【第144回】
SpeedStepとめも理のマラソン
(06/02/27)
窓の杜高校、超パソコン部の部室。
あらあら、めも理ちゃん。今日はとっても疲れているようです。
一体、何をしてきたのでしょうか?
マラソン
|
はあぁ、なんで体育の先生はあんなに怒りっぽいのかしら。
きっとカルシウムが足りていないのね。もっと牛乳を飲むべきよ。
|
|
あれ、めも理ちゃんどうしたのですか?
とても疲れているようですね。何かあったのですか?
|
|
ねえ、聞いてよ窓太。今日は体育の授業で長距離走があってね。
それで、先生が見ているときは走っていたんだけど、先生から見えない場所ではずっと歩いていたのよ。
そうしたら、先生が『ずっと走っていたら、こんな遅いタイムになるはずがない』と怒りだしたの。
|
|
ええ、そうですか。まあ、本当にさぼったんだから怒られても仕方ないですよ。
しかし、走ったり歩いたりという、めも理ちゃんの走り方は、まるで“SpeedStep”みたいですね。
|
|
SpeedStep? 何それ?
|
|
ああ、SpeedStepはちょっと難しい言葉ですからね。めも理ちゃんは知らないかもしれませんね。
よい機会ですから、めも理ちゃんにSpeedStepの説明をすることにいたしましょう。
|
SpeedStep
|
めも理と窓太の4コマまんが 「SpeedStep」 |
|
それでは、めも理ちゃんに質問です。
なぜ、めも理ちゃんはマラソンのときに、走ったり歩いたり、状況に応じて速度を切り替えたのですか?
|
|
それは簡単よ。
体力をなるべく使いたくないからよ。体育の授業なんかで大切な体力を無駄にしたくないわ。
だから、状況に応じてスピードを切り替えて、体力を消費しないようにしたってわけよ。
|
|
なるほど。でも、授業をさぼらないで下さいよ。
実はパソコンでも、めも理ちゃんのマラソンのようにスピードを切り替えることがあるのです。
|
|
えっ、そうなの?
|
|
そうなんです。
それがSpeedStepという、Intel社のCPUに搭載されている省電力機能なのです。
|
|
省電力機能?
どういう機能なの?
|
|
例えば、ノートパソコンをコンセントがない場所で使う場合はどうしますか?
|
|
そりゃあ、ノートパソコンに内蔵されているバッテリーを使うわね。
でも、バッテリーの容量には限りがあるから、あんまり長い時間使い続けられないのが難点よね。
|
|
そうですね。
ノートパソコンがバッテリーで動いているときは、バッテリーの消費、つまり電力の消費をできるだけ抑えたほうがいいですよね。
|
|
そうね。そのほうがバッテリーでの動作時間が長くなって便利だもの。
|
|
実は先ほど言ったSpeedStepというのは、状況に応じて電力の消費を抑えることで、バッテリーでの動作時間を長くする機能なのです。
|
|
えっ、どうやってそんなことをするの?
|
|
まず、パソコンがコンセントから電源をとっているか、それともバッテリーで動作しているか、といった電源の状態が重要なポイントになります。
SpeedStepというのは、CPU自身が電源の状態などを判断して、CPUの動作に必要な電圧や、処理能力を示すクロック周波数を意図的に低下させることで、電力の消費を抑える機能なのです。
CPUについては、以前に教えたことを思い出してくださいね。
|
|
へー、難しいことをしているのね。
|
|
SpeedStepの機能がついているCPUは、状況に応じて電圧やクロック周波数を低下させたり通常の状態に戻したりします。
そのため、ユーザーからはCPUが早く処理したり、ゆっくり処理したりしているように見えるのです。
|
|
あれ、それって、私が体育の時間にやった走り方と似ている気がするわ。
|
|
そうでしょう。
SpeedStepというのは、めも理ちゃんが走る速さを変えて体力の消費を減らしたように、電圧やクロック周波数を変えることで、電力の消費をうまく抑える技術なのです。
|
|
なるほど、そういう技術だったのね。
ねえ、窓太。それじゃあこのSpeedStepという技術では、具体的にはどういう条件で電圧やクロック周波数を切り替えているの?
