゃんが怒られるのは仕方がないですね、“フォーマット”していないハードディスクに書かれているデータは読めないのと同じですね。
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はっ? フォーマット? そういえば、ネット上のウイルス情報などを見ていると『ハードディスクをフォーマットする危険性があります』とか書いているのを見かけるわね。一体、フォーマットって何なの?
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そうですね。いい機会ですから、少し説明するとしましょう。
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フォーマット
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めも理と窓太の4コマまんが 「フォーマットと原稿用紙」 |
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めも理ちゃんは、原稿用紙がなかったので、仕方なくまっさらな白紙を使ったんですよね。
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そうよ。白紙といっても、コピー用紙だけどね。
でも白紙は原稿用紙と違って、罫線やマスが書かれていなかったから、書きにくかったわ。やっぱり文章を書くなら、白紙じゃなくて、原稿用紙よね。白紙じゃまともな読書感想文は書けないわ。
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実はハードディスクも、最初は白紙のような状態で、原稿用紙のような罫線やマスが書かれた状態にしないと使えないものなのです。
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はっ? ハードディスクって、パソコンを買ってきたら、何もしないでも使えるじゃない。
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それは、フォーマットという作業をあらかじめ済ませているからなのです。
白紙に直接文章を書いたら書きにくいので、罫線やマスを印刷して原稿用紙の状態にするように、ハードディスクも、最初にフォーマットという作業をして中身を使えるような状態にするのです。
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そうなの、まったく知らなかったわ。白紙の状態のハードディスクに、適当に情報を書き込んだら駄目なの?
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それだと、あとでその情報を探すときに困ることになります。白紙だと、その情報がどこに書いているのか説明できないでしょう?
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うーん、左上の右よりとか? 確かに説明しにくいわね。それに文字数も数えにくいし。
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そうです。コンピューターではあいまいな情報は利用できません。
でも、原稿用紙の罫線のようなものがあれば、“3ページ目の2行目の5文字目”のように情報の場所を簡単に表現できます。その文章が何文字なのかも簡単に分かります。
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確かにそうね。
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こういった状態にハードディスクの中身を初期化する作業がフォーマットと呼ばれる作業なのです。
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なるほど、フォーマットをすれば、白紙が原稿用紙のようになって、ハードディスクが利用できる状態になるのね。
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そうなんです。
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でも、なんでそういった作業が、ウイルス情報などで“ハードディスクをフォーマットする危険性があります”と警告の対象になるの?
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実は、ハードディスクをフォーマットすると、ハードディスクに今まで書かれていた情報が全部消えてしまうのです。まあ、文章が書かれていた原稿用紙を真っ白に塗りつぶし、上から罫線を引き直すようなものですね。
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へー、フォーマットをすると、これまで書かれていた情報が全部消えてしまうの。
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そうです。
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うわ。知らなかったわ。
そういえば、エクスプローラでドライブを右クリックしたら、フォーマットという項目がでてきていたわね。何だろうと思っていたけど、そんな危険な機能だったとは。
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ついでですから、もう少し突っ込んだ話もしてみましょう。実は今話したような原稿用紙を真っ白に塗りつぶして、罫線を引き直すような作業は、物理フォーマットと呼ばれる作業なのです。フォーマットには、この物理フォーマットと、もう1つ論理フォーマットがあるのです。
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論理フォーマット? どういうフォーマットなの?
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論理フォーマットの説明の前に、めも理ちゃんに質問をしますね。めも理ちゃんが原稿用紙1,000ページ分の文章を読むことになったら、まずどこから読みますか?
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うわっそんなの読みたくないわよ。あえて読まないといけないなら、目次から読むかしら、1,000ページ全部を読み通す気力はないわよ。
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実はパソコンも同じことを考えているのです。
ハードディスクが物理フォーマットで読みやすい状態になっていても、全部のデータを把握するのは大変です。そのため、目次を作りハードディスク内のデータの位置を探しやすい状態にする必要があるのです。その目次を作る作業を、論理フォーマットと呼ぶのです。
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物理フォーマットで、白紙の状態のハードディスクに原稿用紙の罫線を引いて、論理フォーマットで、目次を作るわけね。
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そうです。
通常、物理フォーマットはハードディスクが出荷される前に工場などで行われています。Windowsが最初から入っているパソコンでは、論理フォーマットも行われていますよ。
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へー、じゃあWindowsのエクスプローラから実行できるフォーマットは、物理フォーマットと論理フォーマットのどちらになるの?
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これはちょっとややこしいんですね。実はWindowsから行うフォーマットには、通常のフォーマットとクイック・フォーマットという2種類のフォーマットがあり、フォーマットを行う記録媒体によって、その作業内容が異なるのです。
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…はぁ? つまりどういうこと?
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Windowsのフォーマットでは、フロッピーディスクと、それ以外の記録媒体に分けて説明する必要があります。
まずはフロッピーディスクのフォーマット。これは簡単です。フロッピーディスクのフォーマットでは、通常フォーマットが物理フォーマットと論理フォーマット。クイック・フォーマットが論理フォーマットだけになります。
クイック・フォーマットは、論理フォーマットだけ行うので、作業時間は少なく済みます。ただし、あらかじめ物理フォーマットが行われている必要があります。あくまで、目次を作り直すだけの作業になりますので。
それじゃあ、実際どれくらい作業時間が違うか表にしてみましょう。
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通常のフォーマット
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クイック・フォーマット
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1分53秒
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5秒
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へー、相当違うのね。
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それじゃあ、Windowsでのフロッピーディスク以外のフォーマットについて説明しますね。つまり、ハードディスクやMOなどですね。この場合、クイック・フォーマットはフロッピーディスクと同じです。論理フォーマットを行うことになります。
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クイック・フォーマットが同じということは、通常のフォーマットは違うの?