|
|
パソコンから電源ケーブルを抜いてバッテリーで動作する状態にすることで、CPUの電圧やクロック周波数が下がるようになっています。
しかし、この条件だけで電圧やクロック周波数を切り替えるのは、SpeedStepが採用されているCPUのなかでも少し古い、“モバイル・インテル Pentium III プロセッサ”という種類のCPUになります。
|
|
じゃあ、最近のCPUはどうなってるの?
|
|
新しいCPUでは、電源をコンセントからとっているかどうかだけでなく、CPUの負荷に応じて電圧やクロック周波数を切り換えるなど、条件を細かに判断して消費電力を抑えてくれます。
これは、“拡張版 SpeedStep”(Enhanced SpeedStep)と呼ばれていて、言わばSpeedStepの改良版です。
|
|
拡張版 SpeedStep?
|
|
先ほど説明したSpeedStepでは、CPUの処理能力を完全に低下させて電力を節約していました。
しかし、それではパソコン全体の処理能力が低下してしまいます。
そこで、CPUの使用負荷が高くなるとCPUの電圧やクロック周波数を一時的に上げ、再びCPUの使用負荷が低くなるとCPUの電圧やクロック周波数を下げるという技術が開発されました。
それが“拡張版 SpeedStep”で、PCの処理能力をできるだけ維持しつつ、消費電力も抑える仕組みになっています。
|
|
なるほど、いろいろと頭がいいのね。
|
|
同じようなCPUの省電力機能として、AMD社のCPUに搭載されている“PowerNow!”や、Transmeta社のCPUに搭載されている“LongRun”という技術もあります。
PowerNow!は、電源の状態やCPUの負荷に応じて、電圧やクロック周波数を切り替えますので、“拡張版 SpeedStep”と似た技術です。LongRunは、電源の状態に関わらず、CPUの負荷に応じて電圧やクロック周波数を切り替えて、常に消費電力を抑える仕組みになっているのです。
ノートパソコンを使う場合には知っておくとよい機能ですから、頭の片隅にでも記憶しておいて下さいね。
|
無駄な体力
|
ねえ、窓太。SpeedStepの技術は、生活のあらゆる場面に応用するべきだと思うのよ。
|
|
また、めも理ちゃん、よからぬことを企んでいるんじゃないんですか?
|
|
ものすごく効率的なことよ。
例えば授業中。先生が生徒のほうを見ているときは授業を受けている振りをして、先生が黒板のほうを向いたら脱力する。
ほかには家のお手伝い。お母さんが見ているときは皿洗いしている振りをして、見ていないときはさぼってお菓子を食べる。
そうすれば、無駄な体力を使わずに有意義な時間を過ごすことができるわよ。
ビバ! SpeedStepよ!
|
|
……。
|
|
どうしたの、窓太?
|
|
めも理ちゃんがそれ以上動かなくなったら、風船みたいな体型になりますよ。
|
今回出てきた用語の解説
【SpeedStep】 Intel社のCPUに搭載されている省電力機能。パソコンがコンセントから電源をとっているか、それともバッテリーで動作しているかによって、CPUの電圧やクロック周波数を切り替える技術。
【拡張版 SpeedStep】 SpeedStepの改良版。SpeedStepの省電力機能に加えて、CPUの負荷に応じて電圧やクロック周波数を切り替えるため、PCの処理能力をできるだけ維持しつつ、消費電力も抑えられる。“Enhanced SpeedStep”とも呼ぶ。
【PowerNow!】 AMD社のCPUに搭載されている省電力機能。“拡張版 SpeedStep”と同様に、電源状態に加え、CPUの負荷に応じて電圧やクロック周波数を切り替える。
【LongRun】 Transmeta社のCPUに搭載されている省電力機能。電源状態に関わらず、CPUの負荷に応じて電圧やクロック周波数を切り替え、常に消費電力を抑える。
(クロノス・クラウン:柳井 政和)
|