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違います。ハードディスクなどで通常のフォーマットを行った場合、Windowsでは物理フォーマットは行いません。その代わりに、記録媒体上に問題のある場所があるかどうか確認を行います。
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問題のある場所?
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“不良セクタ”と呼ばれる場所です。ハードディスク上にキズなどが発生することにより、データの読み書きが正しく行えない場所のことです。
原稿用紙に例えるならば、鉛筆で誤って開けてしまった穴や、消しゴムで消すときに真っ黒にしてしまったマスがあるような状態を想像して下さい。そういうマスに新たに文字を書き込むと、あとで読めなくなるので困ります。そのため、そのマスに“このマスは使用できません”というシールを貼っておく作業を行うと思って下さい。
フロッピーディスク以外で行われる通常のフォーマットでは、物理フォーマットは行いませんが、代わりに記録媒体上の問題のある場所を探してシールを貼り、書き込み不能にするのです。
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へー、じゃあ“このマスは使用できません”とシールを貼られなかったデータは、そのまま残っているの?
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残っていますよ。
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もしかして、データがそのまま残っているということは、データ復旧ソフトで、データを取り出したりできるわけ?
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鋭いですね。めも理ちゃんの言うとおり、データを取り出すことができます。
ですから、ハードディスクやパソコンを他人に譲る場合には、ハードディスクの中身を完全に削除するソフトを使って中身を削除しておくとよいですよ。
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分かったわ。
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それじゃあ、今回はボリュームのある説明だったので、内容を表にしてまとめておきますね。
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Windowsのフォーマット
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通常のフォーマット
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クイック・フォーマット
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フロッピー
ディスク
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物理フォーマット
(白く塗りつぶして罫線を引く)
+
論理フォーマット
(目次を作り直す)
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論理フォーマット
(目次を作り直す)
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フロッピー
ディスク以外
(ハードディスク
やMOなど)
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論理フォーマット
(目次を作り直す)
+
不良セクタの調査
(使用できないマスを調べて
使わないようにする)
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論理フォーマット
(目次を作り直す)
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あと、補足として、以前説明したハードディスクの説明を元にした、物理フォーマットと論理フォーマットの説明も行っておきますね。
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ハードディスクを土地に例えた場合、物理フォーマットというのは、町に建っている建物を全て壊して、きれいに地ならしをして区画割までするようなものです。
それに対して論理フォーマットは、登記簿を新たに作って、どこの土地にどういった人が住んでいて、どういう建物が立っているかなどを記録できるようにすることになります。
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じゃあ、Windowsでハードディスクをクイック・フォーマットをした場合は、町の登記簿を廃棄して新しい登記簿を作るというわけね。
それから、Windowsの通常のフォーマットは、登記簿の作り直しに加えて、壊れた建物や地盤沈下した土地を立ち入り禁止区域にするという感じかしら。
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そうなります。どちらのフォーマットにしろ、ハードディスクをフォーマットしたら、通常の方法ではファイルを読み込めなくなるということを覚えておけばよいです。
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短過ぎる
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先生に、読書感想文を原稿用紙に書き直せと言われたの。
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まあ、仕方がないですね。
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それで書き直したら、300文字も足りないのよ。
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けっこう足りないですね。何文字の読書感想文だったんですか?
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400文字よ。
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めも理ちゃん。白紙に書いても、いくらなんでもそれは短過ぎることに気づくんじゃないのですか。
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いや、フォーマットされていないと、書かれている情報がどんな情報か正確に分からないものよね。つくづく実感したわ。
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今回出てきた用語の解説
【フォーマット】 ハードディスクやフロッピーディスクなどの記録媒体を、パソコンから利用可能な状態にする作業。フォーマットを行うと、その記録媒体に書かれているデータが全て読めなくなるので注意が必要。
【物理フォーマット】 ハードディスクの全データを完全に消して、どのようにデータを並べるかを決める作業。
【論理フォーマット】 ファイルをどのように記録媒体上に保存するか、また保存したデータの場所はどこかといった、ファイルに関する情報の格納場所を作成する作業。
【クイック・フォーマット】 Windowsで、録媒体に対して行うフォーマット作業。論理フォーマットを行う。
【通常のフォーマット】 Windowsで、記録媒体に対して行うフォーマット作業。記録媒体によって作業内容が異なる。フロッピーディスクのようなパーティション設定ができない記録媒体では、物理フォーマットと論理フォーマットを行う。それ以外のハードディスクやMOなどの記録媒体では、論理フォーマットと、不良セクタを確認して使用不能にする作業が行われる。
【セクタ】 記録媒体上で区切られているデータの最小記録単位。原稿用紙のマスのようなもの。不良セクタとは、ハードディスクにキズなどができ、データの読み書きが正しく行えないセクタを指す。
(クロノス・クラウン:柳井 政和)